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ドラマ『季節のない街』池松壮亮&仲野太賀インタビュー「時代の変化に置いていかれそうになる人々を、宮藤監督なりのやり方で救ってくれた」


宮藤官九郎さんが、企画・監督・脚本を務めるディズニープラス独占配信ドラマ『季節のない街』が全10話配信中です。

本作は、宮藤監督が長年温めてきた企画で、山本周五郎さんの小説「季節のない街」の映像化。黒澤明監督によって『どですかでん』のタイトルで映画化され、1970年に公開されたことでも知られる不朽の名作です。この傑作小説をベースに、本作では、舞台となる「街」を、12年前に起きた“ナニ”の災害を経て、建てられた仮設住宅のある「街」へ置き換え、現代の物語として再構築している。希望を失いこの「街」にやってきた主人公が、「街」の住人たちの姿に希望をみつけ、人生を再生していく青春群像エンターテイメントとして描いています。

本作で、本作の主人公で、街の住人を観察し、それを報告して収入を得るために街に潜入した半助こと田中新助を演じている池松壮亮さん、半助を街の青年部に引き入れるタツヤを演じる仲野太賀さんにお話を伺いました。

みんなが“あの街”で同じ熱量を持って、濃い時間を過ごせた

――本作大変素晴らしかったです。ありがとうございました。配信後の感想などはお2人のもとに届いていらっしゃいますか?

池松:ありがとうございます。嬉しいことに良い感想をたくさんいただいていて、両親や、仕事の関係者の方など、たくさんの人に楽しんでもらえてるんだなと実感する日々です。

仲野:僕も何人もの友人から「観たよ」と感想が届いて、「面白くて一気見したよ!」とか、観た人の熱量を感じています。去年の12月から今年の2月まで寒くて大変な撮影だったのですが、こうやってたくさんの方に届いていることを感じると、参加出来て良かったなと嬉しく思います。

――思い出はたくさんあると思うのですが、撮影はいかがでしたか?

池松:ドラマの設定上では、半助が来てから街が無くなるまで1年間という時間ですが、撮影はおよそ2ケ月半かけて行われました。あの期間2ケ月半、あの街の人たちと撮影チームと過ごした記憶がしっかり残っています。そのことが演じる上でも大きな力になりました。みんなが良いムードを持ち込みそれぞれが力を注ぎながら、この物語のもつ力と混ざり合い巻き込まれていきました。3人の監督たちと、街の住人たち、それからカメラの後ろにいたみんなでこの物語を作り上げることができたことを、改めて誇りに思っています。

仲野:一つのロケ地で2ケ月以上の時間をかけて、みんなで撮影するというのは贅沢なことですし、同じ熱量を持って濃い時間を過ごせたことが本当にありがたいですね。

――池松さんと仲野さんの共演は本当に久しぶりですよね。

池松:同じ作品にいることはありましたが、同じシーンで共演することって、20歳ぶりです。

仲野:NHKのドラマ(2010『終戦特集ドラマ 15歳の志願兵』)以来ですよね。

池松:17歳くらいから知っていて、太賀のことはずっと観てきましたし、普段からよく会っていたので、対俳優というよりも、身内が現場にいる感覚でした。はじめは太賀が目の前で真面目にお芝居しているだけで笑ってしまいましたが、撮影中、どれだけ疲れても、「太賀、見たことないくらい最っ高のシーンにしようぜ」っていうと「オスカーとりましょう!」とか言ってくれるんです。オスカーって映画の賞であってドラマの賞ではないんですけどね(笑)、そんな俳優太賀以外いません。ほんとに心強かったです。

仲野:僕は何か悩みがあればすぐに相談していて、兄貴的な存在です。プライベートでずっと交流があったので、僕は最初だけ気恥ずかしさがあって。でもはじまってしまえば、俳優同士としてしっかり時間が作れました。宮藤さんが脚本・監督ということももちろんですけれど、僕にとっては壮亮君が主演ということがすごく大きくて。とても良い時間が過ごせました。

「自由かつとても真剣」共演者への感謝

――作品の中では、渡辺大知さん演じるオカベが加わり、3人の時間が多いですね。

池松:渡辺君としっかりした共演は初めてでしたが、数回会ったことがありました。太賀が渡辺君と仲が良かったこともあり、、3人のムードを作るまでにそこまで時間はかかりませんでした。何より心がとても良く、真面目で物作りに真摯な2人だったので、3人でいる時間はとても心地が良かったです。

