「冷えとりで靴下で毒素排出」「市販の生理用品は子宮が冷える」そんな言葉に「やばい私何もやってない……」と不安を感じたことがある女性、多いのではないでしょうか? 最近では「子宮の”声”を聞けば幸せになれる」といった、思わずギョッとしてしまう女性の幸せを謳った本や記事が多く出回っています。
でもそれって、女性を救う顔をして不安をあおっているだけかも? そんな健康アドバイスに見せかけた”呪い”の正体に迫った書籍『呪われ女子になっていませんか?』が現在発売中。ノリは軽いが罪は重い! トンデモ健康・美容法の恐さに警鐘を鳴らす、著者の山田のジルさんにお話を伺ってきました。
▲著者の山田ノジルさん
――本著、大変興味深く拝読しました! 苦笑いせずにはいられない『子宮系女子』や『経血コントロール』から、やっている人も多いであろう『冷えとり』まで、様々な”呪い”が紹介されているわけですが、執筆のきっかけはどんなことだったのでしょうか?
山田:私はもともと女性誌で美容系の記事を書いていたのですが、美容や健康系の記事って”トンデモ”が多いんですよね。「骨盤ケア」とか「納豆ダイエット」とかもその一種で、そういったブームをエンタメとしてとらえるか、本気にしてしまうかは難しい所なのですが、女性をターゲットにした情報って本当にそういうものが多いなと常々おもっていました。
そんな時に、知り合いの編集者である三浦ゆえさんが『セックスペディア 平成女子性欲図鑑』という性の新しい用語辞典を出し、そのトークイベントに遊びに行ったんですね。その時に「ジェムリンガ」(※)というアイテムを知り、「女性まわりの健康・美容ってここまでおかしくなっていたのか!」と衝撃を受けて、こうしたネタをまとめていくことにしました。
※ジェムリンガとは:連結したパワーストーンを女性の膣に入れることによって、体調が良くなったり さまざまな問題が解決するとほのめかす霊感商法。「繰り返し使う(使い捨てではない)」という非衛生的な使用法が批判の対象になった。
――ジェムリンガは相当にやばかったですね……。でも、そういう明らかにやばいネタから、一見「ロハス〜素敵〜」で片付けられちゃいそうな、冷えとりやハーブの問題もあって。
山田:『子宮系女子』とかは、「子宮が望みを叶える」とか「子宮の声」とかの主張もエクストリームですし、トンデモをウォッチしている人からは既に話題ですし、この本で知ってくださった方も「なんじゃこりゃ」って思うと思うんです。でも『冷えとり』とかってすごくポピュラーで、寒い時に湯たんぽで足を温めたり、腹巻きしたりすることはごく一般的ですし、何の問題もない方法です。ところがそれらと同じもの思われがちである、5本指の靴下を何枚も重ねばきするという手法の冷えとり健康法は、その元を辿っていけば『靴下重ね履きで足裏から毒素が排出される』『冷えがとれれば虫歯の痛みもガン細胞も消える』とかすごくおかしな事を言っている。それが今や専用の靴下が百貨店等で普通に売られていたりして、トンデモ健康法への入り口がカジュアルに広がっているんです。
健康な人は靴下の重ねばきをした所で何もマイナスにはならないから良いのですが、問題を抱えている人がその健康法をきっかけにどんどん深い部分にハマっていってしまうかもしれない。冷えとり健康法のベースにある「薬に頼るのは愚か」という思想で日常生活の質が下がったり、赤ちゃんに5枚、10枚靴下を履かせてアトピーを治そうとしたり……。5本指の靴下が悪なのでは無く、それをきっかけに標準医療を受ける機会を逃し、トンデモに転んでしまう事が恐いと感じています。しかもこういった健康法の多くは、良かれと思って拡散されるので、その怖さが伝わりにくい一見オシャレで可愛く見えるものでも、狂った世界が根底にあるものも少なくない事を知っていただきたいと思っています。
――治療が遅れて取り返しがつかないことにもなりえますよね。
山田:今って体に不調があるとお医者様にすぐ見てもらうのでは無くて、まずネットで検索する人が多いですよね。そうすると、ヒットする多くは、湯水のごとくあふれているトンデモ情報です。『WELQ(ウェルク問題)』(※)でかなりの騒ぎになったのに、未だになくならないんですよね。。
※WELQ問題:「肩こりは霊のせい!」などど、信憑性の無い健康記事を量産していたメディア。そういったトンデモな内容の記事と共に、他メディアやSNSをコピペし記事が大量生産されていたメディアの背景が大問題となり、現在は閉鎖。2016年のネット事件の一つ。
――例えば「10円玉で肩こりが治る!」みたいな民間療法って昔からあったわけですが、ネットの普及によってさらに身近に広がってしまった感はありますよね。
