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「一体どうしてこんなにまで嫌われるのだろう?」頭から衣をひっかぶって声をワンワン大泣き!! 妻は子連れで怒りの帰省 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~




腹心に裏切られ絶望!籠城作戦ついに崩壊


強引なやり方で亡き親友の妻・落葉の宮をムリヤリ山から連れ戻したものの、彼女のハートはいよいよ閉ざされ、新婚生活は初夜から難航。でも、いつまでも締め出しをくらっているわけにはいきません。


「僕は宮の意志を尊重するつもりだから、実際の夫婦生活はすぐに始まらなくても構わない。でも少なくとも見かけ上は夫婦らしくしてくれないと……。どうしてこうも大人げないのだろう。


だいたい、ここまできて、僕の足が遠のいたら困るのは宮のほうだろう。ウワサは誰もが知るところ、そんなことになったら、宮は再婚に失敗して捨てられたと言われてしまうんだよ」。


夕霧はこう言って、側近の小少将の君を責めます。確かに夕霧の言うことも一理ある。宮の父・朱雀院はこうなることを恐れ、出家もやめるようにと諌めたのです。


板挟みに窮した小少将はついに、夕霧を女房たちの秘密の出入り口に案内しました。塗籠は通常、四方を壁に囲まれた部屋ですが、ちゃんと隠し扉がありました。


宮の驚き呆れたこと、その絶望は計り知れません。腹心の小少将までもが寝返った!もう誰も信用できない!!籠城はついに突破され、孤独な彼女は自らの無力さを噛み締めます。


どうしていいかわからない!あまりの激しい抵抗に呆然


あなたに嫌われ、蔑まれて、それでも諦めきれないのが我ながら恥ずかしい限りですが、これも前世からの因縁と思って下さい。思い通りにならない時、川の淵に身投げする人もいるそうですが、私の愛情を深い淵だと思って身を任せて下さい」。


夕霧は言葉を尽くして宮の心を解きほぐそうとしますが、彼女はますます嫌がり、しまいには衣を頭からひっかぶって声をワンワン大泣きし始めました。よっぽど悔しかったんでしょうが、泣きすぎ!!


この激しさにさすがの夕霧も面食らいます。ここまで来ればもう白旗を上げて降参してくれるとばかり思っていたのに……。


一体どうしてこんなにまで嫌われるのだろう?宮さまは石や木ほども僕に心を寄せてくださらない!これも、前世からの因縁が薄すぎるからなんだろうか?」前世ほど遡らなくても、今までの経緯が彼女をにとって嫌すぎただけだと思う……。


取り付く島もない様子に、夕霧のなけなしの口説きモードも吹っ飛んでしまい、もうどうしていいかわからない。大泣きする宮を慰める気も失せてしまった夕霧の脳裏に、この件で不仲になってしまった雲居雁のことがよぎります。


幼い頃から仲良く育ち、苦難を乗り越えて一緒になって、たくさんの子供達を産んでくれた妻。あんなにぷりぷり怒っていたのだって、僕を心から信頼してくれていたからなのに。それもこれも、自分の身勝手な恋のせいで台無しになってしまった。しかも、その相手からは心底嫌われている有様……。


冷静になってみれば、なんでこんな事になっちゃったのかなぁ?ロジカルな夕霧の「こうしたらこうなるだろう」という思惑に徹底して反し、おとなしそうに見えて一筋縄ではいかないタイプの宮。


恋は理屈じゃないものですが、経験不足かつ臨機応変さに乏しい夕霧にはそこがわからず、難易度が高すぎたと言えそうです。でも、こうなったからには仕方ない。彼女にほとほと手を焼きつつ、夜は次第に明けていきます。


「私なんて……」劣等感が邪魔をする形だけの夫婦成立


すごすご帰る醜態を晒すのもアホらしいと思った夕霧は、朝が来ても帰ろうとしません。そのうち、暗い塗籠にも朝日が差し込み出しました。


夕霧は宮がひっかぶっていた衣を取り除けて、乱れた髪をかきあげてお顔を拝見。宮は気高く上品で優美でした。


宮もはじめて、明るいところで夕霧の顔を見ました。源氏も太鼓判を押した美貌を間近に見て、宮は「なんと美しい方だろう。以前よりもやせ衰えた無残な私を、こんな方に見られるなんて……」と再びコンプレックスに苛まれてしまいます。


それもこれも、柏木が女三の宮に夢中で、この宮のことはまるで魅力がないかのように扱ったせい。これさえなければ、宮ももうちょっと夕霧との再婚にポジティブになれただろうに、一度染み付いた劣等感は簡単に消えません。


ここで柏木の顔については「特別優れた容貌ではなかった」とあるので、柏木は今で言う雰囲気イケメン系だったのでしょう。純粋な顔面偏差値でいけば、夕霧のほうが上のようです。


この時代、基本的に男女が互いに顔を見るのは結ばれるときだけ。それまで、よく顔も知らない相手とすったもんだしていたのかと思うと、逆に今のネット社会に通じるような気もしなくもないですが……心はともかく、どうにかこうにか、2人は夫婦の形を整えることができました。やれやれ。


これを受けて、大和守以下、お仕えする人々は喪中に気を配りながら、ささやかに2人の門出を祝います。また、夕霧という羽振りの良い夫君を得た宮に取り入ろうと、仕事をサボりがちだった家司(執事)などもいそいそ出勤。今まで寂れていた一条邸はにわかに活気づき始めました。


しかしまだ御息所の喪中でもあり、頭の中将家側が何と言ってくるだろうと思うと、宮は考えただけで気が滅入ります。亡夫・柏木と、夕霧の正妻・雲居雁は兄妹。父親の頭の中将からすれば、死んだ長男の妻が娘婿と再婚したわけですから、前途多難もいいところ。夕霧もそれを十二分に理解しつつも、やはり気持ちを抑えることができなかった、というところでしょうか。


今までも全然「おめでとう」と言えない結婚の方が多いこのお話ですが、この結婚はその中でも屈指の愁嘆場と言えそうです。まあ、それでも使用人の立場からすれば生活が安定するのはありがたいこと。当人たちのゲッソリした様子に比べ、途端にやる気を出し始めた彼らのゲンキンさが対照的です。


「もはやこれまで!」妻、子連れで怒りの帰省


事の次第を聞いた雲居雁は「もうこれまでってわけね。夕霧に限ってそんなことはないと信じていたけど、免疫がない人が恋愛にハマると大変だっていうのは本当なんだわ」と、いよいよ愛想を尽かします。


そして娘たちと一番下の赤ちゃんに着替えをさせ、自身も身支度をして「方違えに実家に帰るわ。夕霧が戻ってきてきたらそう言って」とだけ言い残し、子どもたちの約半分を連れて実家へ帰省してしまいました。あーあ。


いつの時代も、旦那に腹が立ったら実家に帰るというのは奥さんの常套手段。髭黒が玉鬘と結ばれたあと、彼の妻が子供を連れて実家に帰ったシーンに似ていますが、雲居雁はここで女の子と赤ちゃんだけを連れて、半分は取り残している点に注目です。


夕霧はこれを聞いて慌てて自宅の三条邸に戻ります。頭の中将はいつまでたっても気が強く、白黒はっきりつけたがる性格。年をとって丸くなる、というところのない人物です。ましてや自分にも関わりのあることを、穏やかに静観するタイプではありません。


もう既に話題になっているのに、娘が孫を連れて帰ったとあっては、彼が黙っているとは到底思えない。さあ、まだまだ波乱が巻き起こる!


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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