全米公開初登場1位を獲得し、各メディアから「スパイダーマン映画史上最高傑作!」と空前の大絶賛を受けた『スパイダーマン:スパイダーバース』。スパイダーマン映画シリーズで初めてゴールデン・グローブ賞(アニメーション作品賞)、アカデミー賞<長編アニメーション賞>を受賞した超話題作です。
本作の魅力は個性的なキャラクター、ストーリー、キャラクターの声を日米の声優陣の素晴らしさなどなどたくさんあるのですが、何といってもクールなアニメーション描写が最高なんです! 映画を観ている間ずっと「これどうやって作ったの?!」という驚きの連続。新しいアニメーション表現の素晴らしさに映画ファン、アニメファンは興奮すること間違い無し。全国民必見の大傑作なのです!
そんな本作にCGアニメーターとして参加しているのが、日本人クリエイターの若杉遼さん。単身渡米後、ピクサーの『アーロと少年』、ソニーピクチャーズイメージワークスの『アングリーバード』や『スモールフット』などに携わってきた若杉さんに、色々とお話を伺いました。
『スパイダーマン:スパイダーバース』ストーリー
ニューヨーク、ブルックリン。マイルス・モラレスは、頭脳明晰で名門私立校に通う中学生。彼はスパイダーマンだ。しかし、その力を未だ上手くコントロール出来ずにいた。そんなある日、何者かにより時空が歪められる大事故が起こる。その天地を揺るがす激しい衝撃により、歪められた時空から集められたのは、全く異なる次元=ユニバースで活躍する様々なスパイダーマンたちだった――。
――本作大変楽しく拝見しました! 若杉さんがこの映画の中でどんなお仕事をされたのか教えていただいてよいですか?
若杉:CGアニメの場合も通常のアニメと同様に絵コンテがあって、監督からの「こういう感じの映像が見たい」という指示を受けます。その後、監督とアニメーターが全体的なヴィジョンを話して、それをどうすればうまく伝えられるかを考えていきます。その後はどういう表情にするかを考えて作り、監督に見せて意見をもらうという流れです。基本的には自分たちが自由に作って進めていきます。
――なるほど、例えば「この時のマイルスはこういう気持ちだろうから、こういう表情にしよう」といった感じに。
若杉:そうですね。作った表情や動きでお客さんがどれだけキャラクターに感情移入できるか。伝えたいメッセージを動きに乗せてお客さんに伝えるのが僕の仕事だと思っています。
――今日、スケッチを持ってきていただきましたが、こうやって手描きで表情や動きを考えるのですね。
若杉:そうですね。これはキャラクターの動きを考える時に、自分の頭を整理する意味でも紙に描いているのですが、実際のアニメーションにも1コマずつ手作業でカットを加えています。この映画は擬音が文字で飛び出てきたり、コミックから出てきたようなスタイルなので、その世界観を表現する為に線を手描きで描いたり、顔のしわを手描きで描いたりしました。コミックって手描きなので、そのコミックでの動きを示す線などをどう再現できるかを意識しています。
――この若杉さんが描かれたスパイダー・グウェンとか、本当に体のしなやかさが伝わりますよね。
若杉:ありがとうございます。個人的にもスパイダー・グウェンが一番好きなキャラクターで、バレエをしているという設定なので、ダイナミックなポーズやバレエの様なしなやかなポーズを作りやすかったですし、考えていて楽しかったです。
――スパイダー・グウェン!格好良いですよね!
若杉:女の子のキャラクターだけど美しさだけではなくて、格好良さがあり、深い考えを持っていて、マイルスにとっても大きなきっかけになるキャラクターで好きです。
――そんなしなやかで格好良いグウェンの様なキャラクターもいれば、ペニー・パーカーの様なTHEアニメなキャラクターがいたり、スパイダー・ハムの様なカートゥーンそのもののキャラクターもいて、その融合も面白かったです。
若杉:そこが実写では絶対に出来ないし、CGアニメでやる理由ですよね。基本的にはリアリスティックな表現が多いですが、ペニーのようなキャラクターもいれば、スパイダー・ハムのようなルーニーテューンズのようなキャラクターもいるのをアニメ的に表現できるというところが今回の見どころの1つと言って良いと思います。
――たくさんあると思うのですが、アニメーターとして観客に一番注目していただきたい部分はどこでしょうか?
