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「市原隼人という才能を無難にまとめてはもったいない」:『劇場版 おいしい給食』綾部真弥監督インタビュー



1980年代のとある中学校を舞台に、給食のことしか頭にない“給食絶対主義者”の男性教諭と“給食マニア”の男子生徒の、給食にまつわるバトルを描いた学園グルメコメディーの劇場版、『劇場版 おいしい給食 Final Battle』(3月6日公開)。テレビ神奈川、TOKYO MXなどで昨年放送された同名ドラマの映画化で、給食あるあるなど給食ネタや主演の市原隼人さんの飛び抜けた演技が話題を呼び、SNSでも「本当に面白い!」と話題になっていた作品です。今回、本作の綾部真弥監督にインタビュー。「ひと夏の思い出じゃないけれど、撮影現場も青春そのものでした」と懐かしそうに作品について語る綾部監督に、主演の市原さんのことなどいろいろなお話をうかがいました。


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●相当面白い作品として評判も高い本作ですが、その要因の一個に主演の市原隼人さん演じる甘利田先生のハジケぶりがありますよね。あの役作りは予期していたことなのか、それとも思わぬ贈り物だったのか、その点はいかがでしょうか?


もともと台本にあった甘利田先生のキャラクターは違いましたね。捉えようによってはややおとなしい感じで、普段は顔に感情が出ない人。給食の時だけ楽しい時間を過ごしていて、ややじめっとした雰囲気の先生でした。それで第一話の時でしたが、彼を市原隼人君がやってくれることになって、パワフルな感じになるだろうと予測はしていたんです。


その時に伸ばしてくれそうだなという期待感とともに彼と初めて会い、本読みというリハーサルをしたんです。立ち稽古じゃなくて、俳優みんなで読み合わせをするような。そうしたら想像をはるか超えて突き抜けた、今の甘利田先生を演じてきて、もちろん彼も試していたと思うんですけど、みんな笑っちゃったんですよ。あまりにも突き抜けていたので。


●市原さん発信だったんですね。


そうですね。でもその時は、甘利田先生は給食の時だけはしゃぐわけで、全体のお芝居の調和を図ろうと、やや抑え気味でいきましょうみたいな話をしました。でもしばらく時間が経ってみると、せっかくの市原隼人という才能を無難にまとめてしまうことも、もったないのかなという気がしてきて。甘利田先生はメガネをかけていますが、いかにもなメガネキャラにしてもよくないし、クランクインの前日まで悩み抜いて。それで給食を食べる時はメガネを外すとか、最初に全体のお芝居の調和を図りたいと言ったけれども、市原君しかできないお芝居をしようという話をしました。試行錯誤はしましたが、結果的には誰もマネできない先生が生まれたと思います。ほかの人ではウソっぽくなっていたかもしれないです。


●妙な存在感があるんですよね。どちらかと言うとドロンズ石本さん演じる国語教師のほうが学校にいそう、学校あるあるなのに、甘利田先生もファンタジーだけでなくリアリティーも濃くて。


もちろんコメディー作品なので、ウソっぽくオーバーに表現することはあるのですが、本当に給食が大好きで、料理に対して持っているうんちくや、この料理はこう食べると美味しいみたいな情熱や知識は本当なんですよ。今回の劇場版ではそっけなく見えて、実は意外と生徒のことを思っていたり、コアの部分は生々しい。ひとりの人間としての、みんなが持っている感情というか、それがたぶんゆるぎないからウソっぽく見えない。多少動作がオーバーでも、ある感情がウソでなければウソだけには見えないという、それは役者が持っている本質的な特性とも関係があり、それは少し誇張したところで影響は少ないんですよね。でも市原隼人じゃなきゃ、ここまで面白い作品にはならなかった。非常に感謝しています。



●SNSなどでも評判でしたが、撮影中に「いけるぞ!」みたいな手応えはあったのでしょうか?


普段は不安のほうが大きいですが(笑)、この作品に関してはおっしゃるとおり、ものすごく手応えがありました。撮っている時から、間違いなく面白いものになると……。


●監督ご自身も、撮影中笑っている姿を観ました(笑)


(笑)。最終的に編集して音楽を付ける時にヘマしたら、自分の責任でダメにしちゃうなって思ったほどです。市原君の芝居をワンカット、ワンカット丁寧に撮ってきて、面白くならないわけがないと。技術的なサジ加減は後から慎重にやりましたが、撮影現場ではスタッフとキャスト、この作品は絶対に面白くなると思ってやっていました。これがつまらないはずがないと、みんな本当に吹き出していましたから。


●わたしも撮影現場に行かせていただきましたが、あらかじめ収録したナレーションに合わせて市原さんが演技をしていて、笑うなというほうが無理でした。


食のドラマ・映画は山ほどありますが、どうしても食べながらのナレーションは、定番の方向になりがちなんです。そのナレーションは淡々としているものですが、それを崩しました。思い切り感情が乗っていますからね。しかもナレーション上の感情が、甘利田先生のアクションにも表れている。市原君を想定してナレーションも書けていたので、ならば大きく動かそうと。立ち上がらせたり、足を高く上げたり、市原君ならではのあて書きができたことは、非常に大きかったですね。



●細かい話ですが、台本のナレーションのト書きのところに「足を上げる」などという風に書いておくのでしょうか?


