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『科捜研の女 -劇場版-』脚本・櫻井武晴さんに聞く「映画だから出来たミステリー」「科捜研メンバーには“隠しごと”が無い」



1999年の放送開始から今日まで20年以上、高視聴率を打ち出し続けているテレビ朝日の超人気シリーズ「科捜研の女」。科学の進歩と時代性を取り入れながら「現行の連続ドラマ 最長シリーズ」の記録を常に更新しています。


これまでに解決した事件数250を超える“科学捜査ミステリー”の最高峰が2021年、遂に映画化! 『科捜研の女 -劇場版-』が9月3日(金)に全国公開となります。


本作の脚本を手がけているのは櫻井武晴さん。「科捜研の女」シリーズはもちろん、「名探偵コナン」や「相棒」など数々の人気作品の脚本を手がけられています。今回は櫻井さんに、本作で意識したことや、キャラクターそれぞれの魅力を描く極意など、お話を伺いました。



過去レギュラー総出演の本作 「科捜研は今を正々堂々と生きている人たちばかりなので書きやすい」


ーー本作を大変楽しく拝見させていただきました。初の劇場版ということで、「世界中で不審死が起こっている」というとてもスケールの大きい内容でした。


櫻井武晴(以下、櫻井):「映画を書いてくれ」と言われたので、“海外”を入れたのは、映画らしいスケールをだすための一環ではあります。それに加えて今回は、過去のレギュラーメンバーも出演する仕組みにしたので今、海外に行ってる相馬を出しやすいように、海外を扱った感じですね。


ーーこれまでに出てきたキャラクターが本当に沢山登場していて、ファンの方は嬉しいですよね。それぞれの見せ場を作るのは大変ではなかったですか。


櫻井:「科捜研」のレギュラー達は、今を正々堂々と生きている人たちが多いので隠しごとがないんですよ。


もちろん、過去に堪えられないくらいの失敗や大きな挫折をした人はいるんですけど。それを後悔せずに反省して背負って今を正々堂々と生きているので。そういう人たちって古巣で出すときに、あまり大変ではないんですね。


わかりやすくいうと「同窓会」ってあるじゃないですか。今、自分が後ろめたい気持だったり、過去を引きずっていたり、自信がないと、なかなか出席しにくいじゃないですか。でも、「科捜研」にはそういうのがないんです。


例えば、芝監察官や倉橋、佐久間のように、全部過去を背負って、自分からその話をできる人たちって、出しやすいんですよ。「ここは隠さなきゃな」とか「この話題は触れられないな」というさじ加減が無いので。


ーーなるほど、皆さん胸を張って出られるということですね。


櫻井:そうなんです。今回もマリコたちが自分から過去の冤罪の話をするじゃないですか。そういう話も迷惑をかけた佐久間部長の前で堂々と出来る。それは鈍感ではなくて、ちゃんと自分で背負って消化しようとしている。「科捜研」はそういう強い人たちばかりなので書きやすいんです。


脚本を書かせていただいた「名探偵コナン 緋色の弾丸」も、今回の「科捜研の女」も確かにレギュラー陣が総出演するような作品なんですが、コナンの方が本当に大変だったんですね。科捜研は皆、過去を受け入れて正々堂々と生きているので、古巣に直ぐ戻ってこられるんです。でも、コナンの赤井家は皆、隠し事をしていて家族にさえ自分の本当のことを言っていなくて…という。そういう違いはありますね。


ーー隠し事がある・無いによって変わるというのはすごいですね。とても面白いです。今回、過去のキャラクターを登場させるにあたって、シリーズを見直しましたか?


櫻井:倉橋は、僕が参加する前に出なくなったキャラクターなので、見直しました。いちばん接したことがない人物だったので、「今はどんな風に生きてるんだろう?」と考えながら、手探りで楽しかったです。



映画だから出来たミステリーの醍醐味


ーー沢山の最新科学技術捜査が出てきますが、調べたことや驚かれたことはありますか?


櫻井:腸内細菌のことについて、いくつか調べたり論文を読んだりしましたね。ただ、今回は目新しい鑑定でお客さんを呼ぼうって感じではないんですよ。


テレビだと1シーズンに1つは、何か目新しいものを出さなきゃなって思いがあるんですけど、今回の映画は「お祭り」のつもりで書いたので。お祭りって実は、あまり目新しいものがあってはダメなんですよね。これまでの皆の遺産やしきたりを楽しむのがお祭りだと思うので。


お祭りで様式が変わっちゃうと参加する人が戸惑ってしまうので、「SPring-8ってそういえばあったね」みたいな、出来るだけ視聴者が見覚えのある鑑定を登場させています。


ーー「1シーズンに1本は最新の鑑定を出す」ということは、櫻井さんは毎シーズンたくさんの論文を読まれているのですね。


櫻井:そうですね。ほとんど英語なので、そこは大変なんですけど、論文を読むこと自体は大変ではなくて。でも、テレビ映えする鑑定ってなかなかないんですよね。これ使えるな!っていうのが。


論文で専門性は得られるんですけど、エンターテインメント性は得られないので。ただ、最近論文を読んでいて気づいたのは、これまではアメリカ、日本、ドイツくらいしか論文がなかったのに、中国の研究所や大学の論文がかなり多いんですね。本数的にはアメリカを超えてるんじゃないかなってくらい論文を出していて。


今、勢いのある国の論文が増えるんだなって思いました。

これは個人的な意見ですが、中国の論文って書き方がドラマチックだなと思います。


ーー今回、トリック的な部分で工夫した部分はありますか?


