2019年10月12日に日本に上陸し、記録的な大雨により、全国で105名が亡くなるなど大きな被害を出した台風19号。長野県では千曲川の堤防が決壊し、建物や農地などが冠水。県の発表によると、全壊1095世帯、半壊2812世帯、一部損壊3635世帯となっており、収穫前の農作物の浸水などの被害額は668億2800万円にのぼるとしています。
決壊地点から約1kmのところにある長野県長野市赤沼のキタイチ果樹園は、長男の北澤一樹さんがTwitterなどSNSで無事だったりんごを販売して話題になりました。
※参考記事 「Twitter民の力を貸してください」 千曲川氾濫被害のキタイチ果樹園がりんごのSNS販売を実施中
https://getnews.jp/archives/2410020 [リンク]
ここでは、被災して約1年が経過したキタイチ果樹園の模様と、無事に収穫を迎えたりんごについてレポートします。
しなの鉄道北しなの線豊野駅から車で10分ほどのところにあるキタイチ果樹園。付近では冠水の被害に遭った建物の建て替えをしている様子が見られ、復興半ばという印象でした。
約2m冠水したというキタイチ果樹園でも、建物の1F部分が完全に水に浸かり、壁にも被害の爪痕が残されていました。大正時代から続いているというキタイチ果樹園ですが、「65歳の父親も経験したことがない水害」(北澤さん)といい、約2.8ヘクタールのりんご畑のうち2/3以上が収穫前に台風が直撃してしまい、「破棄するしかなくて、悲しかったですね」と振り返ります。
また、建物だけでなく車や農機具なども全滅。保険金などの支払いはあったものの、それらを新調せざるを得ずに「厳しかった」といいます。
例年10月中旬ごろより収穫がはじまるというりんご。12月まで建物の片付けに追われ、その後に生き残ったりんごを出荷することを思いついたという北澤さん。ただ、不幸中の幸いだったのは暖冬で降雪が少なく、通常なら11月中には出荷するりんごが比較的出荷に堪えられる状態だったということ。「購入してくれた方がリピーターになって頂いたり、SNSで拡散してくださって、とても励みになりました」といいます。
「正直これだけの水害ですから、今年の実のなり方がどうなるのか、想像もつきませんでした」という北澤さんですが、「ふじ」「紅玉」「王林」など10種類のりんごの実は見事に育ち、無事に収穫の秋を迎えることができました。北澤さんは「花がキレイに咲いたので安心していましたが、やはり実際に大きな実になってくれて感慨深いです」と話します。
筆者が訪れた2020年10月30日には、「紅玉」の収穫と出荷が終わり、青りんごの「王林」の収穫が始まったところでした。「ふじ」は11月下旬の発送になるとのこと。
りんご畑の中心には空き地でTwitterなどにアップされた感謝のメッセージが撮影されました。実際に足を踏み入れると、幅30mほどの敷地で、「実は撮るのにかなり時間がかかりました。はしごの上で登って、どうすれば映えるのか試行錯誤しました(笑)」と話します。
【Twitter民の皆様へ】昨年の台風19号で被災したりんご農家です。千曲川の堤防決壊地点から1kmにあった実家の住居と畑は約2m浸水。りんごは3分2以上は廃棄したが、無事だったりんごはSNSを通じ完売。今季は昨季の感謝をこめて復興りんごを販売です。RTをどうかお願いします。ご購入はプロフのリンクへ pic.twitter.com/Wv8hzszyqs
—北澤一樹@キタイチ果樹園 (@kitaichikajyuen) October 4, 2020
りんごを育てる上では、鳥害が大敵。一般的なホークカイトが飛んでいたほか、北澤さんと双子の姉が中学時代に着用していたジャージが鳥避けに掛けられていました。
実際にりんご畑を歩いてみると、場所によって高低差が数センチ単位であるのが分かります。そのため、水害で生き残ったりんごも小高い場所が固まるのではなく、敷地内に点在していたとのこと。僅かな差によって、大きく左右される農業の難しさを素人ながら感じ取ることができました。
10月28日より出荷している「王林」は、旬の時期は11月下旬まで。「黄色に色づいているものが美味しい」とのことで、実際に食べてみましたが、酸味が少なめでほんのりと甘く、水分がふんだんに含まれていて瑞々しくやわらかい歯ごたえが印象的でした。甘く食べやすいので、フレッシュな間にそのまま頂くことがおすすめです。
復興半ばとはいえ、無事にりんごを出荷できたキタイチ果樹園。SNSのほかネットショップを開設して「これからもネットでのご縁を大切にしつつ、発信していきたいです」という北澤さんは、「被災後の販売を通じて、一般のお客さんに加えて飲食店さんに購入して頂き、りんごを使った新商品などをメニューとして発売されました。いろいろな取り組みができたので、今後は飲食店さんや企業さんとのコラボレーションを積極的にしていきたいと思います」と意気込みます。
被災から1年が経ち、着実に前へと進む様子が見れた長野のりんご畑。その土地を愛して、土地と共に生きる人々と、大地の強さを見た思いがしました。
【キタイチ果樹園】飲食店、ホテル・旅館などの宿泊施設、イベント主催者さま向けのコラボレーションのご提案(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=3GJg-oPG63o [リンク]
キタイチ果樹園ネットショップ
https://kitaichikajyuen.stores.jp/ [リンク]
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