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「子どもだと思って油断していたのが間違いだった」愛人宅で聞いたヒソヒソ話に大激怒! 言い聞かせてもわからない14歳の娘 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



楽しい一家団らんの影に潜む、父の思惑


源氏と頭の中将、両者の昇進パーティーが一段落ついた秋の頃。頭の中将は久しぶりに実家を訪ね、雲居雁を呼び出して琴を弾かせます。大宮は諸芸に通じていて、孫娘にもよく教えていました。


雲居雁は14歳。年よりも幼く可愛らしく、精巧に作られたお人形のようです。珍しくお父さんが自分に構うのでちょっと恥ずかしいのですが、言われるままに一生懸命琴を弾きました。


頭の中将は自分も和琴を取り、大宮には琵琶を勧めながら「源氏の君が大堰に隠している明石の君という女性は、琵琶の名手とか。田舎育ちなのに、独学でマスターしたにしては珍しいほどだそうですよ」。大宮も「そうそう。姫君を産んだあとは紫の上に預けられたそうで、幸運な上にとても思慮深い方のようね。感心だわ」。


頭の中将は話を本筋に寄せて「そうですよ、女の出世は心がけ次第です」。続けて、長女の弘徽殿女御が源氏の養女・秋好中宮(斎宮女御)に出し抜かれた後悔を語り、雲居雁を皇太子妃にしたいと打ち明けます。源氏が紫の上に養育させている明石の姫君(ちい姫)も、必ず皇太子妃を狙ってくる大宮も自分の家系から中宮が出ることに期待し、息子の意見に同調します。


おしゃべりと音楽が続く楽しい一家団らん。大宮は息子も孫もとても可愛く思います。そのうちもう一人の孫、夕霧がやってきました。夕霧も3人と同じ居間に通されますが、頭の中将は素早く雲居雁との間に几帳を置いて顔を見せないように隠しました。


「やあ夕霧。最近はあまり会わないね。君のお父さんはどうしてそんなに学問をさせたいんだろうねえ。部屋にこもってばかりで気の毒に。時々は勉強以外のこともしてごらん。笛を吹くことだって、立派な勉強だよ」。


夕霧は言われるままに笛を吹き、興が乗った頭の中将は合わせて歌い、その後は一緒に食事をしますが、この間に雲居雁は部屋に返されています。親族の楽しい集いに見えて、その実、娘と甥をさりげなく確実に隔てる父親の手が働いているのがとても面白いところです。


しかし事情を知っている女房たちは「なんだか悪い予感がするわ」と囁いていました。フラグが立ったぞ!


「油断していた!」愛人のところで聞いたヒソヒソ話に大激怒


夜も更けた頃、「せっかく久しぶりに来たんだし」と、頭の中将はこっそりと愛人の女房の部屋にしけこみました。事が終わってそっと部屋を出ようとすると、他の女房部屋からヒソヒソ声が。どうも自分のウワサをしているようです。


「偉そうにしてらっしゃるけど、やっぱり親バカね~。なんにもご存じないんだから。だって、夕霧さまとお嬢様は……ねえ!」


頭の中将はその一言ですべてを悟り、「なんてことだ。ああ情けない。仲がいいからもしやと思っていたが、子どもだと思って油断していたのが間違いだった……」。彼は動揺しつつ、音も立てずに忍び出て牛車に乗りました。源氏といいこの人といい、遊び人と言うよりは忍者のようなテクですね。


女房たちは供人の「殿のお発ち~」の声に「えっ?まだお帰りじゃなかったの?」「まだ浮気歩きにご熱心なのね」とビックリ。ウワサをしていた張本人たちは「どうしよう、聞かれたかも?面倒なことにならなきゃいいけど」。残念ですが、殿はバッチリ聞きましたよ!


頭の中将は車の中でも、家に帰っても娘のことばかり。(いとこ同士の結婚はよくあること。すごくダメではないが、皇太子妃にしようとおもっていた矢先だけに残念なことよ。母上も可愛い孫同士のこと、甘やかして見ぬふりをしているのだろう。ああ……今度こそ源氏に勝てるかと思ったのに!)。


若い頃から源氏の親友でも、ライバルでもあった頭の中将。すでに身内同士ということもあり、源氏や夕霧とも仲良く付き合ってきましたが、源氏の養女・秋好中宮に皇后の座を奪われたことが相当悔しかった上に、期待をかけた次女・雲居雁のこのスキャンダル。夕霧のことは息子同然に可愛がっていたので、余計に裏切られた感も強かったのでしょう。もともとストレートな性格だけに、今回の件には怒り心頭でした。


ショックのあまりお化粧も……息子の怒りに困惑


2日ほどして、頭の中将は再び実家へ。大宮は普段はあまり顔を出さない息子がまた来てくれたことが嬉しく、きちんとお化粧し、身ぎれいにして出迎えたのですが、肝心の息子はどうにもご機嫌斜めです。


