今回はspeeさんのブログ『(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集』からご寄稿いただきました。
日本人技工士が希少価値となる未来は近い?((続)とある最底辺歯科医の戯れ言集))
厚労省の検討会
厚労省もやっと重い腰をあげて技工士の数をなんとかしようという気になったらしい。
歯科技工士の養成・確保に関する検討会(厚労省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_547700.html
自分も今の技工士の現状をあまりにも知らないなあ、と思ったので色々調べてみた。
注意:今回初めてのジャンルを書くにあたり色々検索してみましたが、うまく数字や根拠が見つからないものもありました。なので技工士の方なら当たり前、の事でも私はよく分かっていないことが多く存在します。文章的におかしいところや、ここはこうだよ、という所があればコメントにて指摘していただければと思います。
歯科技工士希望者の減少
歯科技工士養成施設に入学する学生はほぼ30年ほど前は3155名であったが、平成29年度では927名である。
つまりこの25年ほどで入学者は1/3以下になった。
技工士の養成施設も平成12年には72校あったのが平成29年度では52校
私が独自に調べた所平成31年度の募集を停止したのが4校あるのでさらに減って48校となる(下の方に資料提示)
入学希望者の減少はまだまだ止まりそうにはない。
なぜなら、殆どの養成施設は定員が大幅に割れている。
つまり今後も募集停止に追い込まれる施設は相当あると思われるからだ。
中には県に1つしかない施設もあり、そこが募集をやめればその県に毎年技工士を供給していくのが不可能になる。
また、すでに県に養成施設がない(または募集停止になった)所が13あり、深刻な技工士不足が起こっている、または今後起こる可能性があると思われる。
偏った年齢階層
技工士の総数は緩やかな減少であるが、これは50代以上の技工士数がある程度多いためである。50代の技工士数9518人に比べて29歳未満は4041人しかいない。
50歳以上の技工士が全体の50%弱であり、この20年で引退していくとすると、単純に考えれば技工士の数は20年後には今の半分以下になる。
半分以下、と書いたのは新規に技工士になる数が右肩下がりかつ、後述するように若い世代の高離職率で生き残る技工士の数が急速に減少しているためだ。
20代での離職率は80%と言われているが本当か?
ググってみたら古いデータがあった。
歯科技工士の実態と離職率!5年以内の離職率は?マジか80% – のびーる歯科*1
*1:「歯科技工士の実態と離職率!5年以内の離職率は?マジか80%」2017年04月14日 『のびーる歯科』
http://nobiru-shika.com/rishokuritu
なるほど、離職率とはこうやって計算してるのか・・・。
最近のデータを算出してみたいと思って色々調べてみたのだが、上手く見つからなかった。
2012年のデータからするとまあ大体離職率70~80%と考えてよさそうだ。
つまり、毎年1000人国家試験に合格しても30歳になってまだ技工士をやっているのは200~300人しかいないという単純計算になる。
平成28年に30~39歳の就業している技工士は6000人ほど存在する。
平成6年~15年に技工士学校に入学したのは29000人。
高校卒業後2年で卒業して国家試験に合格したとすれば大体30代となる。
実は技工士国家試験の合格者数推移を検索したのだが、過去20年分のデータを掲載しているサイトを発見することができなかった。なのでここからはラフに計算する。
卒業できたのをざっくり25000人とすると今現在生き残っている30代は最初の24%程度と考える事が出来る。
まだましな時代だったと考えられる30代後半をいれても離職率は75%ぐらいの計算になってしまう。仮説だが30代後半の離職率はやや低く、そこから若くなるにつれて離職率が高くなる、とすれば20代で80%という数字は現実感がある。
20代で同じ計算をすると、入学したのは16600人ぐらい。
ここから卒業して国家試験に合格できたのを14000人ぐらいに設定してみよう。
そして今就業しているのは4000人なので、生き残っているのは28.5%
20代の場合、おそらく最初の2、3年は国家試験合格者がかなりの数就業していると考えられる。
かなりラフな仮説をたててみる。
21歳で就職1100人
22歳で就業中800人
23歳で就業中600人
これだけで2500人ですよ。
この計算だと20代の残りは1500人しかいない。
もっとやってみるかなあ。
21歳で就職1100人
22歳で就業中800人
23歳で就業中600人
24歳で就業中400人
25歳で就業中300人
26歳で就業中300人
27歳で就業中200人
28歳で就業中200人
29歳で就業中200人
25歳までに離職率70~80%で計算してこれで合計4100人
これぐらい極端な数字にしないと合計があわないんです。
こう仮定すると次の10年の30代はどうなるか?
