町田康の傑作小説を、主演・綾野剛、脚本・宮藤官九郎、監督・石井岳龍という超豪華布陣で実写映画化。もう2度と集まれないかもしれない豪華すぎるキャスト達が個性を爆発させた映画『パンク侍、斬られて候』が公開となりました。
『パンク侍、斬られて候』ストーリー
ある日、とある街道に一人の浪人があらわれ、巡礼の物乞いを突如斬りつける。自らを“超人的剣客”と表すその浪人の名は掛十之進。掛は、「この者たちは、いずれこの土地に恐るべき災いをもたらす」と語るが……。江戸時代にもかかわらず、今っぽい口語の応酬、掛を含めた超個性的な登場人物たち、そしてだれも予測することができない、驚くべきストーリー展開!果たして掛の真の狙いとは? そして最後に生き残るのは誰なのか!?
監督・石井岳龍&脚本・宮藤官九郎のお2人のインタビューを敢行! 「若い奴にはジジイに何がわかるんだという感じで来てほしいし、ジジイにはパンクって言ってんじゃねーよって言って来てほしい」など、映画へのアツい想いを語っていただきました。
――『パンク侍、斬られて候』はすごく思いきった内容と言いますか、エネルギーが爆発した作品ですね。どういう感想が届いていますか?
宮藤:「すごいですね」と言われますね。確かに(笑)。
石井:図々しくも自分でも面白い映画だなと思っています(笑)。
宮藤:規格外な映画という意味で「すごい」と言われていると思いますが、原作通りなんです。だからしょうがないことなのですが、最近の邦画にはない作品ですよね。
――映画化を進める際、どういう気持ちで取り組みましたか?
宮藤:僕は石井監督の映画を観て学生時代をすごしたのですが、自分で映画を撮るようになって、改めて石井監督の凄さが分かったというか。なんでああいう風に撮れるんだろう。あれは色々と無理して作り上げている世界なんだろうなと。今回関わってみて、それがハッキリ分かりました(笑)。
石井:実は、けっこう繊細な映画だと自分では思っていて、丁寧に作ってはいるんです。この映画、簡単にポロッとできるわけがない。みんなが今回、いろいろなものを抱えて、乗り越えていくことで生まれたものなんです。今回は宮藤君も地獄を見たと思いますけれど(笑)。
宮藤:いえいえ。全然ですよ(笑)。どっかで思っていたんですよ。監督の映画を観返して、無理しないと、いい映画はできないんだって。自分で作るようになってから特に、全力疾走しないとああいう風にはならない、俺はまだまだ全力疾走してないって。今回、かけた時間や労力などを知ると、無理がそこには要るんだってことを改めて思い知りましたね。
石井:そもそも、あの作品を映画化しましょうということ自体、まずもって無謀なことなんですよ(笑)。でも面白いから、そこに突っ込んで行く、きちっと引き受けてくれてチャレンジしてくれたと思います。それこそ、ひとつひとつがチャレンジだったんですよ。完成形がまったく見えないから。もっとも、それがわかっていたら面白くはないですが、だからと言って行き当たりばったりでもない。根本は緻密に作られていると思うので、すごく丁寧だと思います。
――それは脚本だけでなく、俳優さんたちにも当てはまることですよね。
石井:そうです。全員です。実は乱暴にやっていることなどないと思うんですよ。だからグルーブがすごい。脚本にも原作にないグルーブがあって、「あ、きたな」っていう。それはなかなか偶然には生まれないものなんですね。
宮藤:町田さん×石井さんなので、縮小版はあり得ないと思いました。それは絶対にないと思ったら、このふたつを掛け合わせれば倍にはなるけれど、映画にしたらスケールが小さくなったということではダメだなと思っていたので、どうしようかなと。動き出したらもうやるしかないので、辞めるなら書き上げる前に言ってください、みたいな。それくらいの覚悟でしたね。
映画で関わったことがあるスタッフも「大変です。『パンク侍』が映画になるそうです!」とメールをくれて、「すみません、それ脚本、僕です」みたいな(笑)。やる前から興奮しましたよね。本当に夢のような感じでした。
――宮藤さんは監督のファンだったわけですが、監督は宮藤さんのことをどのように見ていましたか?
