2019年に公開されたインド映画では、『バーフバリ』のプラバース主演作『サーホー』(2020年3月日本公開)を抑えて第1位を獲得、インド映画の初日実績の歴代記録も塗り替え、更には全米を含む世界30ヶ国で大ヒットを記録し、インド映画の全世界興収1位となった『WAR ウォー!!』が全国順位公開中です。
インドの2大スターである、リティク・ローシャンとタイガー・シュロフが共演し、7ヶ国15の国際都市での撮影した本作。『ミッション:インポッシブル』『フェイス/オフ』『キングスマン:ゴールデンサークル』『ワイルド・スピード』など数多くのアクション映画のオマージュは映画ファン必見。
そして、インド映画といえばのダンスシーンも! 2人のスターのキレキレのダンスと肉体美は惚れ惚れすること間違い無しです。
今回は、日本人初のボリウッドダンサーである関本恵子さんに本作『WAR ウォー!!』の感想から、ボリウッド作品の魅力をお話しいただきました。関本さんによる素敵なボリウッドダンス動画もご覧ください!
――今日はよろしくお願いいします! まずは関本さんご自身のお話をお聞きしたいのですが、単身でインドに渡るほどボリウッドダンスに魅せられたきっかけは何だったのでしょうか。
関本:インドの音楽をもともと聴いていたのですが、映画を初めて観たのはワーキングホリデーでバンクーバーにいた頃です。バンクーバーにはインドの方がたくさんいらして、リトルインディアと言われる街に通っていたのですが、その時にインド映画のダンスシーンを集めた映像を観て「なんだこれは」と衝撃を受けると共に、「私はこれをやろう」「私はインド映画に出るんだ」って思って。ダンサーでも無いし、インドにも行った事が無いのに、思い込みってすごいですよね(笑)。
――「私もインド映画に出る」と思える、運命的な出会いですね。その後実際にインドに行かれて。
関本:まずはインド中を旅行しました。インドって本当に広いので、場所によって全然文化が違って、映画の中で駆け落ちのシーンがあったとしてもそもそもの文化を知らないと、事の重大さとかそのシーンの意味が分からないと思ったので色々な場所を見て。二回目の渡航の際、霧がすごくて飛行機が飛ばず、デリーから帰れなくなりホテルにすし詰めにされていた時に、同年代のインドの女の子と出会って。「AYAKOはなぜインドに来たの?」と聞かれて、「とにかく私はインド映画に出たい!」って話していたんですね。そうしたら、たまたまその子が歌手をしていて「ムンバイで演技の勉強を終えて、今からバンクーバーに帰る」と。飛行機が遅れたおかげで、演技の学校の情報を知ることが出来て。その学校について調べたらとても有名な学校で、著名な俳優の方がやられていたので「その人の学校に行ったら何かつかめるかもしれない」と思って、きっかけが欲しくて飛び込みました。
――素晴らしい決断力です。
関本:海外旅行もした事が無い母親には、最初は「インド?!死にに行くの?!」って驚かれましたね(笑)。日常会話くらいの英語しか出来ないまま、その演技の学校に行って。そこはヒンドゥー語メインなのでしんどかったですね。セリフも分からないですし、授業で何を言っているのかも探り探りで、その時が一番大変だったかもしれないですね。
その後にダンスのお師匠さんに出会って。実は先日亡くなってしまったのですが、師匠がSarojiii khanさんというボリウッドのレジェンド振り付け師の方で(Sarojiii khanさんは7月3日に永眠されました)。3歳の頃から踊っているというすごい方だったんですね。ダンスは演技と違って、言語がそこまで大切では無いので、そこからはどんどん楽しくなっていって。踊った瞬間に「あ、やっぱりこれだ」という気持ちでした。
参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Saroj_Khan
――お師匠さんとの出会いが今の関本さんを作られた。
関本:そうですね。ボリウッドダンスって今色々な国で、色々な方がやられていますけど、「ボリウッドダンス」が確立するきっかけを作ったのは師匠だと思うんですね。彼女がインド映画界で初めて“振付師”という称号を得たので。私がご一緒した時はもう高齢ではありましたが、現場で座って振りを考えてくださる時に、振りが降りてくるのも本当にはやくて。色々な振付師の方にお会いしましたが、あの神がかった速さとオリジナリティは、唯一無二だと思います。今はヒップホップとかジャズとかインド民謡など、ボリウッドダンスの中に多様性があるのですが、そのずっと前から作り続けてきた師匠の凄さを身近で感じましたし、師匠と出会えたことが私の人生にとって転機だったと思います。
――ボリウッド映画の撮影というのは実際にどの様な感じなのですか?