山田:私が非常にまずいなと思うのが、脅す様な言葉が多いところなんですよね。「添加物の入ったものを食べると、将来子供が発達障害になる」とか。そう言われると興味が無くてもやらなければいけない気持ちになってしまう。それが、しっかりと医学的に判明しているのだったらまだ良いのですが、どれも全く根拠のないイメージだけの話が多い。体に合わなくて湿疹が出ていても「これは好転反応だから良いのだ」と放っておいたり、「皮膚をかきむしることで毒が出る」とか、子供の食物アレルギーの原因になることが推奨されたり。入り口は手軽に見えても、1歩間違えると泥沼へハマる怖さを、皆で共有したいなと思っています。
――この本は、女性の皆さんが当事者として読むのはもちろん、男性が奥さんや彼女の「目を覚まさせるため」に読むのも良いと思いました。
山田:それはありますね。やっぱり女性のほうが健康意識が高いので圧倒的にトンデモ沼にハマるケースが多く、「奥さん(彼女)がやばい」と男性からの相談を受けることもありますそんなとき、「彼女がおかしくなっかも」なんて漠然と不安になるより、女性を取り巻くこんな世界があるんだよ、と知っていただければ少しは落ち着いて対処できるのではないでしょうか。
――山田さんは記事執筆の為にトンデモ系のイベントに潜入することもあるのですか?
山田:行きます行きます。トンデモ度の強い健康や美容系のイベントに行くと、主催者は単純にビジネスでやっているかもしれないけれど、周りの”信者化”した来場者がヤバイな、大丈夫かなという目でみてしまいますね。
――ハマりやすい人って純粋なんですかね?
山田:そうですね、ハマっている方の多くはピュアで真面目で……。さらにちょっと自己肯定感が低かったり、居場所が無くて寂しいって方も多いと思います。トンデモ界の主張うんぬんよりも、同じ事をしている仲間同士で集まるのが楽しいというか、趣味の集まり的になっている場合も多いと思います。さらに世間一般の認識からかけ離れたトンデモであるほど「世間は知らない・報道されない真実を知っている私たち」みたいな選民意識も出てくるようで。
――仲間が増えて友達になって居心地がよくなるとまた離れられない……。みたいな。トンデモ界のリーダー達はSNSを使うのも非常に上手ですよね。
山田:素敵に、幸せに、うまくいっている感を見せる演出が非常に上手ですよね。例えば、『子宮系女子』達の中には「お金は使えば使うほど入ってくる」という考え方があって、その証拠かつ、お金への罪悪感を捨てるワークとして札束を持った写真をSNSにアップしたり。冷静に見れば「子宮の声=真の望み」に欲求をゆだねれば、お金が巡ってくる! なんて、高額なセミナーや商品に財布のひもを開かせる詭弁にしか聞こえませんが、どぎつい写真とお説のインパクトに、引き寄せられてしまうのでしょうか。努力しないで手軽にご利益を得たい気持ちはパワースポットに行くそれと同じでしょうが、SNSのキラキラ演出は「自分もこうなりたい!」という欲求を上手に操作されてしまうようです。
――本著の最後では、「次巻では妊娠や出産、育児に関する呪いを取り上げたい」と書かれていますが、まだ自分で選択できない子供達が巻き込まれるのは本当に可哀想ですよね……。
山田:教育現場に「道徳」の授業が導入されて偏った価値観の感動やら思いやりを押しつけられたり、妊娠出産の現場で必要以上に母乳を絶対視する指導が行われていたり。どこにでも変な事が入り込んでいるのが興味深いですし、恐しくもあります。今回の本は、根拠なく「女たるもの、こういうケアをせねばならぬ」と推されている健康法を中心にご紹介しましたが、子供達にトンデモの芽をまくような界隈のおかしさにも、声をあげていきたいですね。
――「子供達にトンデモの芽をまかないで欲しい」まさにおっしゃるとおりだと思います。女性の皆さん、まずは自分の中にあるトンデモの芽をつみましょう!
『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』山田ノジル著
発売中
発行:ベストセラーズ
四六判 256ページ
定価 1,400円+税「トンデも」なものたちに、体当たりで実践、体感したうえで、
「これっておかしくない?」と異を唱える山田ノジル。
時に面白おかしく、時に真面目に、女性の体を取り巻くあやしいものたちを、一刀両断する。
※ 各章末に医師(宋美玄先生ら)への取材対談もコラムとして挿入。医学的な検知で子宮系スピリチュアルの問題点を指摘、説明。山田ノジルさんTwitter:
https://twitter.com/yamadanojiru [リンク]
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