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春木屋の「引き算の美学」が生んだ新境地。恵比寿店限定「皿中華そば」を食べてみた



全国のラーメンを食べ歩くラーメンライター、井手隊長です。


老舗の味には、長い年月をかけて積み重ねてきた「らしさ」がある。

東京・荻窪の名店「春木屋」も、その代表格だろう。“東京の中華そば”といえば「春木屋」を思い浮かべる人も多く、長年にわたって多くのファンに愛されてきた。



そんな春木屋から、ちょっと異色の一杯が登場した。

8月10日から恵比寿店限定で販売されている「皿中華そば」。名前からすると汁なしラーメンを想像するが、食べてみると、これが実に春木屋らしい。それでいて、これまでの春木屋にはなかった新しい一杯に仕上がっている。



この「皿中華そば」は「つけめんTETSU」創業者・小宮一哲氏との共作。実は小宮さんは春木屋ファン歴43年という筋金入りなのだそう。


「小学生の頃、父親に手を引かれて暖簾をくぐったあの日から、僕はずっと春木屋のファンです」


小宮さんはそう語る。自らラーメンを作る側になった今でも、春木屋の味から新鮮な刺激を受け続けているという。


そんな小宮さんが抱いたのが、「もしこのスープの材料を、さらに増やしたらどうなるんだろう?」という好奇心だった。そして試行錯誤の末に完成したのは、通常の約2倍の材料を使った超濃厚なスープ。ところが、その味わいは「あまりにも濃密」だった。


そこで小宮さんが考えたのが、スープを増やすのではなく、逆に減らすという発想だった。


「この感動を、往年の春木屋ファンの皆様にも絶対に届けたい」


その思いから、全体のバランスを極限まで突き詰め、たどり着いたのが「皿中華そば」というスタイルだった。

ここが、この一杯の最大のポイントだ。



通常のラーメンのようにスープをたっぷり注ぐのではなく、皿に少量の濃密なスープを敷き、そこに春木屋自慢のちぢれ麺を合わせる。小宮さんはこれを「スープひたひた」と表現する。


つまり、汁なしではない。かといって、つけ麺のように麺とスープを完全に分けるわけでもない。

実際に食べてみると、その狙いがよく分かる。



春木屋自慢のちぢれ麺に、濃縮されたスープがしっかりと絡みつく。口に入れた瞬間、まず煮干しの濃密な旨味が広がる。しかし、それはまったく濃すぎる感じはない。


そして、もうひとつニクイのがショウガだ。

濃厚な旨味を凝縮した一杯は、食べ進めると味が単調になってしまう可能性がある。そこにショウガを忍ばせることで、後半にさりげない変化を与えている。ふとした瞬間に感じる香りとキレが、濃密な旨味の中に絶妙なアクセントを加える。



個人的に感心したのは、本来スープのあるラーメン店が「別軸の汁なし」を作ったのとはまったく違うということだ。

汁なし用に新たな味を作るのではなく、スープやダシという店のアイデンティティを残す。そして、薄めにスープを敷くことで「春木屋らしさ」をしっかり残しながら、まったく新しい食べ方に仕立てているのが見事だ。


これには、平井駅前の「ラーメン ねぎとん」で小宮さんが作った「汁なしねぎとん麺」の技術が応用されている。スープをなくしてしまえば簡単だが、店の味を残したまま汁なしに近いスタイルへ持っていくには、スープ量と麺とのバランスを突き詰める必要がある。その技術が、この「皿中華そば」にも存分に生かされている。



だから、誰が食べてもちゃんと「春木屋だ」と感じられる。

見た目はいつもの中華そばとは違う。食べ方も違う。それでも、口に入れた瞬間に感じるダシや煮干しの旨味、ちぢれ麺の存在感には、間違いなく春木屋のDNAがある。


「伝統を守る」とは、何も変えないことではない。守るべきものを残しながら、余計なものを削ぎ落とし、新しい形に挑戦する。「皿中華そば」は、まさにそんな一杯だ。


小宮さんが43年間愛し続けた春木屋への思いと、ラーメンを作り続けてきた経験。そして春木屋が積み重ねてきた伝統の職人技。その二つが交わったことで、老舗の新しい可能性が生まれた。

そんな春木屋の「引き算の美学」をぜひ味わってみていただきたい。


荻窪中華そば 春木屋 恵比寿店

東京都渋谷区恵比寿1丁目5−10


(執筆者: 井手隊長)


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