櫻井:そうですね。トリックというよりも、見せ方として犯人探しをさせたいとは思うじゃないですか、ミステリーなので。その時に本来は犯人の目星をつけて、動機か手口を見つけて、証拠と共に犯人が分かるという感じだと思うんです


でも今回は、犯人が誰かということも、その手口や凶器が何なのかということも、その証拠も、全部、半落ちのまま、どれひとつ解決しないまま進むんですよね。しかも、事件か事故かということさえ分からないという中で。テレビでそれをやってしまうとアウトなんですね。お客さんが抱える謎が多すぎて、チャンネルを回されてしまう可能性があるので。どこか一つは解決しながら進もうと。


テレビでは、事件かどうか分からなければ、凶器か手口のどちらかは解決させておく、ということをやるんですけど、今回はそれを全部、最後でやるっていう。これは映画ならではの手法なんです。映画は滅多なことがない限り、お客さんは途中で帰らないので(笑)。いっぺんに事件を解決するというミステリーの醍醐味が出来ます。そういう意味では、映画ならではのことができたのかなと。映画だと、使える文法が変わります。そこが楽しいと思います。

ただ、お客さんは普通に犯人探しとして楽しんでいただければ嬉しいです。



ーーゲストに豪華キャストが集結している事も、良いミスリードとなっていて犯人探しが面白かったです。


櫻井:僕的に、ミスリードと考えていなかった人もちゃんとキャスティングされていて、ちゃんとキャストでミスリードできるようになっているな、と。


ーー佐々木蔵之介さんが、最後まで良い意味でどういうキャラなのか分からないのも面白かったです。


櫻井:実は、加賀野は佐々木さんがキャスティングされる前に書いたキャラクターなんですけど、佐々木さんが決まってから、「もう少し強い敵にしてほしい」って言われたんですよ。


もともと、浮世離れした加賀野を書いたつもりだったんだけど、さらにマッドサイエンティスト感を大きくして良いんだろうか?と。そのほうがマリコの敵として大きくなるんだろうか?と思って書き始めたところ、実はマッドサイエンティストって異常者なので、「あなたの言ってることは異常なので、私は聞けません」って切り捨てることができるんですね。そうすると、観客にとっても、「この人は頭のおかしい人だから、この人の言うことは聞かなくていいや」ってシャッターがおりちゃう可能性がある。


それって、強いのかな? マリコにとって最大の敵なのかな?と思うと、そうではなくて。この人にも地に足がついてもがいている部分があったり、登場人物の誰よりも強い信念があったりする方が強いキャラクターになるんです。マリコもその人の言ってることを切り捨てることができなくなっちゃう。マリコはマリコで、自分の理論をぶつけなくてはいけなくなってくる。そっちの方が最大の敵になるんじゃないかって。


なので、佐々木さんがキャスティングされてから、研究者としてのもがきを加えました。現代の研究者なら、みんなここでもがいているんだろうな、という部分を付け加えています、浮世離れした人物を地に足をつけた人物にすることによって、より最大の敵になったなと思います。


「相棒」に「科捜研の女」の登場人物が出てきちゃったり……櫻井さんが学んだ仕事のやり方


ーー「科捜研の女」シリーズは長く続いていて、たくさんの人に愛されていると思いますが、最近は、若い層にもファンが増えていますね。


櫻井:どうなんでしょうね(笑)。客層は、あまり考えたことがないですが。でも、仮にそうだとしたら、若い層を無理に取り込もうとしなかったこれまでの流れが正解だったんだなと思いますね。


若い層が見ても大丈夫なように、片手間で見られるようにと柔らかい方に進んで行かなかった事が良かった。「相棒」も実は、そうだと思うんですけど。今までのお客さんを手放したら本末転倒だなっていう思いがあったと思います。もともと観てくれている層を第一に考えて、それを面白いと思って入ってきてくれる人ならいいんじゃないかなと。


科捜研に関しては、これだけ長く続いているのにDVDがほぼ出てないんです。1シーズンだけしか出てないんですよ。それなのに、20年以上にわたる流れを加味しているこの作品に、ファンがついてきてくれるのはありがたいなと思いますね。夕方の再放送は効いているなと思っています。



ーー素人質問で恐縮なのですが、これだけたくさんの作品をやっていて、トリックやストーリーが混ざったりすることは無いのでしょうか?