石井:「大人計画」を観ていました。あとは映画の『GO』やTVドラマの「タイガー&ドラゴン」などを観た時、すごく面白いなって。めちゃくちゃなようで、すごく骨格のしっかりした世界。自分のやりたいことがしっかりしている。自分が愛情を持っているものへの取り組み方の姿勢、技術にびっくりしましたし、話術も含めた見せ方などにも驚いたので、ぜひ仕事をしたいと長年思っていたました。
宮藤:すみません(笑)。
石井:お芝居も見させていただいていて、しっかりしていると思います。毎回爆笑しますよ。その狙いの骨格がしっかりしていますよね。そこがすごく好きですね。
――宮藤さんは今回のコラボを経て、どういう感想をお持ちですか?
宮藤:最初はもう、どうやって撮るんだろうと思いました。聞けば、トラディショナルな時代劇のように始まって、世界が壊れていくということを監督がおっしゃっていて、それがちょっと意外だったんですよね。どういう映画にしたいかというビジョンが、すごく明確だと思いました。だからもう、頭の中にできているんだろうなと思いました。
確かに、そのほうが絶対的に面白いんですよ。パンクっていうものが何なのか、タイトルで「パンク」と宣言しちゃっているというのもあるんですけれど、パンクとは何かって、言葉で説明できないものだと思うので。でもそれを僕らは石井監督の映画でパンクの何たるかを教わっているから、知っているじゃないですか。そこはもう見せていただきたいなと思って。
――おふたりには、もともとパンクなイメージがありますよね。
宮藤:完全に教わっていますから。映像として。ただ、理屈じゃないから、難しいなとも思います。ピストルズが流れるとか、普通はやらないですよね(笑)。流れるって知っていても、びっくりしましたから。そのこともすごく早い段階で見えていたのではないかなって。
石井:ピストルズはプロデューサーと相談して、「それしかないでしょう」ってことで(笑)。
宮藤:それしかないんですよね(笑)。
石井:無理かもしれないけれど、交渉してみようかと。金額的にも意外にもいけそうだと、ジョニー・ロットンことジョン・ライドンもOKしたと。だったらいくしかないだろうと(笑)。
――昨今、世間ではそうそう浮上してこないパンクというワードの周知みたいな想いもありましたか?
石井:そういうタイトルですからね。でも、そういう思いは特にはないですね。いま撮れるものを、いまの自分が監督できるものをやっているだけです。すごい長い時間がかかりましたけれど、すごくいい時期にやれたと思います。前からずっとやりたかったのですが、なるべくしてこの時期になった感はある。まさかこれをやれるとは思っていなったですし。13年前にもやりたかったけれど、実現しないことが当たり前だと思っていました。納得していたところはありますね。禁断の書なので(笑)。
宮藤:町田さんの他の作品は、それほどスケールが大きくないですものね。部屋の中や、もうちょっと、じめっとした会話や観念的な面白さですけど、これはすごく壮大ですものね。
石井:すごく壮大ですものね。町田君の原作をやるのであれば、これだろうと。誰も他にできないだろうし、やる人もいないだろうし、これは避けては通れないかなとも思っていました。でもまさか、やれるとは思ってもいなかった。本当にいいのねって、だったらって。
――この作品、どの世代に観てほしいでしょうか?
石井:小学生にも観てほしいです。元気な年代にも観てほしいです。パンク世代は60代ですが、わりとヨーロッパなどは当たり前に白髪世代が元気なので、日本でもそうあるとうれしいですね。
宮藤:そうですね。日本でもライブハウス行くと、意外と高年齢の人しかいないですよね。ホッとしますよね。フェスとか行くと浮いちゃうけれど、ライブハウスっておじさんおばさんの場所だから、2階席から見るとけっこう頭部が薄い方ばかりで。ああいうライブハウスってなんかいいなあと思いますよね。
石井:お客さんが競い合うようにして観てほしいですね。若い奴にはジジイに何がわかるんだという感じで来てほしいし、ジジイにはパンクって言ってんじゃねーよって言って来てほしいし、子どもは口あんぐりして観てほしいですかね。活気ある気持ちがぶつかり合う場所になったらいいなと思います。おとなしく観てんじゃねーよと(笑)。
宮藤:こういう話ですけれど、今の人が観てもピンとくるところがいっぱいありますね。染谷君のキャラクターはゆとり世代っぽいし、時代劇のフリをしてるけれども、中間管理職の苦悩とか、そういうことも織り込んであるので、若い人にも観てほしい。痛快だなって思いますよ。
石井:誰の視点に寄って観るかによっても違ってくると思うので、感想を聞いてるとね。そういう感想を感じますよね。ある人はこの視点、別の視点。複数の感じ方があると思います。まるごと全部OKです。
――今日はありがとうございました!
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