芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を、主演に東出昌大さん、ヒロインに唐田えりかさんを迎えて映画化した『寝ても覚めても』が現在大ヒット上映中。
大阪に暮らす朝子(唐田)が、ミステリアスな雰囲気を持つ麦(東出)と運命的な恋に落ちる前半と、2年後、麦を忘れられないまま東京で働く朝子が、麦と瓜二つの別人・亮平と出会う後半の衝撃的な展開がしびれる人間ドラマです。
Twitterをはじめとするネット上では、この映画について「震えるほど良かった…」「面白かったけど、ホラー!」「びっくりする様な展開だった」と驚きの感想が続々。筆者自身も”恋愛ホラー”と感じたこの『寝ても覚めても』。本作を手がけた濱口竜介監督はどの様にこの映画を作り上げたのか、色々とお話を伺いました。
――本作とても楽しんで拝見させていただきました。楽しんで、というよりものめり込んで……失礼かもしれないのですが、”ホラー”だな、と。
濱口:あははは、のめり込めるホラーだったわけですね。どの辺がホラーだと思いましたか?
――麦の存在全てもそうなのですが、あの幸せな状況でそこ行くか?!っていう朝子の行動が個人的には超ホラーでした。
濱口:朝子の行動がホラー、それは僕も分かります。
――監督は、この作品を純愛映画だと思って撮っていたのか、ホラー(ミステリー)だと思って撮っていたのか、どちらか意識されていましたか?
濱口:そうですね、そもそも純愛=ホラーなのかもしれませんよ。僕自身は最初に原作を読んで「ホラーだな」とは思わなかったんですね。朝子の行動についても「それはそうなるだろうな」とリアルに感じましたし。でも読者の方の「おぞましい、これはホラーだ」という感想も面白くて。反応の多様性がこの物語の魅力だなと感じました。
映画化する際に、僕は原作を読んで「なるほど」と思った部分を忠実に映像にしていったのですが、次第に物語がその本質に近づいていくと、”愛=ホラー”という事実があらわになるんではないでしょうか。自分が本質的だと感じた部分を素直に映像化したら、人を愛することはホラーでもある、という事実がそのまま映ったのかもしれません。
――なるほどなるほど。監督がこれまで恋愛映画やドラマを観て「これは怖いな」と感じたものってありますか?
濱口:ベタに怖い作品も多いですよね。『ベティブルー』(1986)とか。あとストーカーものとかも多いと思うのですが、そういう作品を観て怖いと思うことは無いんです。自分が感動した作品を他人が「怖い」と言っている局面はよくあります。
僕は増村保造という昔の映画監督の作品が大好きなのですが、若尾文子さんが主役の映画がたくさんあって。女が愛一筋になっていった時に、人が何を言おうと関係なくなる。それは周りからは狂気にしか見えない、というお話も多いんですね。僕はそういった作品を観ていて、感動しますし、カタルシスを感じるのですが、世の中的には「あの女マジやばい」という反応が多いのかもしれません。
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――麦・亮平を演じた東出昌大さん、朝子を演じた唐田えりかさんの演技も素晴らしかったのですが、キャスティングについても監督のお考えがハッキリあったのでしょうか。
濱口:はい、ありました。東出さんの出演OKを受けて映画が本格的にはじまった感じですね。それがだいたい4年くらい前です。東出さんは実際にパリコレモデルも経験されているので、突然モデルになってしまう麦という役柄に説得力が出ると思いました。一方で、バラエティ番組での東出さんを観ていて感じる”良い兄ちゃん感”というのが亮平っぽくて。自然に二役演じられると思いました。
ヒロインはなかなか決まらずオーディションを行って、唐田さんが最も朝子を表現してくれるのではないかと思い、お願いしました。
――朝子というのは、清楚でいて誰よりも芯が強かったり、行動派であったり、すごく難しい役だと思うのですが、唐田さん素晴らしかったです。映画の中で「こういう(清楚な)子が意外と恋愛に奔放なんだ」といった話題も登場しますが、あれってすごく分かります!
濱口:女子あるあるなんですかね(笑)、女性にそう言っていただけると嬉しいです。小悪魔なのだけど、小悪魔ぶってさえもいない所がまた問題というか。
――唐田さんはそんな朝子を絶妙に演じてらっしゃいました。
濱口:唐田さんにはこうして欲しい、と特別オーダーをしたわけでは無くて、「周りの役柄の言葉をよく聞いて演じれば大丈夫なはずです」とお伝えしました。順撮り(物語の順番どおりに撮影していくこと)に近かったという事もあって、最初の朝子ってフワフワした人物だったのに、後半にしたがって自分の本質をさらけ出していくという。唐田さんはとても素直に、この上ない説得力で演じてくださったと思います。
――本作は第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されましたが、海外での反響はいかがですか?
濱口:大まかに言えば、アメリカでは日本と同じ様に賛否両論、という感じだったのですが、フランスでは反応が基本的にすごい良かったという印象です。フランスの取材で東出さんに「日本人って女性がああいう事をすると、あんなに怒るの?」という質問があって。「そんなに怒られるようなことを彼女はしたか?」って言うんですよ。
――なんだか、さすがフランス! という質問と感想ですね。
濱口:そうなんです。成熟している。逆にじゃあどこに面白みを感じてくれているの?とも聞きたくなるのですが、もしかしたら、フランスでは朝子の行動は結構”あるある”なのかもしれないですけどね(笑)。まあこれは、国の差というよりは個人の差というのがより正確だと思います。僕はこの朝子の行動はこれ以外あり得なかった、他にどうしようがあるのかとも思うのですが、試写会で「どうしてこんなものを見せたんだ」と言う方もいたようです。特に男性の方で、過去の傷を掘り返された人も多かったようです(笑)。
――本当にこの作品は語りどころが多くて、ぜひ観た後は飲みながら、お茶しながら、延々議論したいです。
濱口:それは、ぜひして欲しいですね。この映画をホラーと感じるかどうか、朝子の行動をどう捉えるか、本当に人の感性や経験によって捉え方が違う気がしますし、それがこのお話の面白さだと思いますので、一度ご覧になっていただきたいです。
――今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!
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『寝ても覚めても』ストーリー
東京。
丸子亮平は勤務先の会議室へコーヒーを届けに来た泉谷朝子と出会う。ぎこちない態度をとる朝子に惹かれていく亮平。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながら朝子も惹かれていく。しかし、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、2年前に朝子が大阪に住んでいた時、運命的な恋に落ちた恋人・鳥居麦に顔がそっくりだったのだ――。5年後。
亮平と朝子は共に暮らし、亮平の会社の同僚・串橋や、朝子とルームシェアをしていたマヤと時々食事を4人で摂るなど、平穏だけど満たされた日々を過ごしていた。ある日、亮平と朝子は出掛けた先で大阪時代の朝子の友人・春代と出会う。7年ぶりの再会。2年前に別れも告げずに麦の行方が分からなくなって以来、大阪で親しかった春代も、麦の遠縁だった岡崎とも疎遠になっていた。その麦が、現在はモデルとなって注目されていることを朝子は知る。亮平との穏やかな生活を過ごしていた朝子に、麦の行方を知ることは小さなショックを与えた。一緒にいるといつも不安で、でも好きにならずにいられなかった麦との時間。
ささやかだけれど、いつも温かく包み、安心を与えてくれる亮平との時間。
朝子の中で気持ちの整理はついていたはずだった……。
(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS
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