当然だが、29歳で200人しかいないので、各年齢MAXが200名。
そして技工士の国家試験合格者は右肩下がり。
単純に考えると2027年には30代の技工士は2000人以下になってしまう。
勿論だが、ある程度少なくなったら待遇などの改善が起こり、ここまでの低下は抑えられるのかもしれない。であるとしても精々2500人ぐらいではないだろうか。
2500人としても現在の1/2以下だ。
つまり、結構近未来において若い技工士はかなりの希少価値になる可能性がある。
もし、これが現実味のある予想とすれば遠い未来には40代で2000人。50代も2000人、60代も1500人と考えても日本人技工士は10000人を割るだろう。
デジタルの発達により、確かに今ほど技工士の数は必要なくなる、かもしれない。しかしデジタルが発達したとしてもオーダーメイドである以上人による修正、調整等は必ず必要になるだろうし、日本でデジタルがどれぐらいのスピードで拡がっていくのか、に関しては今の保険システム的に私は懐疑的である。
技工料を上げないと技工所が見つからない→保険診療分は赤字で出すしかない→歯科医院の経営悪化等々、悪い事はいくらでも考えついてしまう。
使い捨てられる若い世代
学校側も生き残りがかかっている。
そしてサイトにこういう事を書く。
殆どの学校で就職率100%、求人倍率10倍!とかそういう表記をしている。
もちろん学校なのだから、国家試験に受かり就職させればそれで役目は終わりと言えばそうだ。
しかし、歯科技工士になって数年で70~80%の人が辞めていく異常事態だからこういう求人倍率になっているわけで、若者は搾取され使い捨てられている存在と言っていいだろう。
この数字に騙されてはいけないし、騙されない人が増えているから、入学希望者がどんどん減っている。
学校側もこういった数字だけ出せば学生が釣れる時代は終わったと認識するべきである。
下にある会議の議事録で求人はあるんだけど、という話になっているんだが、搾取する側しか会議にいないのでそこから話が進展していない。
あと、技工士学校のサイト、今回全部みたけど、明らかにトップページに盛りすぎてどこまでいけば一番下までいくの?というものや、スマホ用のサイトがないからスマホで閲覧がしづらい等、かなりの問題があった。
今の若者はスマホでしかみないんじゃないの?
何故減るのか
ここからは私の仮説、あくまで仮説である。
技工士は歯科医院から受注されて仕事が成立している。
歯科の保険点数が長らく据え置き、またはマイナス改定となり、歯科医院自体が苦しくなった事から技工代を安く叩きまくる歯科医院が増加した。
技工士も 安くても仕事がないと、ということで値下げにある程度応じざるを得なかったのではないだろうか?
一度そうなってしまうと負のスパイラルが周り始めてしまう。
やりがい?
そんなのは些細な問題であり
要は金銭待遇でしょう?
自分の仕事が買いたたかれているのを喜ぶ人はいない。
また技工士は労働待遇が非常に悪い。
きつい、汚い、その他諸々
労働時間もかなり長い、と聞いている。
金銭と労働待遇、これが改善されなければ何も解決しないのではないか?
歯科医院側も買いたたいてるとそのうち痛い目をみるんじゃないかと思う。
日本人技工士が歯科医院を選ぶ時代になるのではないか。
今後は海外への技工発注もありえるだろう
実際デジタルデータのやりとりが多くなっているために技工物によっては世界中どこでも作ることができるようになってきている。
しかし、日本は世界の中でもガラパゴス的な保険制度を導入している。
使える金属などの制限も海外では使用していない金属であったりする。
また自費の材料であっても海外の製品は日本の薬事等を通っていない事もあり得る。
そういった意味で、いまのうちに国は技工物のトレーサビリティ(品質管理)についてしっかり規定しておく必要があるのではないだろうか。
また、日本独自のルールに精通しているのは日本人だし、その日本独自の材料をメインに扱うのは日本人技工士なんだから、やはり人数が極端に減少するのは問題だろう。
検討会に対する期待と要望
折角なのでやはり数字にこだわって欲しい。
私がみてみたい数字
1)技工士の将来予想数(2030年、2045年など)
今支えている50代以上の技工士がリタイヤしていったときに一体どれだけの数になってしまうのか、たとえば歯科医院1件あたりの技工所数や技工士数なども出して欲しい。資料不足の私の仮説よりも一杯資料を持っている厚労省ならもっと正確な数字出せるはずですよね?
2)技工士の必要数
余っている歯科医師の適正数は算出し国家試験で合格者数を絞っているのに技工士は算出しない、というのは話があわないので、これぐらいの数は必要、というボーダ-ラインは提示が必要ではないだろうか?