仲野:本当にこの3人で出来て嬉しかったですね。

――荒川良々さん、皆川猿時さんなど宮藤さん作品の常連さんもさすがの存在感を持っていらっしゃいました。

池松:もちろん力はそれぞれ圧倒的で、何より皆さん本当にお芝居に真心のある方々でした。リハーサルからずっとお芝居を楽しんでいる姿を見せてもらいました。それを若者、青年部としてどう引き継いでこの物語を引っ張っていけるのか模索しました。

仲野:自由さがありますね。

池松:自由かつとても真剣で。真剣な大人ってカッコ良いですよね。太賀は休憩中だいたい寝てますけど。

仲野:「いつも寝てるな」って言われてしまいました(笑)。『季節のない街』というタイトル通り、街が主役で、そこに住んでいる人たちがみんな強烈で個性豊かで。素敵な俳優さんたちが集まっていますよね。僕自身も一俳優として、タツヤとして、刺激をいただいていました。学ぶこともたくさんありましたね。ワンシーン、ワンカットの中で色々なアイデアを出し合って挑戦をしているので、プロフェッショナルの集まりだなということをまじまじと見せ付けられました。

池松:宮藤さんともアイコンタクトだけで意思疎通していたり、共にユーモアに真剣に取り組む姿勢が、とてもカッコ良かったです。

――私は猫がすごく好きなので、予告を見た瞬間に「ベーコンだ!」(トラを演じている猫)と嬉しくなってしまって。

池松:ええっすごい!ベーコンは本当にすごかったですよ。俳優は言うこと聞かないこともあるんですけど、一番言うことを聞いていたと思います。太賀より全然良い子だし。

仲野:(笑)。

池松:ふてこくて可愛くて。現場でみんなメロメロでしたね。現場のアイドルでした。太賀も現場のアイドルですけど。

仲野:僕は壮亮君に比べると一緒のシーンは少なかったですが、どっしりしていて可愛かったですね。僕とトラが一緒にいると、やっぱりどちらが可愛いかってなっちゃうんで…(笑)。

池松:みんなベーコンよりでしたけど、僕にとっては太賀の方が可愛いんです。僅差で。

仲野:現場のアイドルとしての熾烈な争いがありましたね(笑)。

宮藤さんの脚本が持つ「究極のバランス感覚」

――作品を拝見して、辛かったり過酷な状況をすごくカラッと描写している所がすごいなあと感じたのですが、台本にもその明るさというのは書かれていたのですか? それとも、台本自体はすごくシリアスだったのでしょうか。

池松:(明るさは)ありました。脚本の段階から、この国の痛みをはらみながらも、この街の、失った人たちの営みをどうユーモアを持って語るのかということに重きをおかれていました。

仲野:セリフの肌触りというか、あたりはユーモアに溢れていてマイルドさがあるのですが、描かれている物語の根底には社会的風刺であったり、太いテーマが流れていて。究極のバランス感覚というか、宮藤さんの脚本を読む度に唸るしかないというか。この作品に限らずですけれど、毎回すごいなと思わされます。本作では特に震災を真正面から扱っていますので、宮藤さんの脚本の秀逸さが際立っているなと感じました。

――明るくて楽しくて優しいのですが、グッと辛さを感じる部分もあって。この感覚は観た方にしか分からない部分もあると思うので観た後にすごく人に薦めたくなりました。

池松:ありがとうございます、僕もそう思いますし、そう言っていただけると嬉しいです。

仲野:観た方がどんどん広めてくれたらと願います。

――お2人がこれまでにご覧になってきた宮藤官九郎作品で、特にお好きなもの、思い入れがあるものを教えてください。

池松:これまでの映画やドラマは言わずもがな。近年で言うとたまたまWOWOWで観た『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』がものすごく面白くて印象に残っています。普段舞台をあまり観る機会がないので尚更だったのかもしれません。コロナ禍という苦難に反撃するような圧倒的なパワーとユーモアとヒューマニズムがありました。映像作品はたくさん拝見していきましたが、舞台ではこんな事をしていたのかと、とても感銘を受けました。こないだ太賀が出ているウーマンリブvol.15『もうがまんできない』も拝見してきましたが、それもまた面白くて元気をもらいました。どれだけのアイデアを持っているんでしょうね。

