頭は記憶を失っていくが、私の手は習慣のように殺人を憶えている――
スラッシャーやスリラー映画には数々の連続殺人鬼が登場しますが、彼らがもしそのまま誰にも捕まらず、一般社会の中で順当に年を取っていったら……。なかなかそんなこと考えたこともなかったな、と意表を突かれました。年を取り、アルツハイマーになった元・連続殺人犯が主人公の傑作スリラー『殺人者の記憶法』が1/27より公開です。
ビョンスは、かつては“生きている価値がない人間たち”を習慣的に殺してきた男。捕まることもなく、年老いて殺人をすることもなくなった彼は、彼が殺人犯であることを知らない父親想いの娘・ウンヒとふたり、寄り添いあって暮らしています。アルツハイマーが始まり、ときどき記憶を失うようになってしまったことから、テープレコーダーにやったことを録音し、パソコンで日記をつけることで失われる記憶をなんとか補っていました。
しかし平穏に過ぎ行く日常の中で大きな変化が起こります。ビョンスは接触事故を起こし、ミン・テジュという若い男と出会うのです。彼の目つきに自分と同じ匂いを嗅ぎとったビョンスは、テジュが殺人犯であることを察知。テジュの存在を危ぶみ、警察へと相談しますが(自分も殺人犯なのに!)、まともに取り合ってもらえません。しかしテジュが最愛の娘・ウンヒの恋人として再び姿を現したことから、ビョンスはウンヒの危険を感じ、自身の手でテジュを仕留めようとするのです――。
ビョンスの見ているものは現実か? 妄想か? 本人すらもその区別がつかないその混沌とした世界のなかで、ときおり大事な記憶を失いながらも、ビョンスが葬り去っていた過去や、テジュの本当の姿が徐々に明らかになっていきます。
冷酷な殺人犯だったビョンスは本来ならば感情移入のしにくいキャラクターかも知れませんが、カメレオン俳優とも称されるソル・ギョングが絶妙なユーモアを交えて演じるこのキャラクターは、どこかチャーミングで人間味たっぷり。観客もいつの間にか彼の横に寄り添うように、その行く先を見守ることになるでしょう。つい数秒前までの記憶すらも失い、「いま何をやってたんだっけ?」と立ち尽くしてしまうようなお年寄りが現役バリバリの若い殺人犯を仕留めようとするのだからそのスリルはたまったものじゃありません。そんな彼が対峙するミン・テジュも、その素性や魂胆が分からないゾッとする不気味さをたたえたキャラクターとして、キム・ナムギルが怪演しています。
スリリングなサスペンス・スリラーであると同時に、父と娘の胸打つドラマでもある今作。筆者は手に汗握りながら見守った末、クライマックスで号泣いたしました。様々な魅力が詰め込まれている作品ですので、人によって刺さるポイントもまったく違ってくるかもしれません。ひとつ言えるのは、観て損はさせない傑作だということです! ぜひ劇場でお楽しみください。
映画『殺人者の記憶法』は1/27よりシネマート新宿ほか全国順次公開。どうぞお楽しみに!
『殺人者の記憶法』
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/kiokuho/
出演:ソル・ギョング『監視者たち』『ソウォン/願い』『力道山』、キム・ナムギル『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』『無頼漢 渇いた罪』、
キム・ソリョン(AOA)『江南ブルース』、オ・ダルス『国際市場で逢いましょう』
監督:ウォン・シニョン『サスペクト 哀しき容疑者』『セブンデイズ』
2017/韓国/カラー/韓国語/118分 原題:살인자의 기억법 英題:MEMOIR OF A MURDERER 映倫:G
配給:ファインフィルムズ
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