「将来的に“smoking(喫煙)”という言葉は辞書から消えるでしょう」。
そう語ったのは、フィリップ モリス インターナショナル(以下PMI)グローバル・コミュニケーション部門のシニア・バイス・プレジデント、マリアン・ザルツマン氏。世界最大級のたばこメーカーによる発言と考えると、そのインパクトは計り知れません。しかし裏を返せば、紙巻たばこの代替品となる加熱式たばこ『IQOS(アイコス)』の開発に対する確固たる自信の表れとも言えるでしょう。
10月中旬、PMIは日本を含む『IQOS』の主要な販売国である7か国(日本、スイス、韓国、ロシア、イギリス、コロンビア、イタリア)のメディアを、スイスにある同社の研究開発施設に招待。“煙のない(スモークフリー)社会”を目指す製品の開発現場や、健康リスクを低減するための研究を行うラボを公開しました。
「紙巻きたばこは将来の製品ではない」
アメリカのニューヨークに本社を置き、スイスのローザンヌに統括本部を持つPMIですが、『IQOS』の研究開発本部があるのはスイス西部の湖畔の街ヌーシャテル。2008年に建てられたCUBE(キューブ)と呼ばれるガラス張りの四角い建物内では、30の専門分野で430名の科学者と技術スタッフが、RRP(リスクを低減する可能性のある製品)の開発と評価に従事しています。
ザルツマン氏は「1900年頃の最大の死因は胃腸炎でしたが、現在では薬局で手軽に胃薬を入手することができます。現在は着用が義務化されている自動車のシートベルトが存在しない時代もありました」と、時代と共に様々なリスクを低減する科学技術が生み出され、イノベーションが社会の安全性を改善してきたことを説明。たばこ産業においてはまさに現在、技術的な大転換期を迎えていると述べます。
「たばこを吸う知覚的な体験や喜びを維持しながら、健康リスクを低減することはできないのか。紙巻きたばこのより良い代替品を模索し、その問いに対する回答が見いだせると信じて、我々は研究開発に取り組んでいます」。その結果としてCUBE内で生み出されたのが『IQOS』。2014年11月に世界に先駆けて名古屋とミラノで発売。その後、日本では2015年9月に全国展開を開始し、今年6月には『IQOS』の国内利用者が500万人を突破したことが報告されています。
紙巻たばこは600度を超える温度でたばこ葉を“燃焼”するため、有害な成分を含む煙が発生します。一方で、『IQOS』は350度以下の温度でたばこ葉を“加熱”させるため、灰や煙が発生しないのが特徴。『IQOS』から発生するのはニコチンを含むエアロゾル(蒸気)で、紙巻たばこと比較して有害な化学物質のレベルが大幅に低減されています。
「紙巻きたばこは将来の製品ではないと確信しています。我々の使命は、我々が生み出した製品(紙巻きたばこ)を“殺す”ことです」とショッキングな言葉も交えつつ、「その努力を加速化し、ゴールにかなり近づいていると考えています」と力強く語られました。
CUBEで実証されたリスク低減のエビデンス
「ゴールに近づいている」とする自信を支えているのは、PMIが提供する様々な実証データにあります。CUBEのラボで今回見ることができた装置の一つが、スモーキングマシンと呼ばれるもの。ガスクロマトグラフィーという手法を使い、紙巻きたばこの煙と、加熱式たばこの蒸気から出る成分を比較分析するため、それぞれに含まれる様々な成分を分離して捕集するための装置です。
比較に使われる紙巻きたばこは、ケンタッキー大学によって開発された実験用標準紙巻たばこ『3R4F』。たばこ葉や紙巻たばこに使用されているその他の材料を燃焼させると約6000もの化学物質が発生し、その中の約100の化学物質が喫煙による疾患の主な原因になるとされています。
そのうち米国食品医薬品局(FDA)が指定する18の「低減すべき有害性物質」を調査したところ、『IQOS』に含まれる当該の化学物質は紙巻きたばこと比べて90%以上低減されていることが判明。さらにPMIでは独自に選定した58の化学物質を比較調査し、『IQOS』はその厳しい基準においても90%以上の化学物質が低減されていることを証明しました。また、発がん性物質として知られる15の化学物質を特定して調べたところ、紙巻きたばこと比較して95%以上の低減が確認されています。
