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あなたの好きなアーティストがテレビに出れない理由〜音楽業界の俊英・脇田敬氏に聞く



書籍『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』(リットーミュージック刊)では、激動期の音楽業界の中で音楽事務所のマネジャーがどんなことを考え、何を行なっているかが詳しく書かれています。中でも興味深いのは、「テレビに出演する方法」など、今まであまり語られることがなかったリアルな現場話ではないでしょうか? これは従来のメジャーレコード会社を中心としたシステムが崩壊を始めつつ、とはいえまだまだ強力な存在感を示している現状ならではの、象徴的なエピソードと言えるでしょう。そこで著者の脇田敬氏に、昨今の音楽業界を巡るさまざまな話題について、お話を伺ってみました。明日はどっちだ!?


ビジネスの「壁」とクリエイティブの「壁」



ーーー脇田さんの著書『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』では、音楽業界のことが詳しく語られていて興味深かったです。ネットでも少し話題になっていましたが、インディーズバンドがテレビに出られない理由なんて、今まであまり語られて来なかったですよね。


脇田 タブーと思ったことは無いですが、今語ることで音楽シーンにとって、未来に繋がると思えるタイミングなんでしょうね。音楽業界は特殊専門職で、業界の外の人にはわかりにくいんです。TVを見て、出ているアーティストと自分が好きなアーティストを比べて、「なぜ、自分が好きなアーティストはTVに出れないんだろう」と思ったことがある人は多いんじゃないでしょうか? ネットが発達して、「TVに出ている=売れている」とはますます言えない時代になりましたが、それでもTVは大変影響力の強いメディアです。音楽番組の出演がどのように決まっているか。出演に至るまでレコード会社、マネジャー、番組、アーティストの間でどんなやり取りがなされているか。撮影現場で何が起こっているか。実態を知ることで、ミュージシャンやファンが未来を選択する材料にしてもらいたいと思って書きました。そこには、メジャーが優先される理由がありますし、メジャーであっても、売れていても業界から認められていないジャンルやアーティストは出にくかったりすることもあります。スポンサー収入でまわっている構造上、ゴールデンタイムなんかは、若者だけでなく、ちびっこ、パパママ、じっちゃんばっちゃんといったお茶の間を意識しなければいけなかったりしますし、そういったお茶の間の人々は、よくわからないミュージシャンが3分間出続けるとチャンネルを変えかねないですよね。TVの現場は、そういった事情を知る制作側とレコード会社のプロモーターのバランスで成立しているので、そこに当てはまらないアーティストは、何か拒絶されているように感じることになるでしょう。


ーーーいわゆる「業界の壁」ということでしょうか。


脇田 TVにはTVの論理があり、芸能には芸能の論理がある、音楽にも音楽の論理がある、ということが「壁」になることがあります。どこから収入を得ていて、どういう構造なのか……これらを理解せず、その中に入っていこうとすると、「壁」にぶち当たる。このことは一昔前なら業界批判の対象となっていたでしょうが、ネット以降、いろんな選択肢が増えた現在は、もはやタブーではないと思います。TV以外にも宣伝し、音楽を広める方法はたくさんありますから。どんどん業界の仕組みを勉強し、長年積み重ねられたノウハウの宝庫から学んでほしいです。さらに言うと、壁はこれだけではありません。クリエイティブな現場での「壁」もあります。TVを含め、エンタメ業界は、スピーディーで一瞬一瞬が勝負というか、「今」というタイミングを逃すとマジックは失われる、といった感覚があります。なので、TVでも、レコーディングでも、ライブでも、やり方、進め方を「わかってる」者が重宝され、「一緒に仕事しよう」となる。業界用語や専門用語のような身内にしかわからない言葉、変な習慣ですよね。これは、説明を飛ばして、直感的にスピーディーに意思伝達を行なうために略しているとも言えます。また、このような外の人がわからない業界用語や慣習が重んじられたりすることには、センスとかを共有でき、説明抜きでクリエイトできるメンバーと仕事するというポジティブな面があることがわかります。わかってない人間(つまり、新参者)には、そのことが「壁」となるわけです。これは良くない面ですね。

 一つはビジネスの「壁」、もう一つはクリエイティブの「壁」。二重の壁を突破しないといけないというわけです。


メジャー=作品タイトルの安定供給業者に属すること



ーーー本書では、そういった「壁」の中でビジネスするメジャーと対比して、新たなネットサービス等を軽やかに使いこなすインディーでの活動も紹介されています。では、メジャーとインディーの境界はどこにあるのでしょうか?


