
下水から肥料の原料を回収。
毎日、トイレや台所から流している下水。実はその中に、野菜やお米を育てるための大切な資源が含まれているんです。
兵庫県神戸市では、下水から「リン」を回収し、肥料の原料として再利用する取り組みが進んでいます。

いったい、下水からどうやって肥料が生まれるのでしょうか? 神戸市西区の玉津処理場を訪れ、その現場を見てきました。
下水から肥料の原料を回収!「こうべ再生リン」とは?

リンは、窒素、カリウムと並ぶ肥料の三大要素のひとつ。植物の生育に欠かせない成分ですが、日本では肥料の原料として使われるリンの多くを海外からの輸入に頼っています。
そこで神戸市が着目したのが、毎日流れてくる下水です。全国の下水に含まれるリンは約5万トンと推計され、国内農業のリン需要量(約30万トン)の約6分の1に相当するのだそう。
神戸市は2011年に下水汚泥からリンを回収する研究を開始。現在は東灘処理場と玉津処理場の2か所で取り組みを進めています。
今回訪れた玉津処理場では、2025年3月に新たなリン回収設備が稼働しました。ここで採用されているのが、リンを結晶化させて取り出す方法です。

汚泥に水酸化マグネシウムを加えてリンを結晶化させ、不純物を取り除いたあと、洗浄・乾燥。こうして粉末状のリンが得られます。

これが「こうべ再生リン」です。

下水処理で生まれる汚泥から肥料に使える成分を取り出し、農業に役立つ資源へと生まれ変わらせています。
回収して終わりじゃない! 作物に合わせた肥料も開発
「こうべ再生リン」には、リンのほか窒素やマグネシウムも含まれています。ただ、作物によって必要な成分のバランスは異なるため、農家が使いやすい肥料に仕上げることも重要です。
そこで神戸市は、JA兵庫六甲や兵庫県神戸農業改良普及センター、市内の農業関係者などと連携。農業現場のニーズを踏まえ、再生リンを配合した肥料「こうべハーベスト」を開発しました。

現在は、野菜・花用、水稲用、酒米の山田錦用など、用途に応じた肥料が展開されています。
安全性や品質にも配慮し、年間を通じて成分を安定させるとともに、試験栽培を重ねて従来の肥料と同等の肥効が得られるよう改良を続けてきました。
単にリンを取り出すだけでなく、農家が実際に使える肥料へとつなげているのです。
野菜やお米、そして食卓へ。地域で資源を循環させる
「こうべハーベスト」は、神戸市内の農家などで使われ、キャベツやダイコン、レタス、ブロッコリー、スイートコーンなど、10種類以上の野菜やお米の栽培に役立てられています。
さらに、こうして育った農産物は「BE KOBE(ビー コウベ)農産物」としてブランド化され、商品として販売されています。

BE KOBE 農産物を使用したお弁当
下水からリンを取り出して肥料をつくり、その肥料で育った野菜やお米が市民の食卓へ。それらを食べ、使った水が再び下水に戻ることで、資源を地域内で循環させる仕組みが成り立っています。

下水を「流して終わり」にしない神戸市の挑戦
神戸市は今後もリン回収設備を整備する方針です。東灘処理場では増設工事が進められており、2027年度には市内3基目となる設備の供用開始を予定しています。
リンの供給量は年間200トンから300トンへ拡大し、将来的には需要を見ながら年間500トンを目指す計画も示されています。
毎日流している下水に、農業や食料生産を支える資源が含まれているとは、普段なかなか意識しないもの。
下水をきれいにするだけでなく、そこから資源を取り出し、農作物づくりへとつなげる神戸市の挑戦。身近な暮らしの中に、資源の新たな生かし方が見えてきました。
