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『人のゲームカセット』レビュー:「自分の人生の一部」と思えるような強い感動が味わえるARG



ゲームを中古で購入したことはあるだろうか? 中古でゲームを買うと、そこに前の持ち主の痕跡が残っていることがある。たとえば、ダウンロードコードが使用済みだったり、ゲームの攻略メモがはさまっていたり。


昔はセーブデータがゲーム機本体ではなくゲームソフト側に保存される仕組みだったので、前の持ち主のセーブデータが残されている……なんてことも。


RPGのようにキャラクター名を入力可能なタイプのゲームだと、キャラクター名から、「きっと兄弟で楽しんでいたんだろうな……」などと、前の持ち主の生活をうかがうこともできた。


これは、「中古ゲームならではのコミュニケーション文化」と見ることもできるんじゃないだろうか。とはいえ今の時代だと、個人情報保護の観点からデータが消去されていることが多い。


……しかしながら、今の時代にそんな「中古ゲームならではのコミュニケーション文化」を追体験できてしまうゲームが登場した。第四境界がリリースしたARG『人のゲームカセット』だ!


フリマサイトで購入した中古ゲームから始まる物語体験! 『人のゲームカセット』



『人のゲームカセット』は、ARG……代替現実ゲーム(Alternate Reality Game)と呼ばれるジャンルのゲームだ。本作の販売サイトでは「日常侵蝕ゲーム」という表現を用いている。ARGはここ数年で知名度を大きく伸ばしているゲームジャンルだが、まだまだ知らないという人も少なくない。


そこでまずは、ARGというゲームジャンルから紹介したい。


一般的なゲームは基本的に、ゲーム内の仮想世界を舞台としている。これに対しARGの舞台は、現実世界+仮想世界。現実世界の情報に、ゲーム内の仮想世界の情報を組み合わせつつ、ゲームが展開していく。


たとえば、ゲーム内でとある不穏なSNSのアカウントが提示されたとしよう。このSNSのアカウント自体は、ゲーム側で用意したフィクションだ。ただ、そのアカウントの情報を現実世界の検索エンジンで調べると、昔あった事件について解説したウェブサイトがヒットする。


「現実世界の検索エンジン」と書いている通り、このウェブサイトはゲームの外側に用意されたもの。ただし、その中身自体はゲーム側がゲーム進行用に用意している。ウェブサイト内で事件の正式な名前を知り、その名前をYouTubeで検索すると、不気味な動画が出現する。


もちろん、その動画もゲーム進行のために用意されたもので、内容はゲームとつながっている。……こんな風に、SNS、ウェブサイト、動画サイト、書籍、実際の施設……などなど、現実世界に存在するあらゆるものを組み合わせてゲームが展開していく。


ゲームそのものは架空の存在なので、登場人物や発生する事件などは、もちろんフィクション。だが、現実世界の存在を使って語られるので、実際に自分自身が主人公として体験しているかのような没入感が味わえる。


フィクションとリアルの境界があいまいで、ゲームなのに現実のよう。これが、ARGというゲームジャンルが持つ特徴だ。



▲画像は「第四境界」ウェブサイト


このARGについて、日本における第一人者といえるのが、本作を提供するクリエイター集団「第四境界」。物理的な「財布」を使ったARG『人の財布』の大ヒットをきっかけとして注目を集めており、本作『人のゲームカセット』も、リリース直後に完売した。


筆者はリリース直後の購入バトルに敗北。その後も本作を手に入れるため、実に3カ月待つこととなった。「第四境界」作品は現在そのくらい人気を集めているのだ。


ただ、この人気は「第四境界」だけに留まるものではない。インディーゲームイベントなどに参加すると、ARGジャンルを提供するブースには人だかりができており、ARGジャンル自体が盛り上がっている。


だからこそ、このレビューでは『人のゲームカセット』のみならず、ARGというジャンル自体の楽しさも伝えたい!


