長編デビュー4作にして北欧を代表する監督となったヨアキム・トリアーが、自分自身の知られざる能力に翻弄される少女を描くホラー映画『テルマ』が10/20より日本公開。
厳格なキリスト教徒の家庭に育った少女・テルマ。進学を機に親元を離れた彼女は初めての恋を経験しますが、彼女の恋が神に背くものだと分かったとき、彼女の“恐ろしい秘密”が目覚めてしまうことになります――。
そんな『テルマ』の主人公のように、“覚醒する少女”がキーの2010年代映画を5本ご紹介します。
『キャリー』(2013)
スティーヴン・キング原作、ブライアン・デ・パルマ監督による76年の傑作ホラーのリメイク。信仰に囚われた母親の束縛、クラスメイトからの執拗なイジメ……強い抑圧を受けてきた内気な高校生キャリーが、念じるだけで物を動かす不思議な能力に目覚めていく物語です。
キャリーを演じたのはクロエ・グレース・モレッツ。華やかで芯のある彼女のイメージは、かつてシシー・スペイセクが演じたか弱いキャリーの役に向かないとも言われていましたが、『キャリー』という物語を新世代に訴求するための強いフックにはなったはず。オリジナル版を知らずとも、クロエちゃん目当てに今作を観たという若い人も少なくないのではないでしょうか?
『エクス・マキナ』(2015)
第88回アカデミー賞視覚効果賞を受賞したSFスリラー。孤独な女性型人工知能ロボットの覚醒物語です。プログラマーのケイレブが招かれたのは、若くして成功した天才社長が秘密裏に進めていた人工知能の研究施設。彼はそこで女性型人工知能ロボットのエヴァと出会い、彼女の実用性と人間性についてテストを行う役目を与えられますが――。
人工知能のエヴァというキャラクターを、機械的にも人間的にも感じさせるアリシア・ヴィキャンデルの演技が秀逸。エヴァとケイレブの距離が近づくたびに、“人間”とは、“人間性”とはなんなのかを考えさせられます。強烈なラストも印象的です。
『ウィッチ』(2016)
サンダンス映画祭監督賞のほか世界各地の映画祭を席巻。17世紀の魔女伝説をテーマにした、ロバート・エガース監督のダーク・ホラーです。舞台は1630年のアメリカ・ニューイングランド。街を追われた敬虔なキリスト教徒の一家が森の近くに引っ越してきますが、長女のトマシンが子守をしていた最中に赤ん坊が突如姿を消したことから、一家はトマシンが魔女なのではないかと疑いはじめ……。
トマシンを演じたのはアニヤ・テイラー=ジョイ。無垢で神秘的、唯一無二のオーラを放つ彼女は、今作を観たM・ナイト・シャマラン監督に『スプリット』のヒロインへと抜擢されます。『スプリット』と『アンブレイカブル』の続編となる『glass』(2019年1月米国公開予定/日本公開未定)にも出演が決定していますよ。
『ネオン・デーモン』(2017)
『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督が、欲望と嫉妬渦巻くファッション・モデルの世界を描いたスタイリッシュ・サスペンス。美しく純真な16歳の田舎娘ジェシーは、モデルになる夢を叶えるためロサンジェルスへとやって来ます。彼女の美貌はすぐに人々の目に留まり、整形も厭わぬライバルたちをあっという間に押しのけ、トップモデルの夢に向かって順調すぎるほどの素晴らしいスタートを切りますが――。
あどけなさの奥にタフさが垣間見えるエル・ファニングは、ファッション業界でのし上がっていく主人公ジェシーがハマリ役。流血も厭わぬホラーシーンも新鮮でした。
『RAW 少女のめざめ』(2018)
フランス人女性監督、ジュリア・デュクルノーの長編デビュー作。世界各地で失神者や吐き気を催す観客が続出したという衝撃作です。厳格なベジタリアンの獣医一家に育った16歳のジュスティーヌは獣医学校に進学しますが、新入生通過儀礼として生肉を無理やり食べさせられてしまいます。初めて知った肉の味……その時からジュスティーヌのなかで何かが目覚め、激しい食肉の衝動に襲われるようになり――。
眼力が印象的なガランス・マリリエールが、初めての恋と本能に翻弄される主人公を熱演。『地獄愛』『変態村』のローラン・リュカが主人公の父親役を好演しました。
これらの作品は、ホラーやスリラーの要素を持つ作品ですが、成長の痛みを伴う青春の物語でもあります。少女が秘める神秘的な美しさを持つ主人公たちも魅力的。
いわゆる“脅かされる”系のホラー映画が苦手な人でも観やすい“少女覚醒”系のニューホラー。その中の新たな傑作となりそうな『テルマ』、怖いものが苦手なお友達を誘って観てみるのもいいかもしれません。観終えたあとにきっと熱く語りたくなりますよ。
作品概要
『テルマ』
10 月 20 日(土) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
出演:エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンス、ヘンリク・ラファエルソン、エレン・ドリト・ピーターセン/監督・脚本:ヨアキム・トリアー『母の残像』
原題:THELMA/2017 年/ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン/カラー/シネスコ/5.1ch デジタル/116 分/字幕翻訳:松浦美奈/配給:ギャガ・プラス
公式サイト:gaga.ne.jp/thelma
ノルウェーの人里離れた田舎町で、信仰心が深く抑圧的な両親のもとに育った少女テルマ。なぜか彼女には、幼少期の記憶がない。オスロの大学に通うため一人暮らしを始めたテルマは、同級生のアンニャと初めての恋におちる。募る欲望と罪の意識に引き裂かれながらも、奔放な彼女に強く惹かれていくテルマ。だが、それは封印されたはずの“恐ろしい力”を解放するスイッチだった―。 テルマは不可解な発作に襲われるようになり、その度に周りで不気味な出来事が起こる。そんな中、アンニャが忽然と姿を消してしまう。果たして、テルマの発作とアンニャ失踪の関係は? 両親が隠し続けてきたテルマの悲しき過去が明かされる時、自分すら知らない“本当の自分”が目覚め始める―。
(C)PaalAudestad/Motlys
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