関本:プロダクションや作品の大きさによっても異なるのですが、州で作っている「マラティ映画」という映画に出ることが多々あって、マラティ映画は小さい作品が多いので狭い部屋に相部屋だったり、食事があんまりよくなかったり、とにかく人数が多いので床の上でそこらへんで寝ていたり(笑)。それが大きい映画になると、どれもグレードが上がってとても快適でした。
撮影の時間は、だいたい1曲につき3日くらいかけることが多くて、長いものだと一週間かかったり、師匠がやった一番長い曲は15日かけて撮影したこともありました。じっくり準備して撮影に挑むものもあれば、本当バタバタのままいきなりはじまることも。朝電話がかかってきて「一人ダンサーが足りないんだけど来てくれない?!」なんていうこともありました(笑)。
――すごい(笑)。エピソードひとつひとつにインドのパワーを感じますね。ご自身が出演されることもあって、インド映画はよくご覧になりますか?
関本:インド映画は世界で一番多く本数を作っているので、色々な作品がありますが、ダンスシーンはすごく観ちゃいますね。
インド映画は俳優さんの影響力がすごくて、インドの国全体でも俳優さんとクリケットの選手は地位が高いというか、皆の人気者なんですよね。特に『WAR ウォー!!』に出ているリティクはとても人気で、このムキムキの身体に憧れて若い男のたちはみんな鍛えてますね! 以前のインド映画は恰幅の良い男性が主人公の事が多くて、私が初めて観たインド映画『ファナー』(2016)も「この人、こんなにぽっちゃりしてるのに主役なの?!」ってビックリしたんですね(笑)。でもそのアーミル・カーンも今ではすっかり鍛えてムキムキになっていますね。サルマン・カーンという人気の俳優さんと作品でご一緒した時は、メイクして衣装着替えて準備が終わった後6、7時間待たされて、何かと思ったら「サルマン・カーンの筋トレ待ち」だったこともあります(笑)。
――そんな影響力を持つリティクが大活躍の『WAR ウォー!!』ですが、ご覧になっていかがでしたか?
関本:この2人が共演するという事がまずすごいと思いました。リティクはもちろん、タイガーも鍛えていて肉体美で。そしてダンサー目線からすると、2人のダンスがめちゃくちゃ上手くて。そして大迫力のアクションで、今のインド映画業界でこの2人じゃないと出来ないと思いました。すごい高さから落ちたり、バイクアクションであったり、命をかけて挑んでいましたね。
――ダンサーの関本さんから見た、2人のダンスの魅力とは?