若杉:「モーション」です。キャラクターがパンチしたときのモーションブラー(被写体ブレ)とか、顔の表情のシワを全部一つ一つ描いてますし、細かいディテールをすべてアニメーターが手描きで担当しているので注目して欲しいです。これはものすごく大変な作業なのですが(笑)、でもアニメーターとしてはキャラクターが動いている姿が嬉しいので、大変であり、楽しい作業でした。
――本作は全世界でヒットを記録して、様々な賞レースにノミネートされていますが(取材時はゴールデングローブ、アカデミー賞発表前)、作っている時も「これはすごい作品に関わっているぞ」という意識はあったのですか?
若杉:そうですね、映画を制作している最中にあがってくる絵が、これまで見たことがないヴィジュアルだったので、やりながらすごく楽しかったです。新しいな、と思いながらつくっていました。でも、個性的ではあるのでこれがどのくらい多くの人に受け入れられるのか心配だった部分もあって。公開されてとてもたくさんの方に楽しんでもらえて、嬉しかったです。僕も完成した映画を観たら、時間が経つのもあっという間で最高に楽しかったので、日本の皆さんにも楽しんでいただきたいです!
――若杉さんは大学卒業後、渡米してサンフランシスコの美術大学「Academy of Art University」に入学、現地のアニメーションスタジオで働くようになったわけですが、こういった職業を目指すきっかけはどんなことだったのですか?
若杉:僕はずっと野球をやっていたのですが、体があまり大きくないので、野球で頑張っていくのは難しいかなと思ったんです。その後、高校が進学校だったことでたくさん勉強して良い大学を目指してっていうのが当然の流れ、みたいな空気はあったのですが、映画が好きだったのでその世界に行きたいなと決心しました。なので、この映画の中のマイルスが最初、自分が望んでいない道を歩いて悩んでいることも共感が出来るんです。
――なるほど、それはマイルスと通じる部分がありますね。
若杉:僕はアメリカに行って「ピクサー」で働きたいという気持ちが強く、運良く叶えることが出来ました。でもそうした願いは全員が必ずしも叶うとは限らない。でも、自分にしか出来ないものというのは必ず1人1人にあると思います。その事が大好きだと燃えたり、寝る間も惜しんでやってしまうような、情熱が煮えたぎるものがあることは素晴らしいと、この映画は伝えてくれていると思います。他作品になりますが、僕はピクサー映画の『レミーのおいしいレストラン』が好きで、「自分がなりたいもの」への道を閉ざされかけた主人公が頑張っている話に、やっぱり感動を覚えるのだと思います。
――この映画は多くの子供たち、若い人、大人たち、たくさんの人の背中を押す作品担っていると思います!
若杉:そうなんですよね、大人が観ても面白い! アニメをいまだに子供の物と思っている方がいると思います。でも本作はそういう流れも変えてくれるのかな? と。「次の『スパイダーマン』てアニメなの?!」って驚いた方もいらっしゃると思いますが、『スパイダーマーン』が持っているメッセージは失わずにさらに高い表現に到達しているのが『スパイダーマン:スパイダーバース』だと自信を持っているので、ぜひ映画館で楽しんでいただきたいです。
――今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!
この若杉さんが着ているTシャツは、映画制作中、スタッフ用に作ったものなんですって! (アメリカの映画会社は、スタッフTやバッグなどに凝ることが多々あります)
このバッヂもスタッフ同士で制作したそうで、なんとインタビュー後に一つ筆者にくださったのです…! 若杉さん本当にありがとうございます、家宝にします!
『スパイダーマン:スパイダーバース』3月8日公開!
http://www.spider-verse.jp/site/
若杉遼(わかすぎりょう)さんのTwitter @Ryowaks
https://twitter.com/Ryowaks [リンク]
―― 会いたい人に会いに行こう、見たいものを見に行こう『ガジェット通信(GetNews)』