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震災・コロナの影響を受け危機…映画館の存続に奔走する女性を描く『浜の朝日の嘘つきどもと』タナダユキ監督インタビュー


100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館「朝日座」の閉館を阻止する為、東京からやってきた・茂木莉子。支配人の森田や周りの人と協力しながら、様々な行動を起こすのだが…。

映画監督タナダユキさんによるオリジナル脚本を、高畑充希さん主演で映画化した『浜の朝日の嘘つきどもと』が9月10日より公開中です。高畑さんの他、落語家の柳家喬太郎さん、大久保佳代子さんら個性的なキャストが集結した本作。タナダユキ監督に本作の撮影について、映画館への想いなどを伺いました。

ーー本作、とてもあたたかいお話で、大変楽しく拝見させていただきました。コロナが存在する世界のお話ですね。

タナダユキ監督(以下、タナダ監督):映画業界もそうですが、ほとんどの業界でたくさんの人が大打撃を受けた中、入れないと不自然だなとは思いました。でもそれだけのお話にしたくなくて。その中で私たちは生きていかなくてはいけないので。

ーー脚本を書く上で苦労されたことも多かったのではないでしょうか。

タナダ監督:ドラマ版は割とはやく書くことが出来たのですが、映画版の方が試行錯誤で。一回、ドラマのその後の話を書いていたのですが、全然面白くなくて(笑)。なぜ(茂木)莉子ちゃんがここに来たのか書いた方が良いなと思い、方向転換をして。そうこうしているうちにコロナ禍になってしまい、コロナの要素をどのくらい入れるかでも迷ってしまいました。ドラマ版を書き終えた段階では、コロナ禍では無かったのですが結局ドラマ版も書きなおし…。「今頑張って書いている脚本も日の目を見ないかもしれない」と考えたり、色々な意味で辛かったです。

ーー後日談では無く、前日談になったということで、前半疑問を残しながらも、少しずつ明らかになっていくあたりがすごく心地よかったです。

タナダ監督:そう言っていただけるとありがたいです。過去の莉子と現代の莉子をサンドウィッチにして見せていくことで、混乱せずに楽しく最後まで観ていただけるかなと思い、その構成を考えはじめてからは執筆も進み始めました。

ーー撮影に入られた時は、「映画作りがいよいよはじまったな」という感覚はありましたか?

タナダ監督:これはどの作品でもそうなのですが、クランクインの時は感慨とか一切無いんです。特にこの作品は、感染者を絶対に一人も出さないぞという緊張感もありました。制作の福島中央テレビさんからも衛生班を出してもらって。スタンドイン(カメラや照明の準備が整うまで、俳優の代役を務める人)の方がどいて、必ず消毒するとか、今までに無かった撮影スタイルに時間をとられることになりました。これからの撮影現場はそうなっていくんだなと思いつつ。

ーー高畑充希さんがコロナ自粛開け最初の現場で、すごく救われたそうですね。

タナダ監督:そうおっしゃってくれていますよね。撮る側としては必死ですけど、俳優部のお芝居を見るのは私も楽しみだったので、高畑さんはじめ皆さんに「撮影が楽しかった」と言っていただけるとホッとします。

ーー高畑さんのお芝居が本当に素晴らしくて、特に高校生から演じていて、同じ高畑さんなのに顔つきが変わっている所もすごいなと思いました。

タナダ監督:私も思いました。本人は「高校生役大丈夫ですかね(笑)」と言っていたのですが、まだ全然いけるじゃんって。髪型など、何かをすごく分かりやすく変えているわけじゃないのに「傷ついた10代」になっているんですよね。本当にとんでもない俳優だなと。すごく自由に動いてくれるので、それを見るのがすごく楽しくて。その動きをどう撮るかをいつも考えていました。

ーー個人的に、莉子のファッションが大好きです。

タナダ監督:可愛いですよね。スタイリストの宮本さんのセレクトです。私の作品は地味な主人公を描くことが多くて、可愛い服を着せたくてもキャラクターの設定上我慢していたので、今回は楽しかったです。(莉子が)映画の配給をやっていたという設定で、おしゃれな方が多い業界でもあるので。自分の感性を持っている女性のファッションになっています。

ーーオシャレなだけじゃなくて、動きやすい格好というのも良いですよね!

タナダ監督:よく気付いてくださって、嬉しいです。そういうリアルな部分も宮本さんが考えてくれています。

ーーそして、大久保佳代子さん演じる茉莉子先生は、「あんな先生いたらいいなあ!」と感激しました。理想的でありリアルさも感じたのですが、どなたかモデルはいらっしゃいますか?

