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「年をとると告白なんてみっともなくて」養女へセクハラ!憧れの人からの塩対応…オヤジ化する源氏の中年の恋~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



NG連発で退場!オヤジ化する源氏、養女へセクハラ


藤壺の宮の死から半年。季節がすっかり秋になった頃、源氏の養女である斎宮女御が二条院に宿下がりしてきました。冷泉帝の寵愛も深く、立派に務めを果たしています。


秋雨が静かに、庭の草花を濡らしています。源氏はそれをみても、宮のことが偲ばれます。半年が過ぎても源氏は相変わらず色のない喪服姿のまま、袖には数珠を隠して暮らしています。表向きには「不穏な世の中なので精進している」と言い訳していますが、本当は宮のため。源氏の心の喪はまだまだ続いていました。


源氏は斎宮の御簾のうちに入り、几帳だけを隔てて話します。以前は朱雀院に遠慮していましたが、今は堂々と父親ぶって、こうして部屋の中にも入ってきます。


話は斎宮の母・六条御息所に会いにいった秋のことへ。母の話題に斎宮も涙ぐんでいる様子が伺え、身動ぎするかすかな動きも可愛らしい。ここでまた源氏の悪い癖が始まります。(ああ、お顔が見たい。まだ拝見していないのは本当に残念だ)


「私は若い頃から困った性癖がありまして、恋愛では後悔もいろいろございました。その中でも最後まで心残りに終わった恋が2つあります。


ひとつはあなたのお母様のこと。私のことをお恨みになったまま、思い詰めて亡くなられたことが本当に悔しくてならない。こうしてあなたのお世話をさせていただくことで、罪滅ぼしに代えたいと思っております。ですが、お母様の誤解は解けぬままで終わったことが残念でなりません…」


もう一つの恋については話さないまま、源氏は更に「私は出世の喜びなどはどうもピンとこない方でして。その分、家族や大切な人への愛情を感じやすい性格のようです。私がどれほど自制してあなたのご後見をしているか、ご存知でいらっしゃいますか。せめて”かわいそう”に、とでも仰っていただけたら、どれほど嬉しいでしょう」。


え?お母さんの話から急にそっちに行くの?……斎宮は困り果ててお返事もありません。そりゃそうでしょう。この人は養父だし、自分は帝の妃なんだから。これはイエローカード!


源氏は慌てて「やっぱりダメですか、情けないですね」と自分で回収して世間話を続けます。気を取り直し、普通に相槌を打つ斎宮。話題は季節のことに移りました。


「昔から、春と秋のどちらが素晴らしいか論じられて続けていますね。中国では春が一番ですし、日本では秋のあはれが大切にされています。簡単に優劣はつけられませんが、あなたはどちらがお好きですか?


斎宮は返事をしづらいなと思いつつ、答えないのも悪いと思って「私が決めることではありませんし、どちらも美しい季節だと思います…でも、やはり母が亡くなりました秋が、格別に感慨深いです」


素直な気持ちを語った可憐さに、源氏はまた暴走。「そうですか、でしたらこの秋の夕風に、私と想いを交わしてください。時々、気持ちを押されられないときがあるのですよ…」。この時代の男女が「語る」とか「交わす」といい出したら情交のことです。


また色気を起こした源氏に、斎宮は驚くやら呆れるやら。ここから源氏がどう言い募ったのかは具体的に書かれていませんが、”もう少しで過ちが起こりそうな状況だったが、斎宮があまりにも嫌悪感を示し、源氏も「若者でもないのに」と正気にかえって引き返したので事なきを得た”とあるので、キワドい所があったのでしょう。なんて残念な養父、これはもうレッドカードものです。


斎宮はもう源氏を見るのも嫌で、少しずつ部屋の奥の方に引っ込んでいきます。源氏は「そんなにお嫌なのですね。本当に思慮深い方は、このような態度はお取りにならないものですよ。でも今後はこういった発言は控えましょう。私のことを嫌いにならないで下さい、辛いですから」


セクハラから逃げる相手をそれとなく非難し、更に自分を嫌わないで欲しいという、図々しい発言。養父にセクハラされて辛いのはこっちだよ!嫌に決まってるだろ!!と、筆者が斎宮だったらいいたいです。


散々NGを出し、さすがの源氏もついに退場。紫の上の所へ引き返しながら、部屋の前でため息を付きつつ(やれやれ、いい年をして自分にはまだ困難の多い恋をしたがる癖が残っていたのか…)と反省しきりです。


