空から降り注ぐ雨がもしも命を奪う脅威と化したら? “強酸”の雨が人も家も街もすべてを溶かしてしまうサバイバルスリラー『ACIDE/アシッド』が8月30日より公開。Netflix映画『群がり』(21)でデビューを果たし、長編2作目となる本作で文字通り“逃げ場のない”恐怖を観客に突きつけたフランスの新鋭ジュスト・フィリッポ監督のオフィシャルインタビューが到着した。
物語は、離婚した元夫婦とその10代の娘を中心に描かれる。気候変動で歴史的猛暑に見舞われるフランスに異様な雲が出現し、強力な酸性雨が降り始める。元夫婦の二人は寄宿学校に預けていた娘を助け出し、安全な避難場所を見つけ出そうとするが、街はすでにパニック状態に陥っている。水道は危険な雨水に侵され、電力も失われ、人々が身を隠す車や建物にもじわじわと雨が侵食していく……。
過度なVFXを使わずリアリズムを狙ったという本作では、ゆっくり時間をかけてチリチリとすべてが溶けていく様が描かれており、「もしもこれが自分に起こったら」と考えずにはいられない生々しさだ。新型コロナウイルスの出現で“世界が一変する”経験をした現代人には、こういった脅威がより現実的なものとして感じられることだろう。
フィリッポ監督はインタビューで、あまりにもショッキングなこの作品の始まりや、視覚的なインスピレーション、サウンドのこだわりなどについて語っているほか、日本の観客に向けてハイテンションなメッセージも送ってくれている。ストーリー上のネタバレはないため、映画の鑑賞前にもどうぞ。
ジュスト・フィリッポ監督インタビュー
――企画の始まりについて教えてください。
本作のアイデアは、何年か前にパリを離れて小さな町に行ったとき、運良くジャンル映画の脚本家レジデンスに参加することになったのが始まりでした。そこで私は、自分の最大の恐怖となり得る出来事、つまり“死をもたらす酸性雨”のアイデアを思いつき、練り始めました。まず短編『Acide』(原題)を制作した後、『群がり』(20)という映画の監督を依頼され、”恐怖”というジャンルをさらに深く探究することができました。そして、短編『Acide』を再考し、自然災害がひとつの家族だけでなく社会全体に及ぼす影響について語る、より長い物語として開発し始めました。
――酸性雨は、現在地球で起きている様々な危機のメタファーとして描いたのでしょうか?
イエスでもありノーでもありますね。共同脚本家のヤシン・バッデーと私は、コロナ、ウクライナ戦争といった危機を目にするたび、自分たちが取り組んでいるテーマを再認識してきました。酸性雨は、説明せずともそうしたことを語られるモチーフです。私にとって映画は合理的な説明を避けることが重要ですし、今日の危機のように非合理的に描き続けるべきだと思っていました。遠い南米で発生した奇妙な雲が、突如ヨーロッパで災害を引き起こすと観た人に感じさせたい。時事問題は、議論や説明のトラップに陥ることなく、可能な限り現実に留まらせてくれます。
――人間が溶ける描写がとてもリアルで恐ろしかったのですが、こだわった点などを教えて下さい。
溶ける描写というのは、非常につらい現実を見せたかったという意図があります。あくまでも私のつくっている映画は娯楽に終わらない、観て楽しいということで終わるのではく、自然の脅威や環境の破壊といったテーマを、真面目な取り組みとして描いているということを分かっていただきたかったんです。映画を観た方が、本当に衝撃を食らうぐらいのショックを体験していただきたいという意図があったので、ショッキングな映像、シーンというのも盛り込みました。
――音の表現にインパクトがありましたが、どのように作り上げましたか?
音響に関しては今回本当に良いチームに恵まれました。この脚本を作っている段階で、既に私の中に具体的な音のイメージというのがあったので、それを説明しました。例えば雨がどのような音で、どのように打ちつけているのかまで、すべてイメージが浮かんでいたんです。非常に恵まれたチームとともに、音響を突き詰めて、こだわって、現実により近いものを観客の皆様に提供したいという想いで作り上げていきました。
――視覚効果も実に説得力があります。
アメリカの偉大な写真家ソール・ライターは、私が尊敬する写真家の一人です。彼の持ち味である窓ガラスについた雨滴、メタリックな質感など、私たちは彼のスタイルを真似しました。本作は比較的彩度のある世界から始まり、徐々に色彩を失い、最終的にはほとんどモノクロの世界で終わります。そしてグラフィストたちが質感を施し、より広い破壊のイメージを作り上げました。私は美術監督のグウェンダルに、人間と大災害が作り出した“新しい自然”を作ってほしいとリクエストしました。例えば彼らが避難する家の中でも木の根や植物の存在が欲しかった。そして、映画撮影の文法に用いられるような劇的なクローズアップは排除し、力強く、広いアングルのショットを用いる選択をしました。
私はいつも、アメリカ映画を作っているのではなく、ロシア映画を撮っているんだとスタッフたちに言ったものです。エレム・クリモフ監督の『炎628』(85)は、私のトラウマ映画のひとつで、参考にしました。また、ジョナサン・グレイザー監督の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(13)のように、観客に美学を感じてほしいのです。私が提案するのは、逆説的で、無駄なく厚みのある映画であり、親密であり壮大、簡潔でありながらディテールに富んだ映画です。
――最後に日本の観客へメッセージをお願いします。
この映画を日本で受け入れてくださりありがとうございます。心からのお礼と感謝を抱くとともに、すごく光栄です。是非、日本の皆様に映画館に足を運んで、映画を観ていただき、その後の感情を皆さんで共有する体験をしてほしいです。最後に、ピープルシネマジャポネ。日本映画万歳! 世界中の映画万歳! フランス映画万歳! そして映画館万歳!
『ACIDE/アシッド』
8月30日(金)TOHO シネマズ シャンテ他全国公開