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声を上げづらい性被害者のリアルをあぶり出す――映画『ブロークン・ヴォイス』監督インタビュー



1990年代初頭。チェコ・プラハの名門児童合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」で起きた性的虐待事件をベースにした映画『ブロークン・ヴォイス』。13歳の少女・ヴァレリエは、15歳の姉・ルチエが所属する世界的に名高い合唱団に入団するが、そこでは35歳のカリスマ的指揮者・ヴィーテクが絶対的な権力を握っていた。海外ツアーのための選抜メンバーを選ぶ雪山合宿にヴァレリエは呼ばれ、合唱団内で存在感を増していく中、ヴィーテクはヴァレリエに接近していく──。



カリスマ的な指揮者が犯した複数の性加害をドラマティックに描くのではなく、一貫してヴァレリエの視点に寄り添うことで、声を上げづらい被害者のリアルをあぶり出している。監督・脚本を手がけ、本作が長編2作目となるチェコの新鋭、オンドジェイ・プロヴァズニーク監督にインタビューした。



――『ブロークン・ヴォイス』は2004年に発覚した名門合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」の性的虐待スキャンダルをモチーフにしています。事件が発覚した時に、監督は率直にどう思いましたか?


事件が起こった直後、その記事を読みました。合唱団もその指揮者も有名だったので、チェコ中で話題になっていました。当時の私はそこまで事件に興味があったわけではなかったんですが、数ヶ月後、たまたまプラハのバーに行ったときのことです。隣に座っていた若い女の子たちのグループの一人の携帯電話が鳴り、彼女は携帯電話をテーブルに立てかけました。すると、みんなで一斉にハモって合唱を始めたんです。歌を電話の相手に聞かせてるわけなんですが、会話から推測すると、どうやらその電話相手はスキャンダルを起こした指揮者でした。おもしろいんだけど、同時に深い闇を見ているようなビザールな感覚を覚えました。数年後、#MeTooムーブメントが起こった時に、そのバーでの出来事を思い出し、あのビザールな光景にインスパイアされた映画を作ることを思いつきました。


――本作を制作するにあたって様々な取材を重ねたそうですが、特にインスピレーションになったエピソードなどはありましたか?


事件の裁判が行われましたが、元合唱団員たちが証言をする中で、指揮者を責める団員とそうではない団員と意見がはっきり分かれていました。事件の詳細より、意見の乖離に興味が湧きました。「なぜそういうことになるんだろう?」と。その後、元合唱団員たちにインタビューしていったのですが、特に参考にした元団員は2人いて、2人とも合唱団の中ではトップクラスのグループに所属していて、指揮者の行動を間近で見ていたんですが、一人は自分のことを被害者だと訴える子で、一人は指揮者の味方をする子でした。他にも似たようなケースがないかも調べていきました。いくつかドキュメンタリーを観て、マイケル・ジャクソンの『ネバーランドにさよならを』や、ジェフリー・エプスタインの事件に迫ったドキュメンタリーを参考にしました。あと、ヴァネッサ・スプリンゴラさんというフランスの作家による『同意』という、ご自身の体験を綴った本を読みました。いずれにしても、特定の個人の実話をベースにした映画ではなくモデルストーリーを作りたかった。それで、架空の姉妹を中心にした脚本を書きました。姉妹のユニークな関係性も本作の重要なポイントです。


──劇中で、指揮者のヴィ―テクが合唱団における絶対的な存在でありながらも、ユーモラスな人間性もあって、愛されてる人物であるかのように描かれているのは、取材を重ねる中で彼を擁護する意見が複数あったからだったのでしょうか?


