戦国の名将、武田信玄の父・信虎の晩年にスポットを当てた映画、『信虎』が現在、全国順次公開中です。信虎は信玄によって追放されるも、30年の時が流れた元亀4年(1573)、信玄が危篤に陥ったことを知った齢【よわい】80の「虎」が、武田家存続のため最後の知略を巡らせるというストーリー。戦国時代を忠実に再現するため、ロケ地はもちろんのこと、髷【まげ】・衣裳・甲冑・旗・馬・所作・音などディティールに徹底的にこだわり、圧倒的なリアリズムも見どころのひとつとなっています。まるで信虎が乗り移ったかのように迫力に満ちている主演の寺田 農さん、本作の金子修介監督に、“新”戦国時代劇『信虎』についてお話をうかがいました。
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●信虎ついて、この映画で描かれる情報について詳しくは知らなかったので驚きもありましたが、おふたりはいかがでしたか?
寺田:わたしも信玄に追放された父くらいの感覚で最初は詳しく知らなかったけれども、これは彼の最後の一年を描いているんですね。もう一度返り咲きを狙って、打倒信長ということでね、いろいろ策を巡らせる。わたしは大変面白かったですけどね。
●監督はどういう想いで映画化をしたのでしょうか?
金子:戦国時代の人物が実際にどういう気持ちで生きて、死んでいったのかということに想いを馳せて映画化したいなと思いました。寺田さんには信虎になり切ってもらっていたので、撮影前にアドバイスをいただいたりしました。
寺田:やると決まってからは何度も話し合いをして、映画としてどういうい形にすると成立するのかを何回も議論しましたよ。
金子:映画の中で信虎が呪術を施すシーンがありますが、最初の脚本ではビームみたいなものが出ていたんです。わたしの解釈では催眠術であろうということで、かかる人もいればそうでない人もいるでしょうと。それを信じる人がいれば、霊魂の術になるのだろうと。そういう議論もしましたが、大事なことは権力を一回握った者の妄執、パワーみたいなものの表現ですよね。それが死んでも残っていると信じているという、それが彼にとっての未来でもあり、そう解釈して撮影をしました。
●おっしゃるように信虎の生命力みなぎるキャラクターに圧倒されましたが、寺田さんはどのように信虎像を作り上げていったのですか?
寺田:撮影前、歴史的な論文など、ずいぶん読みました。わたしなりの信虎像はありますが、まず前提として、結局映画としてやる分には、ドラマがないといけないんですね。しかもそれは必ずフィクションでないといけない。ノンフィクションでやっても映画にはならないからね。それが難しいところだったと思います。
●いわゆるエンターテインメント性の確保みたいな意味合いですよね。
寺田:ただ一方でね、出てくる重要文化財は本物です。信虎の肖像画、調度品、美術部の仕事も完ぺきなものでした。ロケーションもセットではなく、当時のゆかりのお寺などを借りて撮影していた。僕は長い間、松竹だ東映だで時代劇をやっていたけれども、そこでロケーションに行くことは1回もなかったね(笑)。だからヘンにセットで作るよりも重厚感がぜんぜん違うんです。これだけで成立すると思う。役者の持っている力などこれっぽっちしかなく、そのシチュエーションの中で役者がいかに自由にやらせていただけるかということだからね。今回は大変自由にやらせていただきました。
金子:僕は黒澤明監督の『影武者』がすごく好きなもので、僕の中では『影武者』のスピンオフくらいの気持ちでやっています(笑)。『影武者』には向こうの世界があり、こっちにはこの世界があり、そういう気持ちで撮っていました。寺田さんは俳優の力はたいしたことないと謙そんされますが、観客は俳優さんを通して世界に入って行くわけで、そのための環境があったわけです。現実のお寺の撮影において、なり切ってもらった時に、すごいパワーが出て来るなと。よくわかりましたよ(笑)。
寺田:シチュエ―ションがきちんとしていれば、役者もよく見えるんです(笑)。
●本作は歴史もの、政治もの、多面的な見方があろうかと思いますが、どういう風に観ていただきたいでしょうか?
寺田:簡単に言うとこれはね、ファミリードラマで、武田家の話ですよね。お家騒動があり、どっちがどっちだともめている話。誰が権力を持つかとね。そこで大事なことは、政治的な目を持っている人間が上にいくのか、それとも単にパワーがある人間が上に行くのか、それを支える重臣にどれくらいシャープな者がいるかとか、500年経っても何も変わっていないことがよくわかると思います。
金子:孫とおじいさんの対決というファミリードラマでもあるわけですけど、孫の勝頼は自分で腹を切っていることになっているのですが、これはたぶん史上初の描写になっているかもしれないです(笑)。
寺田:そのシーンひとつとっても誇りにつながっていくのかも知れないよね。切腹か斬り死にか。この映画のことを『仁義なき戦い』と監督はおっしゃったけれども(笑)、やっぱりそこにはその要素がありますよね。
金子:出てくる人たちがすごくバタバタ死んでいくので重いかもしれないのですが、解放された女性の物語もあるので、見やすくなってると思います。
寺田:これだけ戦国後期のものをきちっと描いた映画は、黒澤さんの『影武者』以来かも知れません。それくらいの想いということで演じておりました。
●信虎の再評価につながるといいですよね。
寺田:そこまでではいかなくとも、こういう人だったということがわかればいいでしょうし、この作品をきっかけに若い人が時代劇や歴史に、もっと興味を持つようになればよいと思います。我が国の歴史を知っておくことも大事ではないかなと思いますね。
金子:僕は仏教が武士の権力による支えで成り立っていたことがよくわかりましたね。あれほどまでにお坊さんが多い理由ですよね。解脱して煩悩を失くせという仏教の教えがあるけれど、全然武士たちは解脱していないんですよね(笑)。でも、その解脱していない武将たちにお寺が支えられいる。僕はそこも面白いと思いましたね。
■ストーリー
武田信虎入道(寺田 農)は息子・信玄(永島敏行)に甲斐国を追放された後、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。元亀4年(1573)、すでに80歳になっていた信虎は、信玄の上洛を心待ちにしていたが、武田軍が国に兵を引き、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権の好機と考えた信虎は、家老の土屋伝助(隆 大介)と清水式部丞(伊藤洋三郎)、末娘のお直(谷村美月)、側近の黒川新助(矢野聖人)、海賊衆、透破(忍者)、愛猿・勿来(なこそ)などを伴い、祖国・甲斐への帰国を目指す。途中、織田方に行く手を阻まれるも、やっとの思いで信濃高遠城にたどり着いた信虎は、六男・武田逍遥軒(永島敏行・二役)に甲斐入国を拒まれる。信玄が他界し、勝頼が当主の座についたことを聞かされた信虎は、勝頼(荒井敦史)との面会を切望する。
(C) 2021ミヤオビピクチャーズ
ヘアメイク:鎌田順子(JUNO)
<映画公開情報>
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(執筆者: ときたたかし)