なお、『人のゲームカセット』は謎解きがメインのゲームとなっているため、この記事では可能な限りネタバレを回避する。掲載しているスクリーンショットについても、ネタバレにつながる恐れのあるところには、ぼかし処理を入れた。


とはいえ、紹介する上でゲームの流れなど、どうしても避けられない情報もあるので、本作に興味を引かれた人は、記事を読む前にぜひ購入してほしい。買って損はない。


本作は紛れもない傑作だから。



あらためて『人のゲームカセット』について紹介しよう。既に触れた通り、本作は「中古ゲームならではのコミュニケーション文化」を追体験できるARGだ。中古と書いたものの、『人のゲームカセット』という商品としては、もちろん新品。中古というのは、ゲーム内の話。


ゲーム内の設定として、「つねなる光とともに」という中古ゲームを、フリマサイトで購入したという形になっているのだ。「つねなる光とともに」の対応ハードは、「PLAYGATE」。


「そんなゲーム機、聞いたことがないぞ?」と思ったかもしれないが、その通り、そんなゲーム機は存在しない。これも、『人のゲームカセット』というARG内の設定だ。



架空のゲーム機向けのゲームということなら、「つねなる光とともに」というゲームカセットも架空の存在なのか……というと、そんなことはない。ファミコン時代を彷彿とさせる紙製パッケージに、どこかゲームボーイっぽいカセットが、ちゃんと入っている。


とはいえ対応ハードである「PLAYGATE」は存在しない。ではどうやってプレイするのか? いや、そもそもプレイできないのでは?



結論としては、「つねなる光とともに」はしっかりプレイできる。実はこの「つねなる光とともに」のカセットは改造されており、Androidスマートフォンに近づけるとプレイできるのだ。


ちなみに「改造されている」というのは、もちろんゲーム内での設定。実際にはゲームカセット内に非接触型ICが組み込まれているようだ。このため、非接触型ICを事前に対応させなければならないiPhoneでは、別途公式サイトから起動することとなる。


ただ、いずれにせよ「つねなる光とともに」はバッチリプレイ可能。ブラウザゲームとして、タッチ操作でプレイすることができる。



クリアには外部知識が必要? 謎解きアドベンチャーゲーム「つねなる光とともに」


「つねなる光とともに」は、ノベルゲームに謎解き要素を組み合わせたスタイルのアドベンチャーゲームだ。主人公は、猫のような外見の少女と、その友人である少年。キャラクターの名前は自由につけることが可能……だが、実際には特定の名前以外ではゲームオーバーとなってしまう。



「そんなゲーム、ありえないだろ?」と思うところだが、3カ月も待って手に入れたのだから、ここでやめるのも悔しい。そう思ってセーブデータを確認すると、なんと前の持ち主のセーブデータが残っていた。


さすが中古ゲーム! セーブデータが残っているということは、「前の持ち主はプレイできていた」ということなのだから、同じ名前を入力すればプレイできるハズ。そう思って前の持ち主と同じ名前を使用したところ、無事にゲームがスタートした。



ストーリーは、少女と少年が秘密基地で遊ぼうとしていたところ、過去の世界に飛ばされ、人間に禍をもたらす「ケガレ」と戦っていくというもの。ケガレと戦う力をどのように得るか……という点が謎解きパートとなっている。


ただしこの謎解きパート、プレイヤーのひらめきや、ゲーム内の情報だけでは解くことができない。では、どうするのか……ここで思い出さなければならないのが、「本作はARG」という点だ。


現実世界に存在するあらゆるものを組み合わせてゲームが展開する、それこそがARG。したがって、ゲームを進めるためにはゲーム内だけではなく、ゲームの外側に目を向けなければならない。


ゲームの外側……たとえば、パッケージやゲームカセットだ。



そう思ってゲームパッケージを見返すと、「つねなる光とともに」の開発会社のものらしきURLが書かれている。このURLを普通のウェブブラウザで開くと、「つねなる光とともに」の公式サイトへアクセスすることができた。


どうやらここに、ゲームを進めるためのカギがありそうだ。……とはいえ、「つねなる光とともに」は、ゲーム内の世界において、商品として世の中へ発売されたゲームのはず。そんなゲームが、ゲームを進めるためにゲーム外の知識を必要とするなんて、さすがにありえないのでは……?



ゲームの内側と外側! そして過去と現在とで進むストーリー


「そんなゲーム、ありえない」と繰り返し書いてしまったが、実際に「つねなる光とともに」はプレイしていてどこか違和感を覚えるゲームだ。そして、この感覚は間違っていない。


というのも、ゲームが進むことで、ARGのギミックのみならず、物語もゲームの外側へと広がっていくからだ。ネタバレを避けるため詳しくは書かないが、「つねなる光とともに」というゲームの外側には、ゲームが作られた経緯や、ゲーム開発後に生じた出来事といった物語が存在している。


そして、この外側の物語を追ううちに、「そんなゲーム、ありえない」という違和感は、「だからか!」という納得に変わっていく。ゲームの内側と外側、そして過去と現在とに散りばめられた伏線が、一気に回収されていくカタルシス!