タナダ監督:あのままの先生がいたわけじゃないのですが、今まで自分が見聞きしてきた素敵な人、楽しい人をドッキングした感じです。中学校の時に、先生が放課後にソワソワしていて、怪しいなと思って聞いてみたら「仲の良い先生たちで、和室で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』観るんだ」って言われて、それにいれてもらって(笑)。それで人生が変わったという事はないですけど、やっぱり思い出に残っているんですよね。

茉莉子先生が学校を辞めさせられそうになったエピソードは、私のいとこの話を発展させて。いとこは教師ではないのですが、自分の娘が年頃になってデートをする時にコンドームを渡したら、それが親戚中に非難されて。私は「すごく良いじゃん」と思ったんですよね。若い子が望まない妊娠をするくらいなら、大人がきちんと自分を守る術を教える方がよほど現実的で良い。その話自体は結構前なのですが、小ネタとして入れています。

ーー大久保さんがすごく自然に嫌味なく演じられていて。

タナダ監督:キャスティングは全く迷わずでした。バラエティ番組で拝見していて、昔から「OLとお笑いの兼業」とかお局キャラとか、独特の雰囲気のある面白い方だなと思っていて。大久保さんの笑いは、毒舌だとしても人を傷つける笑いではないんですよね。そこがとても好きで。大久保さんなら、莉子ちゃんとベタベタしすぎない先生の空気感を出せるんじゃないかと思ってお願いしてみました。

ーー柳家喬太郎さん演じる、映画館支配人の森田さんも独特の軽快さが最高に魅力的でした。

タナダ監督:本当にこの役は喬太郎師匠しか考えていなくて。大学の時に映画研究会と落研に所属していたという設定で、なので地元の福島に帰ってもずっと“べらんめえ調”で話している。そして二本立てのセンスが無いという(笑)。師匠なら間違いなく魅力的な人物にしてくれると思いました。昔は二本立て、三本立ての映画がたくさんあって、「その組み合わせある?!」っていうのがよくあったので。最近はセンスが多い二本立てが多いなあと思うのですが。

ーーあの二本立てのチョイス面白かったです(笑)。茉莉子先生のセンスの良い二本立ては監督案ですか?

タナダ監督:成瀬巳喜男監督特集など、いくつかは私も考えましたが、その他は全部が全部自分で考えたわけじゃないです。今回スタッフに「自分が観たい二本立て」を考えてもらって、案を出してもらったんです。「採用されたら、1作品につき1000円」というお小遣いをプロデューサーから出してもらって(笑)。セレクトが人によって全然違うから面白いんですよね。

ーー監督が出演されている、杉作J太郎監督作の『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!“』も入っていました!

タナダ監督:権利関係で断られないだろうというのでセレクトしました(笑)。その理由が一番にあったのですが、高畑充希さんの口からサブカルの帝王のような杉作さんのお名前や『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!“』を言ってもらいたかったというのもあります(笑)。

ーーすごく面白かったです(笑)。その他劇中に出てくる作品はどうやってチョイスされましたか?

タナダ監督:増村保造監督が大好きで、劇中に登場している『青空娘』(1957)は、増村監督と若尾文子さんが初めて組まれた映画で、増村作品らしさは存分に出ていながら、他の作品に比べると爽やかなんですね。その中でも、ドキッとするカメラワークとか描写は健在で、映画の中で使えないかなと思いました。

ーーたくさんの映画が出てきて、すごく観たくなりました。

タナダ監督:そう言っていただけるのが一番嬉しいです。『喜劇 女の泣きどころ』(1975)も、友達が小沢昭一さんのファンで何年か前に観る機会があって、あの映画を教えてくれる人がいたから観ることが出来たんですね。ソフト化されていないので、これを機にソフト化してくれないかなと願っています。

ーー本作、『浜の朝日の嘘つきどもと』を二本立て上映するなら、どんな作品を組み合わせたいですか?

タナダ監督:せっかくだったら、この中に出てくる作品と一緒に観てくれたら嬉しいですね。ポスターだけで登場している映画もたくさんあるので。あとは『大巨獣ガッパ』(1967年)がセリフに出てきますが、あれは喬太郎師匠のアドリブです(笑)。『ダイ・ハード』と何を組み合わせるかとなった時に、“だい”が一緒なだけで『大巨獣ガッパ』が出てきて面白かったです。

ーー『浜の朝日の嘘つきどもと』と『大巨獣ガッパ』の二本立てとか最高に面白いですね!(笑)いつか実現することを勝手に楽しみにしています。今日は楽しいお話をどうもありがとうございました。

【動画】映画『浜の朝日の嘘つきどもと』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=8ZfuDIgJEIw

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

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