櫻井:今は無いです。でも実は一時期、ありました(笑)。ちょっと一時期、大変な時期があって、登場人物の名前を別の作品に入れちゃったり。2012〜13年のころかな。


そのころは「相棒」に「科捜研の女」の登場人物が出てきちゃったり、木曜8時に新しいドラマを立ち上げる時に京都を舞台で書いていたら、「科捜研の女」の登場人物の名前が出てきちゃったり。自分が今、何を書いているのか分からなくなってしまって。これはダメだなと思って仕事の仕方を考えました。とにかく一本を書き終えてから次の仕事に入らなきゃと思いましたね。


ーー売れっ子ならではの悩みですね…!


櫻井:売れっ子というか、仕事の仕方が下手だったんです。一つの仕事が終わっていないのに、次を書き始めて。まだ途中なのに筆を止めて、自分が安心したいがために次の仕事に入るということをしていたんですね。


でも、それはダメだと。ある芸人の師匠から、仕事は縦に並べてやりなさいって言うことを教わって。横に並べてやったら、自分がめちゃくちゃになっちゃうよと。「縦に並べて、どんどん登って行く形にしなさい」と。なるほど、そう言う仕事の仕方がいいんだなと。良いアドバイスをもらいました。


ーー全てのお仕事に通じるお話ですね。


櫻井:その師匠は当時で還暦を過ぎていたのにものすごい数のテレビのレギュラーを持っていながら、寄席もやっている方だったので、「師匠。その歳で、どうしてそんなに仕事の数をこなせるんですか?」と聞いたら今のようなことを教えてもらって。勉強させてもらった!と思いました。


ドラマの影響で本当に科捜研の男や女になった人も「フィクションの力」


ーー櫻井さんは他にも、たくさんのミステリー作品を手がけられていますが、もともとミステリーが好きで、この世界に入られたんですか?


櫻井:違いますね。入ったら何故かこっち方面になったという。ただ、廃れないジャンルですので。だから、できるだけ年に1本、ミステリー以外のものを書こうと思って、なんとか実現してきたんですけど、今年は捜査ものしか書いていないんですよね。実は海外作品をやる予定だったんですけど、無くなってしまって。そんな時にこの映画の話をいただいたので、いつもと違うものを書けたという感じでしょうか。


ーー櫻井さんが映画の道を目指そうと思ったきっかけになった作品を教えていただけますか?


櫻井:セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と、降旗康男監督の「駅 STATION」という映画が僕の原体験になっています。「駅 STATION」は小学校5年生、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」は中学2年生の時に観ました。


この2つを観て、映画の世界に進もうと思ったんです。実は両方とも東宝配給、東宝製作だったりした作品なので、それで中学の頃、東宝に入ろうと思ったくらいなんですよ。自分の人生を変えそうな映画に両方とも「東宝マーク」が付いてる、と。で、そのあと東宝に入ることになるんですけど。だから映画って人生を変えるなって思いますね。


ーー小学生、中学生にも「映画の仕事がしたい」と思わせたすごい作品なのですね。


櫻井:監督なのか脚本なのかカメラマンなのか俳優なのかわからないけど、ただ映画を作る人になりたい。そう思わせた映画って、凄いなと思います。


ーーそれこそ、本作を観て科学捜査の世界を目指す人がいるのでしょうね。


櫻井:そうなんです! 「科捜研の女」をみて本当に科捜研の男や女になった人がいるらしいので。フィクションには、そういう力があるんだと思いますよね。


ーー今日は本当に貴重なお話の数々をありがとうございました!


【動画】『科捜研の女 -劇場版-』本予告

https://www.youtube.com/watch?v=DODbzqNNz2M


【ストーリー】

榊マリコ(沢口靖子)をはじめとする“科捜研”のスペシャリストたち、捜査一課の土門刑事(内藤剛志)、解剖医の風丘教授(若村麻由美)らがスクリーンを舞台に挑むのは<世界同時多発不審死事件>。京都を皮切りに世界中に拡がる死の連鎖。シリーズ史上最難関の事件、現代最新科学では絶対に解き明かせないトリックを操る<史上最強の敵>。 スクリーンに散りばめられた謎を解かなければ、死の連鎖は止められない。究極の決断を迫られた榊マリコが最後にとった行動とは――いま、衝撃の“最終実験”が、はじまる。


【出演】

沢口靖子

佐々木蔵之介 若村麻由美 風間トオル 金田明夫

渡辺いっけい 小野武彦 戸田菜穂 斉藤 暁 西田 健 田中 健 佐津川愛美

野村宏伸 山崎 一 渡部 秀 山本ひかる 石井一彰 長田成哉 奥田恵梨華 崎本大海

内藤剛志


(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会


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