どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です!
シャブ、女関係、ヘタ打ち―。ヤクザが破門を食らうのには様々な理由があります。しかし、某広域暴力団組員だったとある男が破門された理由ほど情けないものはありませんでした。
今、カタギになった彼に話を聞くと、「あのときはどう考えてもどうかしていたんじゃないか?」と自己嫌悪に陥るほど恥ずかしいそのワケとは一体……。
今回は、彼が誰にも話せなかった破門劇の一部始終を読者のみなさんだけ語ってもらいたいと思います。
怪我をして眠る寝顔にキュンとなる
《告白者/一谷和夫(仮名)30才 関西某市 元暴力団組員》
男が男に惚れるヤクザ世界はいわば精神的ホモの世界。切った張ったとは、誰かのために命の掛け合いをすること。愛する者のためにしかできないことだ。
それは組であり、自分を拾ってくれた親分であったり、兄貴分であったりする。しかし、それにしても、オレの例は極端すぎた。
アニキである木村賢(仮名、現在46才)が籍を置く『桑田組(仮名)』にオレが入ったのは17年前の平成13年。ムショの中でスカウトされたのがキッカケだった。毎日気にかけてもらい、まるで本当の兄のように接してくれたヤクザの幹部。
「今日は、めでたい日ィじゃ! なんでもワシに言えや、和夫、なぁ?」
「はい! おおきに!」
出所すると、オレはガキながら盛大に出所祝いをしてもらい、高級ソープで女まで抱かせてもらう待遇。オレはアニキから溢れる豪快さと男気に惚れた。
即、住み込みからはじめ、準構成員でヤクザのイロハを叩き込まれ、4年の極道修行で一人前の構成員として認められた。そんなある日、商才があって組のオモテの仕事を一手に任されていたアニキは、敵対する暴力団が経営する企業から産廃処理のマージンのことで恨みを買い、命を狙われた。
路上でボウガンを持って襲いかかってきたヒットマン。オレはとっさに構え庇おうとしたが、間に合わず、肩に矢が刺さったアニキ。怪我を負い、すぐさま病院に搬送された。うるさいからと、仲の悪い姐さんには連絡を入れず、俺が付き添いについた。
「おまえしかおらん。おまえは俺の大切な兄弟分や……。ずっとそばにいてくれな……」
「ア、アニキぃぃ!」
弱い声で言うアニキ。涙を流しながらオレはうなずいた。責任を感じていたオレは、1週間半ほどの入院で食事、トイレなどアニキのすべての面倒を献身的に看た。
ベッドの隣でりんごの皮を剥き、横たわるアニキの寝顔を見る。
【ドクン、ドクン、ドクン!】
おい、なんだ、この胸のときめきは! アニキの寝息を感じるだけで切なくなってしまう。す、す、好きやぁぁぁぁ~!
アニキ、愛してるぅぅぅ! 今までとは違う弱い姿を晒したアニキのそばにいてやれるのはオレしかいない。
出所してから、某広域暴力団の盃をもらった恩人に対する感情は、“恩義”から“愛”の一文字に、この一瞬で変わった。肩の傷口もなんとか治まり、入浴ができるようになったアニキの背中を流す。
「おお、和夫。悪いな、みんなオマエにおっかぶせてもうて」
唐獅子牡丹の刺青、足の脛下、下半身には立派なイチモツ。それを見た途端、思わず興奮してしまった。は、はぁ!? 根っからのゲイではないオレがなんでアニキの裸に反応してるんや。刑務所でアンコ(女役)を掘ったわけでもなければ、馴染みのウリセンバーがあるわけでもない。真性の女好き。そのオレの恋愛対象が、なぜかこの日を境に完全に“アニキ”に変わってしまった。
姐さんに嫉妬、2号も寄せつけない
傷が癒えた頃、アニキとは不仲の姐さんがどこからか情報をかぎつけ、病院にやってきた。
「なんで、怪我してんのに連絡ひとつくれへんのや、アンタ!」
「あんまり、オマエに迷惑かけたくないからやなぁ…」
「迷惑もクソも、アタシがカッコ悪いやろ!」
「アニキのこと、愛してはらへんやないですか!!」
とっさに出た声。一瞬、言葉に詰まった姐さんが怒り狂って帰っていった。なぜ、あんなことを言ってしまったのか…。仕事に復帰したアニキを通常通り、フォローする立場に回った。
アニキが口をつけたコップにそっと唇を充しつけてみる、アニキの体にさりげなく触れてみる、手が偶然に触れてドキッとする。オレはいったい何をやってるんや! オレは心境の激しい変化に悩んだ。オレは異常なんか!?
兄貴分への気持ちを表に出すわけにもいかず、悶々と過ごす毎日。ゲイではなかった自分がなぜ……。仕事終わりにクラブやラウンジに飲みに行くとアニキはモテる。だが、寄ってくる女たちにオレがキレないわけがない。
「超男前やねぇ~! お兄さんやったら、私、今日でもアフター付き合うわぁ~!」
しなだれかかる女。コ、コ、コラァ~…。
「ゴオォォォラァァァ~! ワレみたいなくっさい女をぉぉ~、アニキが相手にぃ~するわけないやろぉ~!」
凍りつく店内。ポカンと口を空けるアニキ。悪い虫はワシが追っ払いますよってに…。
むろん、2号との連絡もオレのところで遮断する。ラブメールなどもってのほかだ。サウナに組員を連れだっていくと、どうしてもアニキの裸が見たくて仕方なくなる。アニキの股間を凝視しつつ、腰に巻いたタオルがテントのようになっていた。
不審者をみるような目つきでみる組員たち。アニキの写真で果てたこともしばしばある。恋心とアニキへの想いが頂点に達しようとしていた、組に入って17年目の春。会合が行われた城之崎温泉での温泉旅館で悲劇が起こった。
ついにバレて、組を追放
朝風呂に入るアニキ。入浴をはじめた掛け湯が響く、ポーン、ポーンという音を確認し、脱ぎたてホヤホヤのアニキが今まで穿いていたトランクスに手を伸ばす。ア、アニキぃぃぃ~! 鼻をつけ、思い切りニオイを愉しむオレ。
「おおぃ、時計預かっとけ…」
テンポイントのロレックスを抓みながら、脱衣所に戻ったアニキ。パンツに顔を埋めるオレと眼が合った。
「おまえ、なにやっとんや! コラァ!!」
「い、い、いやぁ…、あのぉ…」
オレからトランクスを剥ぎとるアニキに、オレは告白を決意した。
「兄ィ、オレは兄ィのことが好きです! 愛しています!」
「お、お、お、お、おまえは何言うとるんじゃぁ~! そ、そ、そんなんおかしいやろうが!」
「愛って、色々なカタチがあると思います!!」
「き、き、気色悪いんじゃぁ~!」
真っ青になるアニキ。そのまま、記憶が飛ぶまでボコボコに殴られた。ああ、アニキ、どうしようもないほど愛していたのに…。
後日、破門にされ、関西の主要な組にオレの絶縁状がまわった。人づてに聞いたアニキが綴った、純粋に愛を告白したオレへの破門の写真付き回状内容は【右の者、己の良心・理性を失い、常識的な公序良俗、一家趣旨規約に反し、侠道上不都合の段、多々あり】となっていたそうだ。
運送会社でドライバーの仕事にありついた今、あのときは本当にどうかしていたとしかいいようがない。
(C)写真AC
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