人はそんなに単純な一枚岩ではないという私の想いから生まれた設定です。性犯罪者は英語で「プレデター=捕食者」と呼ばれ、モンスターのようなレッテルを貼りがちです。そして、性犯罪を犯す指導者はカリスマ性があったり、何かしらの魅力を持っている。おでこに「自分はモンスターです」と書いてあるわけではない。悪と正義の線をはっきりと引けるわけではないんです。「バンビーニ・ディ・プラーガ」の合唱団長は、チェコだったらみんなが知っているので、犯罪者だということが伝わります。でも、他の国の人からすれば、果たして悪なのか、はっきりとはわからない。犯罪者であっても、良いところや魅力を持っていることがある。そういう曖昧さと複雑性を描きたかったんです。最初から、その人が自分に危害を加える人かどうかはわからないわけなので、特に子供たちは用心しなければいけません。そういう曖昧さが性犯罪をややこしくしているひとつの理由でもあります。


――ヴィーテクによる複数の性加害を生々しく描き、ドラマティックに仕上げることもできたと思いますが、一貫してカロリーナの視点で本作を制作したのはどうしてだったのでしょう?


そうしてしまうと、映画のこれくらいの尺で犯罪が発生し、残りの時間を使って、社会ないし主人公がその犯罪と向き合うというよくある映画になる。そうではなくて、その犯罪が発生するまでのさまざまなことを描きたかったんですよね。その環境がどのようなものを内包しているのか、その複雑性、多層性を描きたかった。白も黒もあれば、高揚感も低迷感もあれば、もろさも美しさも卑しさもある。そこから何か素晴らしいものが生まれてくることがあると考えています。経過を描くことで、性犯罪の目撃者も被害者も、なかなか声をあげることができないことが納得できると思うんです。性犯罪の被害と向き合えるようになるまでには何年もかかることが多いです。被害者が13歳、14歳、15歳……あるいはそれ以上の年齢だった場合、自分に何が起きたのか理解するまでに時間がかかることが多い。そういったことをわかってもらえるような構成にしました。繊細さも内包し、相反するさまざまな矛盾を抱き合わせたような情景を描くことでより広い意味での精神的、あるいは感情的な真実をあぶり出せるような作品にしたかったんです。


――以前よりは、性加害の被害者が声を上げやすい世の中になっていますが、今作が公開される意義をどう感じていますか?


私は一人の映画監督に過ぎないので、自分の作品の意義や重要性について語ることはなかなか難しいんです。あくまで観客が判断することです。皆さんがこれまで考えたことがないようなことについて考えたり、これまで理解できなかったようなことが理解できたりするきっかけになったら嬉しいと考えています。私のすべての作品がそうなっているわけではないと思いますが、その目的が達成できていればハッピーです。私自身が本作の脚本と監督を手がけ、登場人物たちの感情をなぞっていく中で、いろんな発見がありました。そうして生まれた作品を皆さんに投げかけることで、例えば被害者を責め立てるような気持ちがストップするのであれば、とても意義のあることだと思います。映画を撮る際には魔法使いのような気持ちになったりしますが、限界はありますので(笑)。


――今作を制作する中で、監督の一番の発見は何だったのでしょう?


当たり前のことだと思いますが、子供が被害者である性犯罪の責任は完全に大人側にあるということです。指導者が境界線を引き、どこにどういったリスクが潜むのかを正しく認識し、正しい行動を取るということが不可欠だと思います。そして、周りにいる大人たちもちゃんと声を上げるべきです。



――『ブロークン・ヴォイス』を観ていて、いかに性犯罪の被害者が声を上げ辛いかということが伝わってきました。


まさにそういった狙いがありました。本当にそうなんです。被害から何年も経って声を上げた被害者に対して、「なぜもっと早く言わなかったの?」と言う人は多いと思うのですが、それができないわけなんです。マイケル・ジャクソンのドキュメンタリーに出てくる中心的な被害者2人はいずれも30代の男性でした。人が自分の過去とちゃんと向き合えるのは、それくらいの年齢なのかもしれません。もしくは自分に子供ができてからとか。いずれにせよ時間が必要なのだと思います。


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【インタビュー・執筆】小松香里

編集者。音楽・映画・アート等。ご連絡はDMまたは komkaori@gmail~ まで

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