ひとり暮らしの桃子さん。おらの今は、こわいものなし。
田中裕子さん15年ぶりの主演作『おらおらでひとりいぐも』が11月6日より公開となります。本作は芥川賞&文藝賞W受賞した若竹千佐子さんのベストセラーを沖田修一監督が映画化したヒューマンドラマです。
【ストーリー】昭和、平成をかけぬけてきた75歳、ひとり暮らしの桃子さん。 ジャズセッションのように湧き上がる“寂しさ”たちとともに、賑やかな孤独を生きる―― 1964 年、日本中に響き渡るファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し、上京した桃子さん。 あれから55年。結婚し子供を育て、夫と2人の平穏な日常になると思っていた矢先…突然夫に先 立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る毎日。しかし、ある時、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、音楽に乗せて内から外から湧き上がってきた!孤独の先で新しい世界を見つけた桃子さんの、ささやかで壮大な1年の物語。
田中裕子さんが演じる<桃子さん>の心の寂しさを、濱田岳さん、青木崇高さん、宮藤官九郎さんが担当するという奇想天外な演出が話題の本作。沖田監督と、原作者・若竹さんにお話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見させていただきました。まず、主人公・桃子さんの脳内の<寂しさ>を3人の男性の俳優さんが演じていらっしゃるというのが面白いですよね。
沖田:桃子さんという主人公の寂しさというか、心の中でたくさんの声が聞こえて自己葛藤している部分を映画にしたいなと思いました。原作にある自問自答している部分をそのまま映画にするとCGを使うのかな?とか、僕がこれまで作ってきた映画とはかけ離れてしまいそうだったので、生身の人に演じてもらおうと思い、擬人化させていただきました。キャスティングはもちろん、衣装や髪型をどうするのか?という具体的な所を決めていくところが難しかったです。
若竹:実写になった時に、人間の脳内をどうやって映像にするのかな? 実写にアニメーションを混ぜて作るのかな?と色々考えていたのですが、3人の俳優さんが演じてくださるというそのアイデアに驚きました。しかもこの3人の方が私は大好きなんです。濱田岳さんは三太郎さんのCMも好きですし、青木崇高さんは『ちりとてちん』ですごくファンになり、宮藤官九郎さんは私が岩手出身ということもあり『あまちゃん』大好きですから。本当に嬉しかったです。
――若竹さんも原作者として映画をご覧になって、楽しめたということですね。
若竹:もちろんです。桃子さんは、ごくごく普通に生きてきたおばあさんですが、独り暮しになっていろんなことを考えているんです。そんな桃子さんの頭の中を分かりやすく視覚的に表現していただいて、「1人の人間の頭の中にはたくさんの人がいるんだよ」というのを見せてくれたと思うし。沖田さんの目線の優しさを感じて。そして、何よりプロポーズのシーンです。蒼井優さんと東出昌大さんという、あんな美男美女に演じていただいて申し訳なかったんですけど。私小説ではないと思いつつ、自分がプロポーズされた時の事を思い出して顔を赤らめました(笑)。書いてみるもんですね。
――プロポーズのシーン、素晴らしかったです! 桃子さんの脳内の映画化で、フィクションではあるのですが、誰もが共感できたり考えさせられる内容で。監督が作品作りにおいて意識したことはありますか?
沖田:桃子さんは僕の母親と同世代で、『おらおらでひとりいぐも』を映画化するという事は、自分の母親の人生だったり感情を映画化する事に近いかなとも思いました。脚本の段階で、原作に無い部分も盛り込ませてもらいました。車の営業の人が来て「遠くの息子より近くのホンダです」と言われるシーンとかも、実際に母が言われたセリフで、すごく良いセリフだなと(笑)。遠くに住んでいる息子ってまさに僕の事だなあ、なんて思ったんですけど、そう感じる人って僕だけじゃないと思うんですよね。
――田中裕子さんがまたとても自然に、絶妙に演じられていらっしゃいました。
沖田:僕もこれまで田中裕子さんの作品をたくさん観てきて、やはり圧倒的ですよね。桃子さんの年齢より田中さんの方が若いのですが、でも田中さんなら演じていただけるだろうと。
若竹:田中裕子さんは本当に方言もお上手でしたね。もちろん他の皆さんも素晴らしくて、方言も使いこなしていらして。そして、何より東出さんの「決めっぺ」が良かった!(プロポーズのシーン)
沖田:本当に気に入っていただけて良かったです!(笑)
――原作は、若竹さんの私小説ではないといいつつも、ご本人の環境や心情も反映されているかと思います。改めてこのお話を書かれた時の事を教えていただけますか?
若竹:夫が亡くなった時に、ほんとうの悲しみというものを知ったんです。それまでにも「悲しい」と感じた出来事はもちろんあったけど、それらとは全然違うものでした。夫の死は、自分のほんとうの感情や望みに気づかせてくれるきっかけにもなっていて、桃子さんにはそういう部分が投影されていると思います。誰しもそういうことってあるんじゃないかと思います。
――「愛か自由かなら、迷わず自由を選ぶ」といった様なセリフがありますね。とても印象的でした。
若竹:それはもちろんそうですよ。「愛」という言葉に、どれだけの女性が騙されたか(笑)。愛だってもちろん素晴らしいんですけど、でも愛という名の支配もあるでしょう。60何年、女として生きてきたので、そういう不自由をふと考えることがあるんですね。
63歳でプロになって、『おらおらでひとりいぐも』を改めて読むと、ちょっと整いすぎていたなって思うんです。もう(小説を)コンクールに出す必要が無いから、もっとはちゃめちゃに、ぐちゃぐちゃに自由な作品を書いてみたいと思います。
沖田:素晴らしいですね。本当、すごいです。原作を読んだ時に、桃子さんの脳内の寂しさの声がとても面白いと思いましたし、こうして映画にする事で、自分の母ってどんな事考えているんだろうとか、改めて思うきっかけになりました。僕と同じ様に、桃子さんに親近感を持ってくださる方、身につまされる方は多いかなと思うで、ぜひ楽しんでいただきたいです。
――若竹さんのお言葉は本当に元気と勇気が出ますし、監督の暖かい目線があってからこその素晴らしい映画だと思います。今日はありがとうございました!
【動画】映画『おらおらでひとりいぐも』予告
https://www.youtube.com/watch?v=X92VPwm2VZ0 [リンク]
(C)2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
―― やわらかニュースサイト 『ガジェット通信(GetNews)』