現在イギリスで公開中の、インタラクティブフィルム『The Gallery』(ザ・ギャラリー)を劇場で体験してきた。
「インタラクティブ」とは、直訳すると「相互に作用する」「対話式の」という意味。その名の通り、シーンごとにゲームのように選択肢がスクリーン上に表示され、観客が多数決で選ぶことによってストーリー展開やエンディングが変わるという映画だ。
すでにNetflixで『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』などのインタラクティブ映画は配信されているが、劇場で上映されるのはまだまだ新しいという状況。PCの画面ではなく、リアルタイムでどのように観客の意思をリアルタイムで反映させるのかということが気になり鑑賞してきた!
あらすじ
本作は『The Gallery: 1981』と『The Gallery: 2021』の2パターン作られており、時代背景・主人公や登場人物の性別は異なるが基本設定は同じ。
小さなギャラリーのキュレーターである主人公が、ポートレイト作品の展示会のための準備をしていると、営業終了後にもかかわらず怪しげな人物がギャラリーに侵入する。その人物は突如、主人公をモデルにポートレイトを描きたいと言い出すが――。
どちらも時代設定に合わせたイギリスの時勢を反映しており、1981年版ではマーガレット・サッチャー政権時の政治、2021年版ではコロナ禍という設定で描かれている。政治的・文化的にも大きな波が押し寄せた2つの時代を背景に、ギャラリーに侵入してきた人物の“本当の目的”を探るというサスペンス・スリラーだ。キュレーターの主人公は、1981年版は女性で2021版が男性。侵入者も同じように2つの時代で男女が逆になっており、どちらも同じ役者が演じている。
実際に観てみた ※ネタバレあり
私が鑑賞したのは、2つのバージョンを連続上映後+監督と主演2人のQ&Aがある上映会。インタラクティブフィルムとして一番気になる多数決の取り方は、まさかのサイリウムライト!そして、観客が選択肢を選べるように操作するのは手動という具合だった。
予告にもあるように、今後の分岐点になるようなシーンで「YES/NO」などの選択肢が表示されると共に画面が一時停止。「YES」「NO」などの文字が順番に光っていき、自分が進めたい選択肢が光っている時にサイリウムを振るという仕組みだ。明らかに投票数に差があった場合はもちろん多数決で決定だが、一目でわからないような状況の場合はランダムで選択されるとのことだった。
ストーリーについては、恐らく選択の結果を問わず特別新しさを感じるものではなく、基本的にギャラリーの中だけで展開されていることもあり平坦な会話劇になってしまっていたように思う。観客に行動を選択させるというシチュエーションを用意するために、サスペンスでありながらも状況を説明する描写が多く、選択が絡む部分以外は少々退屈に思えてしまったというのが正直な感想だ。
上映後のQ&Aでは監督と主演の2人が登壇。監督によると、1981年版では12通り、2021年版では6通りのエンディングが用意されていたとのこと。ギャラリー内の主演2人を取り巻いて殺人事件に発展するのだが、選択によって登場人物の誰が生き残るかも反映されていくとのことだった。
また、選択によってストーリーが変わった場合には「選択が反映されました」などと画面上に表示される仕組みになっており、「自分の選択の結果がどのように反映されたかわかることでゲームのようにも楽しめるようにしたかった」と監督は語っていた。
どちらも約10人程度の登場人物がいる中で、それぞれ生き残れるか殺害されてしまうかどうかが観客の選択によって影響されるため、特にほぼ全てのシーンに関わる主演2人が撮ったパターン数は実際に一度の上映で観る何十倍にも及ぶといい、撮影の大変さも明かしていた。
今回私は観客数が多い回に参加したこともあり、観客が何を選んだかで笑い合ったり、満場一致の選択があったりと、鑑賞中の空気に一体感を感じることができる瞬間は多く、何よりこの劇場体験がインタラクティブフィルムの醍醐味ではないかと思った。
もちろん全ての上映回にたくさんの人が入るとはもちろん限らないし、選択の方法がアナログだったり、上映中は常に手動で動かさなければならないなど、一般的な普及までにはたくさんの課題があると感じた。それでも新しいことをしようと試みや、劇場でしかできない体験ももたらそうとする動きなどは映画業界の今後を左右する大きな要素だと思うので、インタラクティブフィルムの今後を見守っていきたいと思う。
また、『The Gallery』は日本語字幕付きで、Xbox、PS4、Nintendo Switch、Google PlayストアもしくはApple Appストアにて配信中。
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(執筆者: waiwai)