前に「市原君のアドリブ炸裂!」みたいな文字も見たことはあったのですが、僕の考えだとアドリブだった認識はなかったんですよね。本当にこれは表現方法だと思うのですが、95パーセント以上、台本にあるセリフを一切変えてないんですよ。そのまま。ただ、その時の言い方や動作が想像もつかないほど面白いことをする。表現力がとてもあるので、アドリブではなかった。台本を忠実に表現した結果、ああいう風になっただけですね。



●綾部監督の作品は、甘利田先生のような風変わりな主人公にしても、『ゼニガタ』のような裏社会の男にしても、最終的に主人公を優しい眼差しで監督自身が見つめている印象を受けるのですが、シリアスな作品での微調整は、わりと容易なのかなと思うんです。でも、給食絶対主義だった甘利田先生の場合、そうアレンジしていく作業は難しかったのでは?


監督・演出家としては、こういうコメディー作品は正直、難しかったですね。たとえば現場の雰囲気作りが演出のすべて、みたいなところもあったと思うんです。いかに主演の市原君や俳優たちがのびのびとできるか、そういう土台の雰囲気を作るとことは、ものすごくこの作品では気をつけました。初日からフルパワーで現場を進めるというか、それでみんなも思い切りやっていいのかという雰囲気を作る。それは僕にとっても勝負でした。特に最初の三日間くらいは緊張しましたね。俳優たちが軌道に乗るまでが勝負でしたかね。だから僕も笑いました。僕が笑っているので、これでいいぞという道を作ることに気をつけました。


●それでいてご自身のカラーも作風にとして表現されましたよね。


映画の場合は、何か残したいという思いは強くあると思いますね。前半はドラマのファンが喜ぶような弾けたコメディーにしていますが、気づいたらものすごいドラマが待っている。思わず見入ってしまうような。実は市原君とも相談をしていて、前半と後半で芝居の質を変えたいと思っていると。前半は突き抜け、後半はグッと締めて、目が離せないようにする。たかだか給食の話なんですけど、そこに大事なものが隠されているというか、男のロマンというか、あれだけ給食に取りつかれて孤独に生きている男が、初めて生徒であるけれども同士が生まれ、人と関係せざるを得ない状況になってしまう。それって給食だけでなく、すべてのことに当てはまることなんですよね。誰もが小学校時代に感じたことでもあり、心の琴線に触れることというか、それをわざとらしくないように物語の中でスッと入れて、「コメディーなのにどうしたのかな?」と思ってもらいたい。


●いわゆるファンサをいれつつも、『ゼニガタ』の時のような“味付け”もあるという、前半と後半のギャップは監督ならではですよね。


それは本当にうれしいですね。狙ったことはまさしくそういうことで、もちろん観ていただくみなさんのために作品を作っているのですが、自分のやりたいことをどこまで織り交ぜ、結果そうなっているとうれしいなとは思いますけどね。どうなんでしょうか(笑)。


●ドラマのままだと変わった先生のままに近いですからね(笑)


もともとの永森さんが書いた脚本の骨子が素晴らしいので、それがまずあって、市原君とライバルの生徒役、佐藤大志くんも含め、見事にすべてのピースがハマっただけなんですよね。ここまで俳優もスタッフもドンピシャで一致団結することって、なかなかないんです。撮っている最中、終わってほしくないって思うことなんて、めったにあるもんじゃない。見事に夏休みをまるまる使って、ひと夏の思い出じゃないけれど、撮影現場も青春そのものでした。子どもたちの夏を預かって、一緒になって楽しい作品を作る素敵な空間。普通、撮影って最後のほうはしんどくなるんですけど、これに関しては終わってほしくないなという、このメンバーで一緒にいたいと思っていました。その青春の日々の感じが、うまいこと作品にも出ていればいいなと思っています。ぜひ劇場で観てください!



タイトル:劇場版 おいしい給食 Final Battle

公開表記:3月6日(金)よりユナイテッド・シネマ豊洲ほかにて全国公開

配給:AMGエンタテインメント/イオンエンターテイメント

(C) 2020「おいしい給食」製作委員会


(執筆者: ときたたかし)


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