3)技工士の賃金や労働条件
20代での離職率70~80%の原因をしっかり検討して頂きたい。
4)地域偏在
すでに技工士養成施設がない地域の状態などが知りたい。
私は一般的な技工士1人の技工所が一体何件の歯科医院を受け持つことができるのかを理解していない。なので必要数を算出することはできない。
今後設備投資がある程度必要になってくる時代がくるならば、もう技工士1名の技工所は厳しいのではないか?技工士は何名かで組むとかそういう時代になるのではないか?そういった事を主導していかないと技工士の確保に乗り遅れるのではないか?
といった事はいくらでも考えつく。
何度も書いているがくれぐれも
やりがい
だけで終わらないようにして頂きたいと思う。
最後に
技工士がいないと歯科医療は成り立たない。
しかし日本の技工士業界は風前の灯火ではないだろうか?
20年後には深刻な状況が待ち受けている可能性がある。
その頃には東南アジアや中国などの方が技工料が遙かに高いかもしれない。
日本人技工士が海外に出て行った方が待遇がいい、時代にならないことを祈りたい。
それを防ぐために今根本的な改善策の提示を求めたい。
歯科保険点数が上がらないと、保険の技工物に関しては歯科医院としても技工料が上げられないのは事実だろう。
今の保険治療で技工料を上げたら歯科医院が赤字になってしまうところが殆どだろう。
それぐらい保険点数は安い。
しかし、財政面から保険点数が上がることは今後もない。
上がらなければ技工料は上がらないから保険メインでやっている技工士の金銭面の待遇は良くなることはない。
皆分かっている。
しかし、国が免許制にして数をコントロールしている以上、国が責任をもって数は確保してもらわないと困るんですよ。
参考資料
資料として私が独自に調べたデータを添付しておく。
文字が小さいがご容赦頂きたい。
4校が新規に募集停止。
その他多くの学校が定員割れしている。
定員1659に対して実際国試を受けた新卒は900人ぐらいしかいないわけで、入学した学生がほぼ全部卒業した、と仮定して充足率はおそらく54%ぐらいになる。退学や休学なんかを考えても精々60%ぐらいだろう。
2014年の調査では充足率は68%だったみたいなので、急速に減少している。
日本の歯科技工士教育の現状と展望
http://www.hotetsu.com/s/doc/irai2014_4_09.pdf
養成施設によっては30%を切るところもある。
歯科衛生士学校と併設されている所においてもすでにお荷物であることは間違いない。
ここから数年でさらなる募集停止はおそらく避けられないだろう。
ちなみに平成29年度に技工士国家試験を受験した歯学部卒業者は
奥羽大学歯学部
昭和大学歯学部
日本大学歯学部
鶴見大学歯学部
日本歯科大学新潟生命歯学部
大阪歯科大学歯学部
の6大学の学生がすべて1名ずつ受験して全員合格、となっている。
勿論、全員が浪人。
彼らの人生の収支がどれだけになるのか、予想がつかない・・・・
追記(2018/08/24)
歯科大学を卒業したら技工士の国家試験受験できるのか?という質問を受けましたので載せておきます。
歯科大学を卒業できれば受験可能です。
AMAZONさん
腐女医の医者道!
かなり面白かった。
たまには医学書じゃないものをリコメンドしてみる。
しかし、スーパーウーマンってこういう方なんでしょうけど、みんなこういう人にはなれないよね・・・。
おまけ 第1回目の議事録から(抜粋)
議事録↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212944.html
全部読むとかなり長い。
一応気になった所を下に抜き出してある。
決して今の卒業数は少ないわけではないという話になっているんだが、20代の離職率を7割とすると残りは多くても1年300人なわけでこれは歯科医師国家試験の2000人と比較すると1:6になる。勿論歯科医師も離職する人はいるだろうが技工士よりはよっぽど少ないだろう。実質歯科医師6に対して技工士1は適正なんでしょうか?
