殺人ピエロ“アート・ザ・クラウン”の凶行を描く『テリファー 終わらない惨劇』が6月2日よりいよいよ公開。特殊メイクアーティストでもあるダミアン・レオーネ監督のオフィシャルインタビューをご紹介する。
レオーネ監督が短編作品にも登場させていたアート・ザ・クラウンを長編映画で描いた『テリファー』(16)。人間を真っ二つに“ギコギコ”する衝撃シーンがあったが、続編にあたる今回の作品では殺人描写がよりグロテスクにパワーアップ。スプラッター映画ファンにはワイワイと楽しめる範疇ではあるものの、アメリカ本国での公開時に「吐いてしまった」などの口コミが広がり、公式SNSが注意喚起の声明文を出したことで更に話題になった。
今回のインタビューでは、本作がバイラル的に広まった過程や、アート・ザ・クラウンのキャラクターへのこだわり、一作目の“ギコギコ”シーン誕生秘話、特殊メイクアーティストを経て映画監督になった自身のルーツなどについてたっぷり語られている。読めば本シリーズへの愛着が深まること間違いなし。『テリファー 終わらない惨劇』の鑑賞前にもどうぞ。
ダミアン・レオーネ監督 インタビュー
画像:ポーズがキマっているダミアン・レオーネ監督 お部屋には『処刑教室』(Class of 1984)のポスターが
――『テリファー 終わらない惨劇』が本国でヒットした実感はありますか?
レオーネ監督:すごくポジティブなリアクションで、アメリカのコミュニティが皆気に入ってくれて、プレミアのあった週末から「気持ち悪くなった」とか「吐いてしまった」「気絶した」などの口コミがSNSでバイラルに広がって、“観ないといけない一本”という形になっていったんです。宣伝的に仕掛けた訳ではなく自然発生的に起こりました。それがさらに波及して、ハワード・スターンや朝の番組に名前が出たり招待されたりして、そこからどんどん広がってワクワクしました。
――「気持ち悪くなった」「吐いてしまった」「気絶した」などの反応は予想していましたか?
レオーネ監督:ここまでとは予想していませんでした。もともとアメリカのスラッシャー系のホラー映画はR指定などの検閲を受けて上映されるものが多く、検閲を受けずに上映されるものは少ないです。でも僕はもともと検閲を受けずにやろうと思っていたので、バイオレンスの表現も今までの限界を突破するよう意識していましたし、作っているときからこれは観ている人が気持ち悪くなったり、途中で観るのを諦めてしまう人が出てくるかもとは思っていました。
レイティングがない形(!)でアメリカでワイドに上映されていたので、普通のホラーファンが検閲の入っている他の映画を観るような感覚で観に行くと、やっぱり驚いてしまう部分があったと思います。最初は週末のみの限定公開の予定でしたが、あまりに反応が良かったので、どんどん拡大公開していきました。
「ペニーワイズはジョークを飛ばしまくるけれどアートは一切声を発さない」
――監督は一貫してアート・ザ・クラウンを描いていますが、なぜこのキャラクターに惹かれるのでしょうか?
レオーネ監督:ホラーに必要な要素をすべて持っているキャラクターだと思います。フレディやマイケル・マイヤーズやジェイソンと同じように、見たときにハッとするような印象に残るデザインのビジュアルで、スラッシャーなシーンや色々な工夫が凝らされた殺し方など、アートは私たちが求めるものをしっかり届けてくれます。ダークなユーモアを持ち合わせていてカリスマ性がある。それと同時に真に怖いところもあり、私たちが予想できない行動をする。彼のユーモアに思わずクスっとした後に、目を閉じたくなるような非常に恐ろしいことする。かと思えばまた面白いことをする。そういう一緒に時を過ごすのが楽しい存在だからだと思います。
――アート・ザ・クラウンが全く声を発さないのは?
レオーネ監督:こだわりです。小さいころからホラーキャラだとフレディも大好きだけれど、ジェイソンやマイケル派で、声を発さない殺人者の方が好きだったんです。原始的でコミュニケーションが取れないのがまた怖さを生んでいるように思えて、よりモンスター味が強いと思います。台詞を書かなくていいから脚本家としてはラクですし(笑)。あとキラークラウンの王様でもあるペニーワイズとの差別化でもあります。色味を抑えて、ピエロの象徴である丸い鼻も使わない。ペニーワイズはジョークを飛ばしまくるけれどアートは一切声を発さないことで差別化を図りました。
――キャスティングのポイントは?
レオーネ監督:短編でクラウンを演じてくれたのは役者ではない僕の親友なんです。昔から弾痕などの特殊メイクを試させてもらうような関係で、短編はそんなに演技の必要はないので彼にお願いしていましたが、長編となるとやはり役者さんにということでオーディションをしました。
僕が探していたのは瘦せ型で長身の人。6人目にデヴィッド(・ハワード・ソーントン)が入ってきて、二つの資質に加えてニッコリとした笑顔をしていて「彼だ!」と思いました。特殊メイクをして演出をすればきっと彼がアートになると確信しました。例えば、「首を切り取るシーンを楽しそうに演じて」と言うと、そこでスイッチが入ったようにアートに見られるユーモアが出てきて、ジム・キャリーの『グリンチ』のような不思議な動きなども見せてくれた。「完璧だ!」と思い、それ以降のオーディションの人には会いませんでした。そしてカメラワークと特殊メイクを実際に施して演じてもらい、彼に決めました。彼は、素晴らしいフィジカルな面白みを出せるミスター・ビーンやキートン、ジム・キャリー、マルクス兄弟と同じものを持っています。それがアートの変わったところや味になっているんじゃないかなと思います。
「自分で特殊メイクできるスキルがあるというのは大きかった」
――『テリファー』には80年代ホラーの魅力を感じますが、監督が影響を受けた、好きな作品は?
