日本で最も普及しているメッセージアプリといえば、やはり『LINE』である。
だが、日本国外ではLINEは決してメジャーではない。韓国では『カカオトーク』が普及しているし、アメリカやヨーロッパでは『Facebook Messenger』と『WhatsApp』が鎬を削っている。BlackBerryが提供する『BlackBerry Messenger』も忘れてはいけない。
そしてその中で、近年ユーザー数を伸ばしているのがロシア生まれの『Telegram』というアプリ。
だがこれは、世界中で「騒動の芽」を生み出している。
おいおい大丈夫かこのスタンプ?
Telegramがもたらす騒動の内容を語る前に、まずはこのアプリの使い心地を確認してみたい。いやだって、日本じゃTelegramはまだマイナーなんだから、とりあえずレビューしないといけないと思うんだ。
とはいっても、筆者の周りにTelegramなんてダウンロードしてる人がひとりもいない。こりゃエライコッタ。仕方なく、身内のタブレットを取り上げて無理やりダウンロード。この行動で、Telegramのあるひとつの特徴がさっそく判明した。
アカウント作成がベラボーに簡単なのだ。必要なものは携帯電話の番号だけ。それを入力したら、SMSに認証キーが送られる。あとはパッパッパと認証キーと希望のユーザーネームを打ち込んで、見事アカウント開設。
しかも登録電話番号とユーザーネームはいつでも何回でも変更可能。その際に、いちいちメルアドを入力する必要はない。てか、メルアド自体要求されない。
使用感は「サクサク」の一言。Telegramは送受信の速度に定評がある。ただやっぱり、LINEほどのバラエティー性はない。LINEに慣れた人がTelegramを使ったら、シンプル故の冷たさを感じるかもしれない。
ただしまったくの無機質というわけでもなく、LINEの「スタンプ」に該当する機能として「ステッカー」というものが用意されている。それがこちら。
い、委員長!? や、やべぇやべぇやべぇ!
もしLINEだったら、間違いなく審査で落とされるレベルのステッカーだ。LINEスタンプって結構審査が厳しくて、「どこかしらの団体を連想させるもの」はバシバシはじかれる。だから病院の赤十字マークもNG。ましてや、偉大なる委員長同志はちょっとなぁ……。
いずれにせよこの辺り、LINEよりは自由度が高そうだ。
運営ですら見ることができない
さて、そんなTelegramだが世界中の政府から目をつけられている。
委員長同志のステッカーを勝手に配信したから、ではない。セキュリティー性があまりに優れているからだ。
Telegramでのユーザー間のやり取りは、運営ですら覗き見ることができないという。てか、Telegramはそれを売りにしている。「あなたの秘密は我々にも確認できませんよ!」というように。CEOは「これが我々開発スタッフの誇りだ!」と胸を張っている。
ということは、テロリストがTelegramを利用したとしても追跡できないわけだ。
先述の通り、Telegramは電話番号やユーザーネームの変更がものすごく簡単だし、それ以外の個人情報を要求されない。世界のあちこちに潜伏するテロリストが、現地で手に入れたスマホでTelegramを使っているというわけだ。たとえISの構成員がグループチャットでテロ計画の打ち合わせをしていたとしても、運営はそれをブロックすることができない。
もう一度書くけれど、TelegramのCEOはそれを「企業の誇り」にしている。
だから、各国政府からの情報開示要請も全部突っぱねる。「テロリストがTelegramで犯罪を計画している」と当局から言われても、「それはごく一部の現象に過ぎない。ほとんどのユーザーはTelegramを健全に利用している」と返してテコでも動かない。
そんなTelegramの態度に、堪忍袋の緒を切らした国も。
インドネシア政府の実力行使
インドネシアは、2億5,000万人の人口を誇る国だ。しかも国民平均年齢がまだ30歳に届いていない。
そんな中で一昨年からAndroidのスマホが爆発的に普及し、ITビジネスも大進化を遂げた。メッセージアプリにとっても、インドネシアは絶好の市場である。
ただし、その中でも葛藤がある。インドネシア政府は伝統的に内資優先思考で、現地法人を設けない外資企業に対してはかなり厳しい。Telegramに対しても、早くインドネシア支社を置くように要請した。
その狙いは、法人税の徴収だけではない。治安当局にTelegramのユーザー情報を開示させるという意図もある。いわゆる「バックドアの設置」だ。
もちろん、Telegramがそれに応じるはずはない。するとインドネシア政府は、何とTelegramのアクセスブロックを実行したのだ。
今のインドネシア大統領はジョコ・ウィドド。この人は早口なインドネシア人には珍しく、おっとりした口調で雰囲気も「優しいおじさん」という感じ。趣味はヘビメタ鑑賞で、長年のメタリカファン。公用車の中でエアドラムをやって盛り上がっているという話もあるほど。結構お茶目な人だ。
けれど一方で、治安問題に関しては超強硬的。ついこの前は「麻薬密売人は射殺しても構わない」と発言した。Telegram問題に関しても一歩も引かない構えで、「政府は以前からTelegramを注視している」とコメントしている。情報当局がすでに「秘密の裏口」を作っている、ということなのだろうか?
ともかく、インドネシア政府は安全面の理由でTelegramを遮断した。今のところはWeb版のみのブロックだが、その復旧の見通しは立っていない。
世界のテクノロジーメディアは、Telegramの動向に目を向けている。このメッセージアプリがどこへ行くのか、これからも注目だ。
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(執筆者: 澤田 真一) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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