俳優として多彩な作品で活躍中の前田敦子さんが、国内外の映画祭で高い評価を受ける三島有紀子監督の映画『一月の声に歓びを刻め』に主演しました。本作は監督⾃⾝が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフに「性暴⼒と⼼の傷」という難しいテーマに挑み、⼼の中に⽣まれる罪の意識を、静かに深く⾒つめる作品となっています。
⼋丈島の雄⼤な海と⼤地、⼤阪・堂島のエネルギッシュな街と⼈々、北海道・洞爺湖の幻想的な雪の世界を背景に描く、罪と赦しの物語。“れいこ”役の前田さんにお話を聞きました。
■公式サイト:https://ichikoe.com/
●本作は、三島有紀子監督⾃⾝の体験がモチーフになっているとのことですが、前田さんご自身はどの点に惹かれて出演されたのでしょうか?
三島監督の人生の大事な一部分をスクリーンを通して新たな物語として届ける、その一部になれることは喜びで、わたしでいいのかととても悩みました。
でも、三島監督がそういう挑戦をされる、ということが理由ですね。特に今回は自主制作でやられるということだったので、その姿勢もお聞きしつつ、本当に三島監督だったから、です。でなければ、こういう内容のものを自分が引き受けちゃいけないかなって、わたしだったらよくないなと簡単に思っていたと思うんです。
●完成した作品を観ていかがでしたか?
人は絶対に何かしらを抱えているものという見方を脚本の時点からしていたので、主人公はかわいそうだ、みたいに思われたくはなかったんです。そのことは、監督もおっしゃっていました。だからこそ誰かの心の奥に閉まっているトラウマ、ショッキングな出来事に対して優しく寄り添ってくれる作品だなって思いました。
●前田さんご自身も役柄に対して優しく寄り添ってる感じが伝わってきていたので、今おっしゃってることの意味がとてもよく分かりました。
ありがとうございます。うれしいです。独りよがりみたいな感じに見えてほしくないなと思っていましたので。
●これは三島監督にお聞きすべきことかも知れないですが、監督自身はこの映画を撮ったことで何か少し昇華されるものなどはあったのでしょうか?
三島監督の言葉でとても印象に残っている一言があって、「この作品が出来上がったからといって、何かが楽になったわけではない」とおっしゃっていたんです。でも、それくらいやっぱり深いものだったっていうことなんですよね。想像を超えるものだったと思うんです。
●「凄く過酷な撮影でした」と資料にありましたが、撮影を振り返ってみていかがですか?
大阪・堂島で実際に撮らせていただいて、都会から離れていたんです。わたしは普段、子供がいるのですが、子供から離れた環境で撮影をしていたので、6日間くらいですかね、ぎゅっと濃厚な時間だったんです。なのでわたしにとってしっかり向き合った時間になりましたし、みんなでぎゅっと集中できていたので、とてもいい現場でした。
●最後になりますが、映画を観るみなさんへメッセージをお願いします。
完成した作品を観た時に、三島監督の集大成みたいな感じがしました。三島監督って映画が頭の中にいっぱい入ってる、図書館みたいな方なのですが、三島監督が今まで触れてきて感じてきた映画の世界みたいなものを、存分に生かしてこの作品を作っているんだって、感動しました。なので、映画好きとしても感動できる作品だし、そういう風にも楽しめる作品になったと思います。
■ストーリー
北海道・洞爺湖。お正月を迎え、一人暮らしのマキの家に家族が集まった。マキが丁寧に作った御節料理を囲んだ一家団欒のひとときに、そこはかとなく喪失の気が漂う。マキはかつて次女のれいこを亡くしていたのだった。それ以降女性として生きてきた“父”のマキを、長女の美砂子は完全には受け入れていない。家族が帰り静まり返ると、マキの忘れ難い過去の記憶が蘇りはじめる……。
東京・⼋丈島。⼤昔に罪⼈が流されたという島に暮らす⽜飼いの誠。妊娠した娘の海が、5年ぶりに帰省した。誠はかつて交通事故で妻を亡くしていた。海の結婚さえ知らずにいた誠は、何も話そうとしない海に⼼中穏やかでない。海のいない部屋に⼊った誠は、そこで⼿紙に同封された離婚届を発⾒してしまう。
⼤阪・堂島。れいこはほんの数⽇前まで電話で話していた元恋⼈の葬儀に駆け付けるため、故郷を訪れた。茫然⾃失のまま歩いていると、橋から⾶び降り⾃殺しようとする⼥性と出くわす。そのとき、「トト・モレッティ」というレンタル彼⽒をしている男がれいこに声をかけた。過去のトラウマから誰にも触れることができなかったれいこは、そんな⾃分を変えるため、その男と⼀晩過ごすことを決意する。やがてそれぞれの声なき声が呼応し交錯していく。
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(執筆者: ときたたかし)