朝井リョウ氏による同名小説を、監督・岸善幸氏✕脚本・港岳彦氏のタッグと稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、磯村勇斗さん、佐藤寛太さん、東野絢香さんのキャストを迎え映画化した映画『正欲』が大ヒット上映中!
家庭環境、性的指向、容姿――様々に異なる背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的な物語を映画化するのは、『あゝ、荒野』(2017)、『前科者』(2022)などを経てその手腕にさらに期待が高まる演出家・岸善幸氏と、原作を大胆に再構築しながら監督の演出の可能性を拡げていく脚本家・港岳彦氏。
このふたりのタッグにより、いわゆる「当たり前」ではない生活を送る人たちの人生を大胆な演出表現をもって映像として浮かび上がらせ、2023年、日本映画最大の意欲作が誕生しました。
神戸八重子(かんべ・やえこ)を演じる東野絢香さんに、東京国際映画祭で観客賞と最優秀監督賞をW受賞するなど公開前からずっと話題となっていた本作の魅力についてお話を伺いました。
「見ないようにしていた部分を言語化されたような衝撃」
――朝井リョウさんのベストセラー小説の映画化となりますが、原作や脚本を読んだ印象をお聞かせください。
東野:自分が今まで見ないようにしていた部分を、言語化されたような衝撃を感じました。
言葉のひとつひとつが痛くて、でも希望があって、ページをめくる毎に身体の重力が増していく印象でした。
自分がそうだったのと同じように、きっとこの作品に救われる方はたくさんいるのだろうなと感じて、より覚悟が決まったのを覚えています。
――コンプレックスや人と違う性的指向など多様性が題材となっており、様々な視点から物語を見ることができると思います。東野さんが興味深いと感じたところや共感する部分はありましたか?
東野:特定的な事は言葉にしづらいですが、登場人物の目線や呼吸ひとつひとつに、自分の記憶が重なりました。
人それぞれ思考や環境が違う中で、自分の生きづらさを他者に伝える機会はあまりなくて。
でも、あの時自分が感じていた酸素の薄さは、もしかしたら大切なあの人も感じていたのかもしれないなと感じたり。
登場人物達の表情に、大切な人達の顔がよぎりました。
――本作は第36回東京国際映画祭でコンペティション部門観客賞と最優秀監督賞のW受賞となりました。周りからの反響、作品を観た感想など、東野さんにどのような声が届いていますか?
東野:とてもたくさんの素敵な感想を頂きました。どの感想も定型文でない瑞々しい言葉で、この作品を人それぞれの感性で受け止めてもらえた事が、とても嬉しいです。
初めて会う方にも「正欲の!」と言って頂いたり、たくさんの方に観て頂けて本当に幸せです。
――神戸八重子をどのような人物だと捉えて演じましたか? ディレクションを受けたことなどあれば教えてください。
東野:顔合わせの際に「八重子はもしもなにかひとつでも違えば、全く違う人生を歩んでいた人だと思います」とお話をしました。
社会を生きる中で摩擦が生じて、生きづらさを抱えてしまった人だと感じました。
自分自身も、そしてきっと多くの方も、八重子のような危うさを抱えて毎日戦って生きているのだと感じます。
――八重子にとって、諸橋大也はどのような存在だと感じますか?
東野:八重子にとって大也は、初めて「自分から深く関わりたいと欲した人」だと感じました。八重子の人生の中で、大也と対峙したあの瞬間は、もしかしたら人生の中で唯一、一番心を開いて人と向き合った時間だったと思います。
――また、八重子は彼との出会いを通して自分自身に変化が訪れたと思いますが、今後どのように生きていってほしいですか?
東野:月並みですが、幸せになってほしいです。
もし幸せになれなくても、幸せになる事を諦めないでいてほしいです。
――撮影で印象に残っていることがあれば教えてください。
東野:毎日の撮影のひとつひとつの情景を、今でも鮮明に覚えています。
空気や温度、光や音、佐藤さんの発する声や岸監督の目線。
最後のシーンを撮る前に、大きな講堂の一番後ろの席から、撮影陣の皆さんを見渡せて「ここにいることは奇跡だから、やれる事は全部やろう」と決意したのを覚えています。
――劇中ではとある指向が物語を繋ぐ鍵となって描かれますが、東野さんは何か固執しているものはありますか? ついやってしまう、我慢できない、などエピソードもあれば教えてください。
東野:喫茶店フェチです。外に出たらほぼ必ず、喫茶店に行きます。
喫茶店→仕事→喫茶店という日も少なくありません。
眠れないまま空が白み始めた日は、泣きそうになりながらモーニングを食べに行ったりもします。
情報の多い生活から避難できる、大切な場所です。
――本作や八重子との出会いにより、東野さん自身の考えに影響や変化は起こりましたか?
東野:より作品のために、ということを意識するようになりました。今までもその意識はあったのですが、やっぱり初めて出会う人と作品を作るのは緊張して萎縮したり、逆になにかを残さなければと空回りしたりする事も多くありました。
でも「正欲」の皆さんと出会って、役者班という担当を任せられたのだから、自分の持ち場の最大限の事をやろうと、より強く感じました。
自分自身の非力さや不安など、私情は家に置いてきて、作品のためになにが出来るかを、より意識するようになりました。
――東野さんはコンプレックスや生きづらさを抱えている、感じている部分はありますか? また、もし過去に克服したことがあれば教えてください。
東野:私は昔から、人と関わる事があまり上手ではありません。言葉の選び方が分からなくて、そのくせ熱い気持ちは止まらず、人とのコミュニケーションに悩む日々でした。
ですが、東京に出てきてすぐに友人に「どんなに素晴らしい景色を見ていても、それを人に伝わる言葉で伝えないと分からない」と教えてもらって、そこからとても言葉を大切にするようになりました。今でもこの言葉は適切だったのだろうかと不安になる毎日ですが、丁寧に言葉選びをしています。
――本作をどんな人に観てもらいたいですか? 推薦ポイントも教えてください。
東野:生きづらさを感じている人や、まだ平気だと誤魔化せている人。
工夫している人や、真正面からぶつかっている人。
眠れない夜を過ごした人や、喫茶店に避難している人。
そして、そんな人達の大切な誰か。
作品を観て頂き、賛否両論様々な感想を頂けたら、とても嬉しいです。
そして、ひとつでもなにか皆さんの記憶に残る瞬間があればと、願っております。
是非、観て頂きたいです。
――ありがとうございました!
[撮影:周二郎]
作品情報
映画『正欲』
大ヒット上映中!
【ストーリー】
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。
ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。
<キャスト>
稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇斗 佐藤寛太 東野絢香 山田真歩 宇野祥平 渡辺大知 徳永えり 岩瀬亮 坂東希 山本浩司
監督・編集:岸善幸 原作:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊) 脚本:港岳彦
音楽:岩代太郎 主題歌:Vaundy『呼吸のように』(SDR)
製作:murmur
制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給:ビターズ・エンド
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(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会
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