伏線回収のカタルシスといえば、優れたアドベンチャーゲームの醍醐味。ただ、本作は単なる「優れたアドベンチャーゲーム」ではない。ARGだ。したがって、伏線回収のカタルシスに、ARGならではの感動が上乗せされることとなる。



物語の外側に現実があり、本当の現実はさらにその外側! ARGがもたらす超・感動


では、ARGならではの感動とは何か。それは、現実と架空の境界があいまいになることが生む、臨場感だ。優れたゲームは高い臨場感を持っていて、思わず自分が主人公かのように錯覚してしまう。


とはいえ、どんなに没頭しても自分が主人公でないことは明らか。我々は心のどこかで、「物語が作られたものである」と理解している。



しかし、ARGはこの「物語が作られたものである」という感覚を揺さぶるのだ。本作『人のゲームカセット』もそう。「つねなる光とともに」というゲーム内ゲームの登場人物はもちろん架空のキャラクターだし、ゲームの外側に配置される「ゲームの元持ち主」や「ゲームの開発陣」も、もちろん架空のキャラクター。


だが、「つねなる光とともに」という作品と、その外側のゲーム内現実世界を行ったり来たりするうちに、ゲーム内現実世界と我々の住む「本当の現実世界」の境界が溶け始める。なぜなら、ゲーム内現実世界が、ただ単に「架空の世界」として描かれているわけではないからだ。


架空のゲームパッケージ、架空のゲームカセット、ゲーム用に作られたウェブサイト、ウェブメールシステム……といった現実的な舞台装置によって、ゲーム内現実世界は「本当の現実世界」の一部かのように描かれている。



現実的な舞台装置によって、ARG内の現実と実際の現実との境界があいまいになっていく。これはARGというジャンルそのものが持つ魅力でもある。ただ、本作『人のゲームカセット』が秀逸なのは、さらにその内側にゲーム内ゲーム「つねなる光とともに」という「完全な架空世界」が用意されている点だ。


あきらかなフィクションである「完全な架空世界」があるからこそ、その外側にある「もうひとつの架空世界=ゲーム内現実世界」については、本当のもののように感じてしまう。ミステリーなどで、あからさまに怪しい人物がいると、もう一人の怪しい人物には注意が及ばなくなってしまうのに近い。



こんな風に、本作は架空と現実の境界を揺るがし、あいまいにすることで、プレイヤー自身が本当に主人公かのような感覚を生み出していく。「つねなる光とともに」の登場キャラクターは、架空の存在でしかない。


その外側に配置されたキャラクターも架空の存在だが、プレイヤーは現実世界と同じような手段で、彼らとやり取りすることができる。しかも、他ならぬプレイヤー自身として!


RPGのように「プレイヤーがキャラクターになる」のではない。プレイヤー自身が、プレイヤー自身のまま物語の主人公となる。だからこそ、押し寄せてくる感動が圧倒的なのだ。



「第四境界」で総監督を務めるゲームクリエイター・藤澤仁氏は、「ドラゴンクエスト」シリーズのシナリオ制作を手掛けてきたという経緯がある。奇しくも「ドラゴンクエスト」シリーズといえば、筆者が初めて「自分が主人公」という感覚を味わったゲームだ。


ファミコンでプレイした初代『ドラゴンクエスト』の主人公は、昨今のRPGの主人公ほど個性が強くなく、またセリフも一切発しない。その上で自分の名前をつけるという要素があったから、「自分が主人公」という感覚を味わうことができた。


スライムを倒して成長し、ローラ姫を救い、竜王を倒したのは、「ゲームを通じて自分が行ったのだ」という感覚がある。ただ、今でもRPGをプレイするたびに、同じように物語の主人公になった感覚を味わっているのか……というと、そんなことはない。


初代『ドラゴンクエスト』から数十年が過ぎ、大量のゲームを味わううち、「自分の名前をつけたキャラクターの物語を鑑賞している」という冷めた感覚へ変わっていったからだ。


だがARGは、そんな冷めた筆者ですら、再び物語の当事者になったような感覚を与えてくれる。とりわけ『人のゲームカセット』では、「自分が主人公」という感覚を鮮烈に味わうことができた。


しばらく売り切れが続いていたが、再販も始まったので、興味を持った人はぜひ購入し、プレイしてみてほしい。「自分の人生の一部」と思えるような、強い感動が味わえるだろう。



(文/田中一広)


(執筆者: ガジェ通ゲーム班)


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