レオーネ監督:ロメロ、カーペンター、クレイヴン、フーパーはもちろんのこと、ホラー以外でもスコセッシ、キューブリック、スピルバーグ、タランティーノからはずっとインスピレーションをもらっています。ホラーの方達にはとても分かりやすい形でオマージュを捧げたりしているので、「あ! これかな?」と分かってもらえてるんじゃないかなと思います。
――『テリファー』一作目のギコギコシーンはどう思いついたのですか?
レオーネ監督:僕らが作っているのは低予算のスラッシャーホラー映画で、ハリウッドのバジェットのある作品と競わなくてはならないときに、ハリウッドで見られるようなものを作っても仕方ないので、今まで描かれなかった見たことのないようなものってなんだろうと考えました。
そこで中世の拷問史を調べていたところ、実際の拷問で逆さ吊りにして両側から左右2人がかりで大きなノコギリを持っているスケッチを見つけたんです。これはホラー映画でも見たことがないから、途中でカットすることなく全部その行為を見せる、しかもオールドスクールのエフェクトでやったら、ゴアファン、ハードコアファン、一般の方はもちろん、絶対今まで見たことのないものになるんじゃないかなと思いました。実際決め手はこのシーンだよねという声も大きかったです。
――表現に関しては、ご自身が特殊メイクアーティストでもあるからこその発想があるのでしょうか?
レオーネ監督:それは間違いないですね。普通にやろうとするとメイクさん10人がかりくらいの作業なのですが、私がやれば素材費を払うだけでギャランティが必要ない。本当は払うべきですが(笑)。自分で特殊メイクできるスキルがあるというのは大きかったです。自分でできるというのもワクワクしましたが、もともと自分が映画にハマったきっかけが特殊メイクなんです。7歳のときにトム・サヴィーニのドキュメンタリーをVHSで観て、その中でロメロの70年代や80年代のゾンビものの特殊メイクをしているのを見て、これを終生の仕事にしたいなと思いました。それが特殊メイクアーティストを経て映画監督になったきっかけです。
――『テリファー 終わらない惨劇』のシエナはとても魅力的なキャラクターでした。また『テリファー3』の構想はありますか?
レオーネ監督:実はアートよりも自分が生んだキャラクターの中で一番シエナが好きなんです。自分自身や自分の二人の姉妹などの現実の要素がこのキャラクターには入っていて、シエナの物事に対して不安になるような部分も実は自分から来ています。僕はヴィランも好きだけど同じくらいヒーローも大好きで、アートに見合うだけのヒーローがやっと生まれたかなと思っています。アートが作品の頭の方で大きく変わったように、シエナも作品の後半で自分を超越するような変化があったので、これからシエナがどうなっていくのかを追っていきたいと思っています。もちろんアートも出てきますが、これからもシエナはたくさん出てくることになります。
――監督が怖いものはなんですか?
レオーネ監督:特には思いつかないけれど、人ですかね(笑)。通りすがった人が本当はサイコかもしれないですよね。そういう意味では人間が一番怖いかもしれません。
(インタビュー後に改めて)
これを言うと皆驚くのですが、例えば手術の映像とかリアルライフの暴力は僕は耐えられないんです。年を重ねるごとにどんどん無理になっていく。だから避けるようにしています。フィクションではゴア描写が全然大丈夫なんです。どうやって創ったらいいかメカニズムを分かってるからかもしれません。
――日本の作品で好きな作品、影響を受けた作品は?
レオーネ監督:ホラーファンなら三池監督の『オーディション』は皆好きだと思います。あとありきたりになってしまいますが、黒澤明監督の『蜘蛛巣城』『乱』『用心棒』『七人の侍』や、タランティーノ監督の『キル・ビル』なども僕は好きです。黒澤明監督の血の使い方は壮大でオペラチックで、僕の描く血がワーっと飛び散るようなイメージも黒澤明監督へのちょっとしたオマージュというか、影響を受けた部分だと思います。ストーリーテラーとしてもすごく力強いものを持っていて、すごいビジュアルセンスもあり、アメリカのファンはアイドルとして崇めているような方です。皆、彼の爪の先位でも才能が欲しいと思うような尊敬する映画作家ですね。
――今後の展望は?
レオーネ監督:実は自分のヒーローであるサム・ライミの制作会社でオリジナルホラーの企画開発中なんです。まさに今夢が叶っている最中という感じです。
――これからご覧になる日本の皆さんにメッセージをお願いします。
レオーネ監督:日本の皆さん、監督のダミアン・レオーネです。『テリファー 終わらない惨劇』が6/2に公開されるのでぜひ映画館に見に来て下さい。なるべく吐いたり気を失わないようにがんばって下さいね(笑)。
『テリファー 終わらない惨劇』
6月2日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて公開