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「美しいお姉様が出来たあいつが羨ましい」義理の弟の思いがけぬ告白に混乱!”笑ってはいけない”実父もからかう恥ずかしすぎる姫君 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



「ウチは全部知ってんねんで!」爆弾娘、再び大暴れ


ようやっと本当の家族と再会できた玉鬘。しかし裳着の後、一ヶ月ほどして祖母・大宮が他界します。ギリギリセーフで孫と名乗り出られたのは良かったですが、半年間は服喪のために宮仕えも延期。そのまま季節が過ぎていきます。


源氏はしばらく真の親子関係を伏せたままにする予定でした。が、人の口に戸は立てられないもので「玉鬘の本当の父親は頭の中将だ」という話が知れ渡ります。みんなゴシップ大好き!


それを聞いて黙っていられなかったのが近江の君。「お父ちゃんに新しいお姫様ができたんやて?しかも源氏の太政大臣からも、ウチのお父ちゃんからも大事にされて。ウチと同じ身分の低いお母さんから生まれたはるのに、どないなってんの?


ズケズケした言い方に、弘徽殿女御はダンマリ。側にいた柏木が「一体誰から聞いたんだ。そんなことを大声で言ったら、女房たちがまた言いふらすだろ。玉鬘の君が両家から大事にされるのは、それなりの理由があるからに決まってるよ」。


「お兄さんは黙ってて!ウチは全部知ってんねんで!その人が尚侍にならはるんやろ!?ウチかてこうしてお姉さんに一生懸命お仕えして、おまる掃除やら水くみやら、誰もせえへんような雑用まで頑張ってるのに。ひどいわぁ」。逆に、雑用を頑張ったのがダメだったかも?


「尚侍になりたかったのかい?そりゃ傑作だ!欠員が出たら僕らが立候補しようと思ってたのに。アハハ!」尚侍は女官なので男はもちろんなれませんが、兄たちは完全に馬鹿にしきって笑い者にします。


近江の君は逆上し「お兄さんたちがウチをいじめる!柏木のお兄さんが無理やりウチを連れてきたくせに、こないにイビられたらやってられへんわ。来るんやなかった!ホンマ、貴族の人怖い、怖い!」。そう言って後ずさりし、彼女なりに精一杯目を吊り上げて睨みつけます(でも全然怖くない)


今度は柏木が黙る番。(本当になんでこんなの連れてきたんだろう。大失敗だ)。次男の紅梅は「まあまあ、そんなに怒らないで。君が頑張ってるのは姉上も認めて下さってるよ。強い心で念じれば、岩だって溶かせると言うじゃない。きっと願いが叶う日が来るさ」。言ってることがだいぶ適当ですが、兄弟げんかの仲裁に入るこの感じ、次男(中間子)っぽい!


弟の言葉を受けて、柏木は「(神話で天照大神が籠もった)天岩戸にでも隠れて、出てこないでくれるのが一番いいんだけどね!」と捨て台詞を残して去り、近江の君は大泣き。あーあ。


「お兄さんたちはあかん。優しくしてくれるんは女御のお姉さんだけや。ウチ、頑張る!」と、近江の君は今まで以上にドタバタ走り回って雑用に精を出し、ロビー活動に励みます。女御は(一体この子は何を考えているんだろう)と、ほとほと困り果ててしまいました。


笑ってはいけない!実父もからかう恥ずかしすぎる姫君


この話を聞いて、お父ちゃんこと頭の中将がニヤニヤしながらやってきました。「近江の君、どこにいるの。ここへ来なさい」。近江の君は期待に胸をはずませ「はぁーーーーーーーーい!」と良いお返事。


「女御の所でとても頑張っているね。尚侍になりたいのなら、なぜ早く言わなかった?」「女御のお姉さんが推薦してくれると思ててん。そしたら新しい人が内定した言うから、ウチ、お金持ちになった~!思たら夢でした……みたいな気持ちなってん」。こんなところで夢オチの例え登場。


相変わらずの早口にお父ちゃんは吹き出しそうになりながら「そうか、新しい人が来たから遠慮してしまったんだな。なあに、内大臣の私がお願いすれば聞いて頂けないはずがない。今からでもエントリーシートを書いてごらん。陛下は風流を解するお方だから、長歌のスキルをアピールするといいかもね」。


長歌は和歌のロングバージョンで、5・7の部分が3回以上反復され、最後は7音で終わります。万葉集に多い長めのポエムといった感じのものですが、和歌が主流になった平安時代には既にクラシックな趣味でした。


「えっと……和歌なら一応なんとかなるんやけど、長歌はようわからんから、お父ちゃんのお知恵を拝借して、連名でお願いした方がええと思います。お願いします!」


両手をスリスリしながら拝む近江の君がおかしくておかしくて、女御と女房たちは真っ赤になって必死にこらえています。まさに笑ってはいけない状態。我慢できずアウトになった人は部屋を出て退場です。