仲野:思い出の宮藤さん作品は『マンハッタンラブストーリー』(2003)です。取材とかでもよく言っているのですが、クドカンフリークなんです。小学生の時に初めて覚えたクリエイターの名前が“クドカン”なので。『マンハッタンラブストーリー』のDVD BOXもお年玉で買って。他にもたくさんDVDを集めています。こんな風に作品に呼んでいただける前に、舞台でご一緒したことがあって、とにかく宮藤さんの作品が好きですとプレゼンをしたこともあって。これも持ってます、あれも持ってます!って(笑)。僕らの世代って多くの人が宮藤作品に影響を受けていると思います。

3人の監督が紡ぐ“明日への活力”になる物語

――本当にたくさんの魅力的な作品を作られていて、どれが好きかというだけで語れますよね。『季節のない街』には横浜聡子さんと、渡辺直樹さんも監督として参加されていますが、宮藤さんとはまた違うアプローチがあったかと思います。

池松:アプローチも強みも違って面白かったです。横浜さんは第3、7、8話を担当されていて、センシティブな回が多い中、抜群の映像センスと独自のユーモアでこの作品を引っぱってくれました。あえてあげるとすると、僕は全編通してオカベっちが春夏秋冬を歌う水辺のシーンが一番好きかもしれないですね。渡辺さんも助監督を兼任しながら、6話と9話というこの物語において実は最も重要な回ふたつを情熱と気迫を持って見事に作り上げてくれました。

仲野:良かったですねえ。

池松:『戦場のメリークリスマス』の「Merry Christmas Mr.Lawrence」に匹敵するような、「かっちゃん、誕生日おめでとう」が胸に刺さりました。美しくて、悲しくて、優しくて、泣けました。

仲野:宮藤さんはご自身で脚本を書かれているので的確に演出をされるのですが、横浜さんと渡辺さんも同じくらいの情熱を注いでくれて。一つの物語、一つのシーンを良いものにしようという気合をすごく感じました。渡辺さんは本作が演出デビューになるので、そういう意味でもとても気合が入っていましたし、助監督さんでもあるので全シーンを見ている想いの強さを感じました。そんな渡辺さんの姿に、僕たち俳優もついていこうと思えました。

――素晴らしいお言葉をありがとうございます。配信ということもあり、長い間じっくり皆さんに愛される作品になっていくのだろうなと、一ファンとしても願っています。

池松:この物語はきっと、時代の変化に置いていかれそうになる人々を、宮藤さんが宮藤さんなりのやり方で救ってくれたのだと思います。みんないつか街がなくなることを知りながら共に暮らし、そして街に別れを告げて、明日からまた生きていくということ。今日で全てが終わり、今日で全てが始まるということ。この時代の大きな転換期に、優しさと悲しさと、苦しさとあたたかさと、様々な感情を見捨てずにすくいとってくれました。

仲野:観た方によって捉え方も違うと思いますし、全然違う感想が出てくると思います。でも、この「街」を好きになってもらえたら一番嬉しいです。宮藤さんの書くセリフの一つ一つに僕ら俳優も励まされながら演じさせてもらいました。観てくださった方の明日の活力になってくれたら嬉しいです。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

『季節のない街』
原作:山本周五郎「季節のない街」
企画・監督・脚本:宮藤官九郎
出演:池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知/三浦透子、濱田岳/増子直純、荒川良々、MEGUMI、高橋メアリージュン、又吉直樹、前田敦子、塚地武雅、
YOUNG DAIS、大沢一菜、奥野瑛太、佐津川愛美/坂井真紀、片桐はいり、広岡由里子、LiLiCo、藤井隆、鶴見辰吾、ベンガル、岩松了
監督:横浜聡子、渡辺直樹 音楽:大友良英 撮影:近藤龍人 美術:三ツ松けいこ
照明:尾下栄治 編集:宮島竜治、山田佑介 録音:山本タカアキ 衣裳:伊賀大介、立花文乃 ヘアメイク:寺沢ルミ
■配信:ディズニープラス「スター」で全 10 話独占配信中

【ストーリー】”ナニ”から12年―― この街には、”ナニ”で被災した人々が身を寄せる仮設住宅があった。
今もまだ、18世帯ものワケあり住人が暮らしていたが、月収12万超えると「即立退き」とあって、皆ギリギリの生活を送っていた。主人公の田中新助こと半助は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大一万円!」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ ”ナニ”によって何もかも失い、ただ生きているだけの男だった。しかし、ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうち半助は次第に、この街の住人たちを好きになっていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめるのだが……。

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