たばこメーカーによるこうしたメッセージを懐疑的に眺める人もいるかもしれませんが、PMIではこのエビデンスを客観的に確固たるものにするため、CUBEで実施される非臨床試験だけでなく、外部の専門家や企業に臨床試験を委託しています。先日発表された6か月間の臨床試験結果では、「紙巻たばこの喫煙から『IQOS』使用へ切替えたことにより生体応答が改善された」ことが明らかとなっています。
喫煙関連疾患の指標が禁煙者と同様に変化 フィリップ モリスが加熱式たばこ『IQOS』の曝露反応試験の結果を発表
https://getnews.jp/archives/2061951[リンク]
サイエンス&パブリック・コミュニケーション部門のバイス・プレジデント、モイラ・ギルクリスト氏は、「PMIでは医薬品と同様の工程を経て『IQOS』を開発し、有害性物質の削減を目指しいます。しかし『IQOS』はリスクフリーではありません。また、非喫煙者が『IQOS』を使い始めることは目的としていません。我々は少量でもリスクが残っていることをしっかりと伝えなくてはなりません。紙巻きたばことの併用ではなく、完全な切り替えを目指しています」とし、世界に10億人の喫煙者がいるといわれる中、「2025年までには4000万人以上が紙巻きたばこから加熱式たばこに完全スイッチすることを目標としています」と宣言しました。
「紙巻きたばこと同等の満足感」はどのように生まれるのか
PMIが健康リスクの低減と共に繰り返しアピールするのが、『IQOS』を利用した時に得られる「紙巻きたばこと同等の満足感」。それを実現するのが、デバイスや『IQOS』の専用たばこであるヒートスティックに見られる様々な特殊技術です。
他社の加熱式たばこと比べて『IQOS』の特徴と言える一つが加熱ブレード。『IQOS』はホルダー内のブレードにヒートスティックを挿し、その内側から全体を均一の温度で加熱することでたばこ葉の味わいを最大限に引き出します。ヒートスティックを適切な温度になるように制御するため、ブレードには自動車業界で使われている温度センサーのテクノロジーが応用されています。
また、ヒートスティックに含まれるたばこ葉は紙巻きたばこと異なります。独自にブレンドしたたばこ葉を粉末にし、水やグリセリンを加えてペースト状に。これを乾燥させてシート状にするのですが、その際に波形に成型することがポイント。ブレードに挿して加熱するのに最適な密度を計算し、たばこ葉のシートを折りたたんだ時にわざと隙間ができるように加工しているのです。
この工程はCUBEに隣接するヒートスティックの生産工場で目にすることができました。ここではCUBEで開発されたヒートスティックの各種プロトタイプが製造される他、一部は日本市場向けに出荷される製品も製造しています。
また、『IQOS』はニコチンフリーではないという点も「紙巻きたばこと同等の満足感」に繋がるわけですが、ニコチンについては「確かに依存性があり、リスクがゼロということではありません。若者や妊婦、心臓に欠陥がある人は摂取すべきでありません」としつつも、「ニコチンは喫煙に関連する疾病の大きな要因であると考えていません」(ギルクリスト氏)と、タールや一酸化炭素などの有害性物質と比べてニコチンそのものの害は小さいと説明しています。
新型デバイスを発表
筆者のCUBE訪問から数日後、フィリップ モリス ジャパンは新型デバイスの『IQOS 3』と『IQOS 3 MULTI』を発表しました。
新型『IQOS』2機種が11月15日に発売 オールインワン型は連続10回の吸入が可能に
https://getnews.jp/archives/2089451[リンク]
PMIがいくら健康リスクの低減や紙巻きたばこと同等の満足感を追求したところで、ユーザーにとっては「このデバイスを持ち歩きたいか」というガジェットとしての魅力も重要だったりします。その点においては発売前からユーザーの評判は上々。さらに、ユーザーのスタイルにあわせて選択肢が広がるモデルチェンジと言えそうです。
加熱式たばこ市場をけん引する『IQOS』はこれからも新たな研究成果やテクノロジーを発表していくことでしょう。その折に触れて、スイス西部の四角い建物で多くの研究者たちが並々ならぬ努力をしていることをちょっとだけ思い出してみてくださいね。
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