どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
以前、違法薬物や金塊、銃器、ワシントン条約違反の動物などを日本国内に運ぶ『運び屋』の記事を執筆しましたが、先日は覚醒剤に関する、とある事件がニュースやネットを騒がせました。
・覚醒剤、金塊などヤバいモノを運ぶ“運び屋”! プロが使うその手法とは?
https://getnews.jp/archives/3198741
先日、昨年11月東京都福生市のアパートで覚醒剤の販売が行われるという事件が起こりました。容疑者である男(58)には、自宅アパートで覚醒剤購入目的で訪れた男性に対し、10,000円で覚醒剤およそ0.3グラムを譲り渡した疑いがかけられています。
令和3年1月14日の警視庁の発表によると、容疑者の男は家宅捜索(ガサ入れ)にやってきた捜査員に対し、「探せるもんなら探してみろ」などと挑発。しかし、冷蔵庫内に注目した捜査員が、入っていた缶コーヒーを手に取ると重心が不自然なことに気がつき、覚醒剤を発見。覚醒剤は液体が入ったままの缶コーヒーの中。石膏で固め、底ぶたが外せる細工が施されていて、パケ(小分けにされた薬物)が隠されていたということです。男はそこで現行犯逮捕されました。
さらにこのアパートへ出入りしていた男7人を覚醒剤所持の容疑で逮捕。その後、覚醒剤の仕入れルートなどを追及しているそうです。
今回は、海外から持ち込まれた薬物が売人に行き渡ったあとの「薬物の隠し場所」について、元売人のS氏(51歳)からその仰天手口を伺いました。はてさて、どのような手口でプッシャー(売人)や中毒者はブツを隠すのか、警察はそれをどう見つけるのか、とくとお聞きください。
客層はサラリーマンや主婦、水商売、大学生が増え続けている
丸野(以下、丸)「最近の覚醒剤売買の市場はどうですか?」
S氏「今でもやっている(売人)ヤツがいうには、緊急事態宣言とかまん延防止措置があって、リモートワークやリモート授業でヒマになった会社員やパートの主婦、大学生なんかが増えているそうだよ。大学生に蔓延したことで、最近では高校生にも売人がいるらしい。半グレの真似事がしたくて出入りしているうちに、先輩面して下級生なんかに売りつけているそうだし。そこから、さらに中学生に……。ひと昔前の元売人感覚のオレとしては嫌な広がり方だよな」
丸「ということは、売り上げも上昇しているということですか?」
S氏「コロナ前の3倍。加熱式の電子タバコにシャブを混ぜてリモート会議中に使っているヤツとか、マグカップにシャブを混ぜたストロングチューハイを入れて飲みながら仕事しているヤツもいる。どうしようもないよね」
今まで見てきた売人の「薬物隠し場所」とは?
丸「売人って、どんなところに商品(薬物)を隠し持っているものなんですか?」
S氏「密輸に比べたら売人には苦労があまりない。海外から密輸する場合は、樹脂に覚醒剤を溶かしてスーツケースの内側にみせたり、輸入ワインに溶かし込んだり、コルク片にたっぷりと染み込ませたり、大変だよ。すごく巧妙化で。売人はいたってシンプル。自分の身近な場所には隠すことはないよ」
丸「身近な場所ではない、と言うと」
S氏「強制執行が緩い自治体なら近所にある所有者不明の廃屋の床下とか、繁華街のロッカーとか、駐車場に無断投棄してある動かせない廃車の中とか、雑木林の中とか、使われてない朽ちた物置とか、そんなところ。駅のロッカーはマトリ(麻薬取締官)が防犯カメラを監視しているから使うのはご法度」
丸「よりリスクが低いところに隠すんですね。それに、駅周辺はやはり危険なんですね」
S氏「ヤツらが目を光らせているところにはできるだけ近づかない。組織に所属しているのであれば、そこが一棟借りしているトランクルームとか、幽霊会社のオフィスとかに隠すよね。借りている名義なんて闇バイトのやつが名義貸ししているから、全部そいつのせいになる」