自分はこの議事録を読んで、金の話を避けよう、避けようとしている風にしか感じなかったのだが・・・。
気になった方は全文お目通し頂きたい。
今の歯科技工士が少なくなっているという話ですが、実は平成 28 年の歯科医師と歯科技工士の国家試験の合格者の比率を見てみますと、歯科医師 1 人に対して歯科技工士は 0.49 人なのです。これは余り変わっている数字ではなくて、いろいろな検討会の数字でも歯科医師 3 人に対して歯科技工士 1 名ぐらいがいいのだろう、あるいは歯科医師 2.5 名ぐらいがいいのだろうなという時代がありました。それからすると、決して今の卒業数は少ないわけではないのです。一番大事なことは、 2 枚目のスライドの 13 ページにありますように、免許取得者が 12 万人近くいるのに、その 3 割しか歯科技工士として働いていない。つまり、先ほど私が歯科技工士を勧められたとき、母は歯科技工士という職業はすごく良い仕事だと皆が言っていると。だから歯科技工士に挑戦してみたらと言われたのですが、今はそれがなかなか社会に評価されていないということが大きな理由だと思っております。その結果が、正にこの 13 ページの資料だと思います。そういうことを総合的に考えてお話したほうがいいのかなと思っております。
○赤川座長 歯科技工士の免許を持っている方が 11 万 8,000 人もいるにもかかわらず、実際には 3 万 4,000 人、3割しか歯科技工士として仕事をしていないと。
○杉岡構成員 ただ、これは課長補佐に補足していただければ良いのですが、免許を取っても亡くなったからといって全員が返納しているわけではないので、免許を持っている人はこれだけいるのですが、実際に働ける人は果たしてこれだけいるかというと、そうとは限らないと思います。
○赤川座長 そうですか。わかりました。
○三井構成員 我々は歯科医院側で雇用する側なのですが、私も開業して 30 年ぐらいですし、うちにも常勤の歯科技工士の先生がおります。この 30 年の時代の経過を見ていますと、やはり昔はむし歯というものが国民病であったと。削って詰めて、削って被せてという確率の治療頻度がものすごく高かったのです。ですから、今、杉岡先生からも話がありましたが、歯科医師何名に技工士という、 30 年前は最も数がいった時代。ですから、そのような意味で、技工士の先生方皆さんの勤務環境が非常に悪かったのです。うちの医院でも、診療所は 8 時に終わりますが、技工室は 9 時まで開いているということだったわけです。昨今のうちの診療所の、こういう会議に出てきて仕事をさぼっているというのも非常にあるのかもしれませんが、私は 7 時まで仕事をしていますが、うちの技工士は定刻の 6 時に退室するというような形で、大分そこの部分は技工士さんの総数は減ってきているかもしれません。なぜ技工士さんの離職率が高かったかといいますと、やはりそのような職場環境や長時間労働などがものすごくありました。しかし、今は全体的にはその部分は改善されてきているのではないかと思いますが、一層の改善は必要であると。
それから先ほどから出ていますように、技工士といわれる職業の認知度の問題です。うちの技工士さんに聞いても、なぜ技工士学校へ行ったのですかというところでは、やはり、おじ様が歯科医師であって、「いいよ」というような、内々の推薦があって、昔は入ってきたというところがあるかなということです。現在歯科医師会では、地域医療の介護総合確保基金を使われて、各都道府県で衛生士や技工士がどのような職種であるかというスポットのコマーシャルを、テレビで流されている所もあるようです。それから、 8020 は今年が 30 周年になります。歯科医師会としては、衛生士、技工士にスポットを当てた映画の作成をしまして、今の若い方は、テレビよりも映画や DVD のようなもののほうが媒体として非常に影響力が大きいということで、歯科医師会としては、職を広めるということで、今年はそのような活動を計画しているところです。以上です。
○赤川座長 ありがとうございました。歯科医師会でも、いろいろなサポート事業をしているということですね。ほかにいかがですか。
○傳寶構成員 私は、この 7 割に入っている一人歯科技工士のオーナーです。今、県の技工士会の役員もさせていただいていて、現場の学生とお会いすることもありますし、教員の先生方とお話することもありますし、現場の若い技工士さんとお話する機会も多いのです。今、学校の先生からよく言われるのは、高校に技工士学校の案内に行こうとしても、高校のほうでことわられることが多いと、もう技工士学校は結構ですと言われることがあると。それがどうしてかというと、今は少子化になって、親御さんがお子さんの就職先や進路に対してかなり意見を述べることが多いと思うのです。親御さんが歯科技工士を検索すると、明らかにもう悪い評判しか歯科技工士のことでは上がってこないのです。長時間労働だとか、給料が低いということしか上がってこないので、まず親御さんが歯科技工士になることをお子さんに勧めないのです。
その 1 つとして表れているのは、歯科技工所の 2 代目、お子さんがもうラボを継がないのです。別の職種に行かれるラボの 2 代目さんが多いのです。昔は家内工業だったこともあり、お父さんの技工所をそのまま継がれるお子様が多かったのですが、今は少し大きなラボになってもなかなかお子さんが継ぐというところは。もちろん継がれる方もいらっしゃるのですが、労働環境などを見ると、なかなか継ごうという気にならないということ自体が、歯科技工に対しての、やりがいはもちろんあって、私もやりがいがあって仕事をしているのですが、客観的に見たときに、やりがいだけで暮らしていけるのかというと、またそれは別の話なのです。そういうことで、今は SNS で何でも調べられるので、そういう評判があって歯科技工士になろうとは思わないという意見も聞きますし、実際にそうなのかなと思っています。
執筆: この記事はspeeさんのブログ『(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年09月02日時点のものです。
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