父親らしくもなく、近江の君をからかった頭の中将も「いやあ、落ち込んだ時は近江の君と遊ぶのにかぎる!」なんて言い出す始末。それもこれも、近江の君が恥ずかしすぎる姫君だからなのですが……。


どっちを向いても悩ましい、宮仕え直前の孤独


近江の君とは裏腹に、玉鬘は悩んでいました。「実の父上も源氏のお父様も宮仕えをお勧めになるけれど、本当にいいのかしら。万が一、私が陛下のお手つきになってしまったら、中宮様も女御様もご不快に思われるだろう。


それに私は、お二人のようにはお父様がたにバックアップをしていただけない。この中途半端な立場につけこんで、嫌がらせや揚げ足取りをしてくる人も出て来るかも……」。延期になったことで、余計に取り越し苦労が増えた感じ。


かといってこのまま六条院にいれば源氏の愛人になってしまいそう。実際、源氏は頭の中将に真実を打ち明けた後、いよいよ本気で玉鬘を落としにかかるようになっています。潔白であることを証明し、源氏との奇妙な関係に終止符を打つには、尚侍になるしかありません。


こんな時、お母様がいてくださったら!ほんの少しでもこの悩みを打ち明けられたら良いのに……)。2人の父大臣から大事にされ、とても恵まれているように見える玉鬘ですが、腹を割って話せる相手もおらず、常に独りで悩むしかないのでした。


既に季節は秋。物悲しい夕焼け空も一層身にしみる気がして、しみじみと空を眺めるその様子はとても美しい…と書き手は語ります。そんな玉鬘の元へ連絡を伝えに夕霧がやってきました。


もう我慢できない!義理の弟の思いがけない告白


夕霧とはすでに姉弟でないことはわかっていますが、以前からの習慣になっていたので、玉鬘は直接言葉を交わします。


おっとりと、しかし的確に返事をする玉鬘に好感を覚えながら、夕霧は(もう、このきれいな人はお姉さんじゃなくて、僕の従姉なんだよな……。陛下だって見過ごされるわけがない。きっと美男美女の恋が始まるだろう)。そう思うとやるせないような、切ないような気持ちです。


「あの、ごく内密にお伝えせよと仰った件があるのですが……」。何やら秘密の話らしいと、女房たちは席を外します。「その、陛下は姉上に並々ならぬご興味をお持ちなので、どうか気を引き締めて欲しいと……」実はこれ、夕霧の創作。玉鬘ともっと近くで話したくて、まことしやかなウソをついたのです。


玉鬘は御簾の向こうでため息。物思いする美女に、夕霧はいよいよ気持ちが抑えきれなくなります。もうすぐ大宮の喪が明けるので禊には一緒に行こうとか、姉上が同じお祖母様の孫だったなんて信じられない、等など。


夕霧は玉鬘が実の姉でないことはわかったものの、母の夕顔の経緯を知らないので、父がどうして実娘でない彼女をわざわざ引き取ったのかが謎なのです。


喪服の話のついでに「ご覧ください、今にふさわしい花です」と、夕霧はきれいな藤袴の花を御簾の下から差し入れます。薄紫色の秋の七草、藤袴は喪服の異称で、季節も色もシーンもピッタリ。こういうことが苦手な夕霧にしては珍しいアプローチ!


玉鬘が花を受け取ろうと手をのべた時、夕霧は彼女の袖を掴んでサッと引きました。「同じお祖母様の喪に服している孫同士です、どうか優しいお言葉を下さい」


玉鬘は思いがけない夕霧のアクションにびっくりして「そのご縁はこの藤袴のように薄いはず。いとこ同士以上に何があると仰るの」。弟だと思ってたのに、下心があったなんて!


「こんなことを言ってはかえって嫌われるでしょうが、もう我慢できなくて。最近の柏木の様子を知っていますか。身内だと知らない頃、彼はあなたに夢中で、僕はそれを他人事だと思って眺めていた。それが今度は自分の番。今はむしろ、美しいお姉様が出来たあいつが羨ましい。……だからせめて、こんな僕を憐れとだけでも思って下さい」。


夕霧は続けて追い打ちをかけますが、玉鬘はドン引きして後ずさりするばかり。ついに「気分が悪くなりましたので……」と逃げてしまいました。ニュアンスが違うとは思いますが、なんか今風に言えば「キモい」って言われてるみたい。ツライ。


変なこと言って嫌われちゃった。失敗だ。あーあ。……それにしてもこんな風に、紫の上さまのお声をほんの少しでも聞くチャンスがあればなあ)。夕霧は悶々としながら源氏の所へ戻ってきて、玉鬘の様子を報告します。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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