脇田 日本では、日本レコード協会に加盟している会社をメジャーと呼びますが、世界的に見ると、メジャーはユニバーサル、ソニー、ワーナーの3グループだけです。ただ実際には、日本において、メディアやCD販売/ネット配信業者などにとっての「お得意様」、つまりは定期的にタイトルをリリースする安定供給業者、そういった会社に属することが「メジャー」ということだったのかもしれません。そのラインに乗って供給され、ビッグビジネスの商材となるアーティストが「メジャー」なんじゃないですか。境界は非常にわかりにくいですね。インターネットやライブシーンを上手く使い、自己資本だけで活動するアーティストは増えています。これは、ニュアンスとしては「インディー」ではなく「インディペンデント」と呼びたくなりますね。CMやゴールデンタイムの「お茶の間」にマッチしないテイストや主張でも、しっかりファンやシーンから支持されるのはカッコいいですし、それがメジャーレコード会社に所属していても「インディペンデント」と言いたくなります。


ーーーちなみに日本では今でもCDが結構作られていて、その辺が諸外国との大きな違いとなっていますよね。


脇田 ご存じの通り、特典目当てでCDを購入するという、本体とオマケが逆転するような販売によって、旧世代のツールであるCDが生き延びてしまっているわけです。AKB48は国民的な「どメジャー」ですが、本来無かった市場を創り出したという意味では「インディー」性がありますね。ただ、結果的には一昔前のツールであるCDを生き延びさせてしまった。それ自体は悪いことばかりではないのですが、ラジオや雑誌という音楽シーンを形成していたメディアが凋落し、その代わりとなる可能性を持ったツールであるサブスクリプションサービスが発展しない大きな理由になるという弊害を生んでいます。しかも、サブスクリプションサービスを拒否する大物アーティストは、YouTubeには曲をアップしていることで、そのYouTubeから音を引っ張ってくる悪徳業者のアプリをはびこらせている状況です。こういう業者が広告収入を得ている状況は、音楽シーンをダメにします。こんなのは日本だけです。それから、CDはアーティストや専門スタッフの「魂」が込められた「作品」だという信仰があるように思います。一見、正しい考え方ですが、ダウンロードデータやストリーミング再生にも「魂」は込められるし、「作品」による感動は伝えられると思います。時代はすごいスピードで進んでいます。サブスクリプションサービスで作品性のこだわりを表現したり、YouTubeで売り上げたり、あと、インチキ業者と戦ったり……。レコード会社も事務所も、アーティストもファンも、音楽が伝わっていく多様な手段、選択肢が視界に入ってくることで、CDだけの売れる/売れない話とか、JASRACなど既存業界の批判ばかりで盛り上がっているより、音楽を広めるもっと新しい道に向かうと思います。そういう時期なのだと思います。というか、そうありたいですね。


ライブハウスのノルマは必要悪?



ーーーこの状況で、メジャーからデビューするにはどういう方法が考えられるのでしょうか?


脇田 まず、メジャーデビューは目的ではなく、手段です。メジャーデビューすれば、テレビに出れば成功できるとか、そういう時代ではありません。と、同時にネットやSNSを使えば誰でも音楽を広められるといった簡単な話でもありません。メジャーデビューしようが、インディでネットで発信しようが、必要なのは知識と情報であり、瞬間瞬間をいかに輝かせるかという行為の積み重ねだと思います。本の各章にも書いたことなのですが、音源制作、ライブ、宣伝の各現場で、プランニングやスタッフ/関係者との打ち合わせ、メールやLINEの言葉の一つ一つ、写真のアングル、文字の書体、打ち上げでの飲みっぷり等々……曲やライブは良くて当たり前、宣伝して当然、その先で勝つには、日々スキルを磨き、瞬間ごとに全身全霊をかけ続けることなんだと思います。これは、アーティストもスタッフも同じです。