少し留守(懲役で不在)にするだけでシマを取られる
丸「身近じゃない場所は取りに行くのも一苦労ですし、ひょっとすると無くなっているリスクもあるから、面倒ですね」
S氏「まぁ警察は売人の情報を把握しているから、できるだけ自分に関係のない場所に隠す。分散させて多少ブツが目減りしたとしても、販売目的で実刑を食らうよりはいいよ。自分が担当していたシマが出てきたときにはなくなっているなんてこと、ザラにあるしね。オレも一度、自分が受け持ってたシマがイラン人の巣窟になっていて、ムカついて上ごと潰してやったんだよ」
丸「は、はぁ……そうですか……」
S氏「あいつらは日本のルールを知らないから薬屋の場を荒らす。掟もルールもない連中だからね。不法滞在や薬物の売買が発覚して国外退去させたいのに、イラン大使館はイラン人を帰国させる旅券の発給を拒否してるとも聞くし、治安の上で、かなり心配されているよ」
ジャンキーは様々な工夫をして薬物を隠す
丸「使用しているお客の方はどうなんでしょうか?」
S氏「薬物中毒になっている人間は、なにより薬が手元にないといけない。だから、自室に隠していることが多いよ。例えば、米びつの中や風呂の天井ダクトの中、押し入れの天井裏なんかは当たり前として、掃除機のゴミパックの中、パソコンのキーボードの下とか、ソケットの差し込み口が細工してあったりとか、ACアダプタの中身とか、ブラジャーの中、畳の下、乗用車の底に貼りつけた磁石式キーボックスなんてのもある」
丸「覚醒剤でアタマがボォ~っとしていても、やはりそこに必ずしまっておくんですね?」
S氏「キメてるときは、出したそのまんまだよ。踏み込まれたら即アウトだよね。でも、わきまえているヤツはいちいち隠すね。言動がおかしくなってきたヤツは身内の密告でバレる。おかしくなってくると手を焼いてしまって通報されたり、家族が更生してほしいと通報したり、バンバンやってるやつを見て嫉妬した貧乏なシャブ仲間が通報したりする。そこに敏感なヤツは出しっぱなしにはしない」
丸「ほほう」
S氏「変わったところでは、子供用自転車のサドルの穴、1階駐車場のタイヤ止めの中、二重底になった庭にある家庭菜園のプランターの中、玄関先のツバメの巣の中、インターフォンの中、干してある下着の中、季節飾り(クリスマスツリー、鏡餅、ひな人形、五月兜など)、仏壇の位牌の中、ゴミ袋なんてのもある。でもどちらにしてもバレるけどね」
丸「すごく用意周到なのに、なぜですか?」
S氏「自宅に隠してある覚醒剤なんかは、実際に薬物を探す担当と住人の様子を観察している担当の2名で手を組んで探すわけ。容疑者の反応を見てね。隠し場所付近を捜索されたら、不安で目が泳ぐし、どうしてもそこを見てしまう」
丸「ああ、なるほど」
S氏「驚いたのは、自分の親が入院している花瓶の中や老人ホームの照明の中に隠しているという猛者がいたこと。本当にシャブ中ってのは、罰当たりだよ。寝たきり爺さんのそばがら枕の中と布団の中にも忍ばせてたヤツもいるんだから。よくやるよ」
─この後も、S氏の話を数十分伺いました。
何らかの薬物を所持しているという疑いでパトカーに乗せられた知り合いの売人はその場の状況を逆手に取り、隠し持っていた薬物をパトカーのシートの隙間に隠し入れて、証拠を隠滅したという話。さらに、任意同行で薬物を持ったまま警察署に連行された別の売人は、噛んでいたチューインガムでパケ(小分けされた袋)を取調室の机の裏に貼りつけた、という話が続きました。ちなみにその薬物についてはバレなかったそうです……。
このように、現在では巧妙に薬物を隠している売人や使用者が後を絶たず、捜索をする警察官の勘と実力が試されている状態が続いています。日々、薬物と闘う警察関係者にエールを送りたいと思います。そして、一般の皆さん、絶対に薬物に手を染めないようにしてください。手を出したが最後、あなたの人生はすぐに終焉を迎えます。
(C)写真AC
※写真はイメージです。
(執筆者: 丸野裕行)