関本:キレがまずすばらしくて、体の使い方が上手いですね。2人とも映画ファミリーの家系で英才教育を受けているので、私からするとダンスのシーンが少ないなと感じたのですが、その分ストーリーやアクションに重点をおいていて映画として面白かったですね。共に同じミッションに挑む2人の関係性がとても好きです。
――関本さんのお好きなインド映画を教えてください。
関本:50年代、60年代の白黒の映画がすごく好きで、1本挙げるとしたら『バルサート・キ・ラート』という映画です。男性陣と女性陣が歌で戦うというラブストーリーです。良く言えば表情豊かで、悪く言えばオーバーリアクションなんですよ。白黒という事もあると思うのですが、その大きな表現方法が好きなんです。そして当時のインドの光景を見れることも大好きです。
最近の作品では『ガリーボーイ』(2018)は、人気俳優のランビール・シーンがフリースタイルラップの世界にのめり込んでいくというストーリーも良かったですし、ムンバイが舞台となっていて、私がムンバイが一番長いので景色や街並みがしっかり写っていて良かったです。ムンバイって大きなスラム街もあるので、そういった片鱗を見ることも出来て、とてもリアルな映画だったと思います。
インド映画をあまりご覧になった事の無い方には、『きっと、うまくいく』(2013)がおすすめです。本当にストーリーが素晴らしくて、結末も私は大好きなのでぜひご覧になっていただきたいです。
――『きっと、うまくいく』『ガリーボーイ』は私も好きな作品なのですが、昔の作品は観た事が無かったのでとても興味があります。改めて、ボリウッドの魅力は何だと思いますか?
関本:一番は多様性だと思います。インドという国がもともと多様性のある国ですが、それが映画にも反映されているなと。
映画もダンスがメインの作品から、『きっと、うまくいく』の様なドラマ、『WAR ウォー!!』の様なアクション大作までたくさんの作品があって、何でも柔軟に受け入れる。インド以外の人種の方もそうですが、民族の違いとか、映画によって上手くMIXされているので、飽きないんですよね。観ていてずっと勉強になる。興味を持ち続けられる事がすごいなと思います。インドの中での、映画とクリケットの地位がすごく高いので、映画への絶対的な熱量は、関わっていて楽しいです。
『WAR ウォー!!』は、歌とダンスのシーンが無ければ、インド映画っぽくないアクション作品だと思います。でも、インドのお祭り「ホーリー」のカラフルな粉をかけあって踊るシーンの歌の歌詞では「シヴァ神」の事を言っているんですね。こんなアクション大作であっても、そういったインドの要素をしっかり取り入れている所が、私はとても好きです。映像としてもとても綺麗なので、ぜひ注目してみてください。
――今日は大変貴重なお話をありがとうございました!
【動画】日本人初のボリウッドダンサー 関本恵子さんに踊ってもらった!
https://www.youtube.com/watch?v=tInvOGFcs7Y [リンク]
【関本恵子さんプロフィール】
2016年自身がプロデュースするボリウッドダンス グループ、チャクリカを立ち上げる。
ボリウッド特有の色んな要素を使い、いかにミュージカルのようなインド映画の世界感をステージ上で表現できるかに重点を置き、自ら振り付けを行う。
日本人によるインド映画のような世界を日本で撮影するという作品作りにも力を入れており、
インドと日本の架け橋を目指し、日本国内のみならず海外でも活動している。
チャクリカChakrika YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCEyqAYkrMhgf-jx56iaSHug [リンク]
『WAR ウォー!!』ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中!
【ストーリー】 「カビールが裏切った!」 インド対外諜報を担う調査・分析部RAWに衝撃が走った。国際的なイスラム教過激派テロリストを追ったRAW(インドの対外諜報機関)のNo.1 の 腕利きスパイのカビール(リティク・ローシャン)がこともあろうに味方の高官を射殺して逃亡した。 RAWはカビールを抹殺することを決定し、優秀な若手スナイパーのハリード(タイガー・シュロフ)がその重要なミッションに名乗りを挙げるが、2人の上司ルトラ大佐は心配する。ハリードにとってカビールは憧れの存在であったばかりでなく、チームの指揮官と部下として数々の作戦に従事した師でもあったからだ。ハリードはスパイとして任務を遂行すると堅く決意しながらもなお、「なぜ?」という気持ちを拭いされないままカビールの行方を追う。カビールとハリード、2人の凄腕エージェ ントの死力を尽くしての戦いが始まった!
WAR(C)Yash Raj Films Pvt. Ltd.
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