頭の中将は開口一番「思いがけない事態が起こりました。あまりのことに、こちらに来るのも恥ずかしくて。母上なら立派に雲居雁を育ててくれると信じてお預けしたのに。お恨みします」。


大宮はただならぬ剣幕に驚いて「いったい何のこと。どうしてこの年寄りを責めるの」。おばあちゃんは孫たちがどうなっているかを一切知らなかったので、本当に寝耳に水でした。ショックのあまり涙がこぼれ、せっかくのお化粧も落ちる始末。あらら。


いとこ同士の男女が一緒に暮らすうちにデキてしまったなどと言うのは誠に軽率。しかも源氏とはすでに身内同士で、他家との結婚と比べるとメリットが薄い。源氏の君もどう思うかしれません。それにしても、一言私に知らせてくれればもう少し上手い運び方もできたものを。母上が孫可愛さに甘やかしていたことが残念でなりません」。


大宮は呆れて「あなたの言うことはもっともだけど、私はあの子達が何しているか全く知らなかったの。本当よ。雲居雁はずっと私が大切にお世話してきました。私だってあの子の将来を心から願っています。いくら夕霧が可愛いからって、そんな関係を許すなんてあり得ません。それにしても誰がそんな事を言ったの。そんなウワサを真に受けては、かえって雲居雁の体面が傷つくのではないかしら」。


困惑しきりのおばあちゃんに対し、父親は「ただのウワサなもんですか!女房たちはとっく知っていて陰で笑ってるんですよ。ああ悔しい、情けない!」。ボヤきながらそのまま席を立ち、娘の部屋に行ってしまいました。あーあ。


性教育失敗?言い聞かせてもわからない14歳の娘


雲居雁の部屋を覗くと、何も知らない娘は無心に座っています。(こんなに可愛い娘の未来を台無しにして……!!)彼の怒りはそのまま女房たちへ。うっかり話を聞かれた張本人たちは激しく後悔し、微笑ましい恋を黙認してきた者たちも、心から2人に同情しました。


乳母は「おふたりはずっと一緒が当たり前で、我々も大宮様を差し置いて引き離すわけにも参りませんでした。それでも一昨年頃からは生活上の区別をしていましたし、夕霧さまはとても真面目でしたから、そんなマセた事をなさるとも思えず……」。


なるほど、もっと夕霧がチャラ男なら警戒しただろうけど……と。でもその実態は、「おばあちゃんの手前うるさく言えないし、どうせお父さんもあまりチェックに来ないし」と、ゆるゆるでしたけど。


頭の中将は「もういい。とにかくこのことは内密に。何か言われても完全否定で通せ」と命令。雲居雁にもあれこれ言い聞かせるのですが、彼女はまったくおっとりしていて、ちっともよくわかっていない様子。諭しても何の手応えもないので「どうしたらお前の将来を取り戻せるのかねえ……」と、とうとうパパの方が泣き出してしまいました。あーあ。


雲居雁は14歳、時代を考えれば結婚・出産していてもおかしくない年齢です。今の中学2年生くらいなら「そんな子もいるかな?」と思うのですが、平安時代にしては(?)かなり奥手な女の子。そういう子がよくわからないまま自然な感情に任せて、好きな男の子としてしまった……というあたりがすごくリアルだと思います。


平安時代の性教育事情についてはよくわからないのですが、結婚年齢も早いので、早い段階でそれとなくレクチャーがあるのだろうとは思います。でも、それも家庭環境や親の教育方針でも違うでしょうし、本人の理解の仕方もまちまちでしょう。個人的な意見ですが、例えば同じ年頃でも、朧月夜ならもっとよくわかっていたんじゃないでしょうか。


頭の中将が言い置いた「10歳を過ぎたら一緒に寝てはいけない」の真意も、夕霧はともかく、雲居雁はよくわかってなかった。更には社会的な立場や世間体にどう影響するか、ということも。源氏が顔を見せない秋好中宮のことを悔しがりつつも、高貴な女性として素晴らしいと絶賛するのは、雲居雁みたいなゆるい貴族のお姫様もいたからなんだとよくわかります。


一方、おばあちゃんの大宮は別のことを思っていました。(まだまだ子どもだと思っていたのに、夕霧ったらいつの間にか大人の恋を覚えたのね。ウフフ)。雲居雁も可愛いが、孫息子の夕霧のほうがおばあちゃんとしてはより可愛いらしい。大宮としては、頭の中将がこの件をとても悪いことのように言っていたのが心外でした。


雲居雁を大事に育てたのは私よ。ほったらかしにされていたあの子をここまで育てたからこそ、皇太子妃になるという希望も出てきたんじゃないの。何より、たとえ皇后中宮になれないとしても、夕霧以上に優れた婿がいるものですか)。夕霧はとってもいい子だし、手塩にかけた雲居雁も可愛い。孫同士の可愛い恋を、頭ごなしに否定されるのがおばあちゃんとしては悔しいですね。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。


3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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