今回は宋文洲さんのブログ『宋文洲のメルマガの読者広場』からご寄稿いただきました。
二つの商談が明かすトランプ氏の人物像(宋文洲のメルマガの読者広場)
どこの国に行ってもビジネス書のコーナーに必ず立ち寄ってしまうのは私のくせです。先日、ボストンの住まいの近所にある本屋に立ち寄った時もそうしました。すると、11年前にトランプ氏が出版した「THINK BIG」に目が留まり、ちょっと立ち読みしただけで買うことにしました。共同著者のBill Zanker氏の話が面白かったからです。
Zanker氏は北米最大の成人教育会社の創業者であり、成人啓発のプロでもあります。彼は26歳でマンハッタンで創業した際、有名人に講師になってもらうため、よく「あなたはビッグになっているから少し社会還元しないとだめですよ」と半分脅かしながら説得していました。
彼の脅しに多くの著名人が負けて少ない報酬、場合によってはただで彼の生徒に講演してくれたため、彼の成人向け啓発教育の売上は5億円を超えるようになり、ビジネスが軌道に乗りました。
しかし、トランプを呼ぶときにはこの手が一切効かなかったのです。どうしてもあの有名なトランプを呼びたいので、初めて大金の講演料を申し出しましたが、1万ドルでも10万ドルでも秘書がトランプに取り次ぎしてくれないため、勇気を出して100万ドルを払うと言いました。その後Zanker氏はあまりのストレスでトイレで吐きそうになったというのです。
そうするとすぐトランプ氏が電話をかけてきて「出てやってもいいが、君のとこに聴衆は何人くるのか」と聞いてきました。多くても500人しかこないのに「1千人来ます」とはったりで答えました。するとトランプ氏は「じゃぁ1万人が来るなら受けてやるからいいかい」と確かめてきました。Zanker氏はつい「はい」と言ってしまったのです。
それがZanker氏がそれまで考えたことのないことを考え、やったことのないことをやるきっかけになりました。その結果、3万5千人も聴衆を呼び込み、彼の会社The Learning Annexは年間400%のスピードで成長を始めました。
会社が儲かり始めるとトランプ氏は講演料の増額を言ってきました。交渉の結果、150万ドルで妥協しました。Zanker氏はトランプ氏にそれだけの価値があると判断したからです。
以上がZanker氏とトランプ氏との体験です。以下は香港の不動産業者鄭氏とトランプ氏との付き合いを紹介します。
1994年の不動産下落の際、トランプ氏がリンカーンセンターの31万平米の土地を無理して買ったため、債務超過にはまり、破産寸前に陥りました。ニューヨークだけではなく全米でも誰も彼に協力しない中、鄭家純氏をはじめとする数人がトランプ氏からその土地を購入しました。トランプ氏の債務を引き受けた上トランプ氏に開発を任せ30%の利益も約束しました。
ディールを成功させるためトランプ氏は嫌々香港に飛び、鄭氏達とゴルフ場で落ち合うことにしました。鄭氏達のゴルフの掛け金にびっくりした他、中華料理のテーブルで箸を拒否し、出てきた魚の姿煮の頭にショックを受けたそうです。
結局、その後、不動産市場はずっと回復を続け、リーマンショックの3年前の2005年に17.6億ドルという前代未聞の金額で売却しました。これに不満を覚えたトランプ氏は鄭氏達を訴え、10億ドルの賠償を求めましたが、当然、所有者ではないため敗訴しました。しかし、トランプ氏は選挙の際、よく聴衆の前で「私はとてもお金持ちだ」「交渉上手で中国人に勝った」と自慢しています。
以上の二つの話はトランプ氏のビジネスパートナーが語ったものです。全部事実とは限りませんが、トランプ氏はZanker氏と共著していましたし、鄭氏との裁判も昔から公開されていたものです。
しかし、この二つの事例からトランプ氏の人物像が浮かびあがります。
1.トランプ氏は常に相手に大きく要求する。これが彼のTHINK BIGだ。
2.トランプ氏は口では失敗を認めないが、ミスを素早く修正する力がある。
3.トランプ氏は個別案件の勝負に拘り過ぎるため、より大きな相場を読まない。
4.トランプ氏はオーナー経営者の視線で世界を見ている。
5.トランプ氏は手強い相手のみ重視する。
ボストンの学校に通う14歳の娘がニューヨークに実家があるルームメイトを連れてきた時、たまたま私がこの本を読んでいるところを見て「あ、私のお兄ちゃんもこれを読んでいる」と言いました。20歳の大学生です。
トランプ氏は日本人から見ればコロコロ変わってビッグマウスに見えますが、米国では昔から大変人気があって、独立精神と不屈なファイトを伝授してきた「伝道師」、「成功者」と「タレント」なのです。エリートのリベラル勢力を除けば、米国民の多くは生ぬるい世襲政治家や弁護士出身政治家より、トランプ氏の方が個人として尊敬できると思っても当然です。
そんな今までになかったタフで不屈なトランプ氏に世界中のリーダーが交渉しなければなりません。さて、それぞれの国益がどう守られるかは見物です。
執筆: この記事は宋文洲さんのブログ『宋文洲のメルマガの読者広場』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2018年06月19日時点のものです。
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