 その上で、メジャーを目指すという選択をする人も多いと思うんですよね。ならば、まさに、この本を足掛かりに、メジャー各社がどういう考えで動いているのかという考え方を知り、そこから現実の各社の動きを研究してほしいです。一口にメジャーといっても、日本にはいろんなレコード会社があり、それぞれの事情や考え、趣向があって、リリースしたい音楽やジャンルなどはそれぞれです。だからA社にとって喉から手が出るほど欲しい逸材が、B社にとっては無用の長物であるということも起こり得るのです。要はタイミングと出会いですね。自分の好きなアーティストがどんなスタッフと組んで、どんな活動をして、どんな作品を発信したか。ライブ現場でどんな振る舞いをしたか、どんな成果を収めたか。こういったことを勉強、研究するのはとても価値があります。

 それこそ、好きなアーティストや、その担当者にSNSで直接質問するのも良いと思いますよ。「どうやってデビューしましたか?」と。オープンに話し合って良いと思います。実際にレコード会社の人にSNSで絡んでみたりする、その時の共通言語を学ぶために拙著は役に立つと思います。今の時代、チャンスは拡大しています。そういう行動から、個性と売りに磨き上げてほしいですね。もちろん、これは、DIY志向のアーティストやスタッフにとっても有効ですし、いろんな業種の方にも使ってもらえると思います。


ーーーでは、ライブハウスのノルマ問題については、どう思われますか?


脇田 飲食とエンタメが繋がった、PubやClubのような文化が無い(失った)日本では、演奏者がそれなりの力をつけるための場数を踏むには、お金を支払ってでも、出演したいというのは、必要悪? なるべくしてなった結果なのかもしれません。私もライブハウスのマネジャー時代、ノルマを取っていました。ただ、自分や自分のハコが、リスクを負わせるだけのことを提供できているか、常に自問していたつもりです。「ノルマやハコ代を払う価値のないハコだ」と思われたら、バンドは去っていきます。逆に素晴らしい演奏をするアーティストが集客できずノルマを払わせることになり、心を痛めたこともあります。また、中にはノルマや条件に関係なく出演させるアーティストもいました。最初はノルマから始まり、アドバイスやサポートをしてきたアーティストが、ハコをお客さんでいっぱいにして、会心のライブを行なう。幸せな瞬間ですね。どれも現場で実感したことです。またライブハウスが成長の場、一種の学校のようなものだとして、ノルマは授業料だとするなら、税金から援助しても良いかもしれません。ライブアーティスト育成基金とか(笑)。さらに、それを拒否するミュージシャンが現れたりして……。

 隣の芝生が青く見えているだけかもしれませんが、福岡に行くと路上ミュージシャンの音が気持ちよく鳴り響いています。若いミュージシャンへの、街の人の理解があるのだろうと感じました。また、沖縄のミュージシャンが観光予算で制作されたイベントでライブを行なっている話を聞いたこともあります。アイルランドの伝統音楽に関わる仕事をした際に聞いた話では、公立の音楽資料館のようなところで若いミュージシャンを応援するために雇用したりする仕組みがあるということでした。音楽を育てるとは、文化や政治経済と繋がった問題なのでしょう。




『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!』
(リットーミュージック)

著者:脇田 敬

監修:山口哲一

定価:(本体1,800円+税)



PROFILE

脇田 敬(わきた・たかし)

1971年生まれ。レコード会社勤務、ライブハウス/クラブ・マネジャーを経て、プロダクション設立。多くの新人アーティストのマネジメント、制作を行い、メジャーデビュー、ブレイクへと導く。豊富なライブやマネジメント現場の経験とインターネット時代に対応した業界ビジネス知識を活かしたマネジメント、プロデュース、プロモーションを行っている。ミュージシャンズ・ハッカソン、エンターテックイベント「TECHS」制作、 ニューミドルマン養成講座制作、ライブハウス「DESEO mini with VILLAGE VANGUARD」プロデューサー、尚美ミュージックカレッジミュージックビジネス科非常勤講師。




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