斎宮の部屋には源氏の残り香が漂っています。なにも知らない女房たちはそれを「何とも言えない香りですこと」などと褒めていますが、斎宮女御はその匂いすら不快に思えて仕方ない。今となっては「季節のお話だと思って、訳知り顔に答えるのではなかった…」とひどく後悔して、クヨクヨと気に病んでしまいました。


養父になったオジサンに言い寄られるなんて想像しただけでも気持ち悪いですが、斎宮生活が長かった彼女は、純真で世間知らずのお嬢様。うまく受け流すようなテクニックも知らないし、そんなイヤらしいことなんか思いつきもしない。養父とは言え元はアカの他人、「オジサンなんてこんなもんよ」みたいな経験も、きっとなかったことでしょう。かわいそう。


落ち込む斎宮をよそに、源氏は素知らぬ顔で相変わらず部屋に出入りし、実の親より父親ぶって世話を焼いています。それをまた、事情をしらない女房たちが「なんてお優しいお父様でしょう」とか褒めちぎるので、斎宮はやりきれない気分でした。外面がいいだけに、タチが悪いですね。このエピソードを皮切りに、ここから源氏のふてぶてしいオヤジ化が顕著になっていきます。


憧れの年上の従姉と再会も、彼女の塩対応に泣く


神に仕えていた源氏の想い人がもう一人、俗世に帰ってきました。年上の従姉、朝顔です。彼女は長らく賀茂神社の斎院を務めていましたが、父の桃園式部卿宮が亡くられたので、お邸に帰ってきたのでした。


源氏はお悔やみにかこつけて、ここぞとばかりに手紙を送ります。が、朝顔は(以前、浮いたウワサを立てられてとても困ったわ)と思っているので、大したお返事もしません。源氏が謀反人と疑われた頃、2人のやり取りが取り沙汰されて「神を冒涜している証拠だ、破廉恥だ」とまで言われたのを、彼女も知っていたんですね。


桐壺院にはたくさんの兄弟姉妹がいました。葵上の母・大宮や、亡くなった桃園式部卿宮、その妹の五の宮も皆、源氏の叔父叔母にあたります。朝顔が叔母の五の宮と同居したと聞いたので、それを理由に朝顔に会いに行こうと、まずはご機嫌伺いに行きました。


五の宮は随分老け込んで、話す言葉に咳も混じりお気の毒です。声や気配を感じながら、源氏は(ずいぶんゴツゴツした感じだなあ。姉上の大宮はとてもしっとりしてお綺麗なのに)。美貌の頭の中将・葵上のお母さんだけに、大宮は美熟女。ひきかえ、妹の五の宮は骨っぽく中性的な感じ。女性の年のとり方もいろいろです。


五の宮は源氏の心中も知らず、お見舞いを喜ぶあまり口が滑って「あなたますます綺麗ね。冷泉帝がそっくりだと聞くけど、あなたのほうが絶対に綺麗よ」などとオバサンらしいことを言って、源氏をおかしがらせたりします。


ところが、ふとしんみりした口調で「姉の大宮が羨ましいわ。お嬢様(葵の上)があなたと結婚してお孫さんまでできたから、ずっとあなたとご縁があるんだもの。兄(桃園式部卿宮)も、あなたを朝顔のお婿さんにと思ってたみたいだけど、結局……。時々後悔しているみたいでした」。ちなみは五の宮は独身(当時は皇女の独身=尊いという考えがあった)。


その一言は源氏の心に刺さります。「もしそうなっていたら、どんなに嬉しかったでしょう。どうにも相手にしていただけなくて」。源氏の恨み節は冗談っぽくなく、本気です。


長話を終えて、源氏はようやく本命の元へ。庭の秋草は枯れ果ててしんみりした雰囲気です。(あの方はこの秋のあはれを、静かに眺めていらっしゃるのだろう)と思うと、恋しい気持ちが抑えられない。でも源氏が通されたのは、縁側に近い御簾の外です。


「長い年月、ずっと想いを伝えてきた私です。中へ通していただくことが出来るかと期待していましたが、御簾の外ですか」。朝顔は源氏を受け入れる気がないので、部屋にも入れないし、直接会話もしません。受け答えも宣旨(せんじ)という女房を介します。


源氏は「神の許しを待ち続け、辛い時を過ごしてきた我が身です。もう神職からも下りられた今、どんな理由があって私をお避けになるのでしょう。私の想いの片端でも、聞いていただければ…」。大臣ともあろう男が縁側に座らされて、この口説き文句。なかなかキツイですね。


とにかく恋愛モードにもっていきたい源氏を、朝顔は「一度は神に仕えた身、あなたとのやり取りも神がお戒めになるでしょう」と一蹴。以前の恋文スキャンダルが尾を引いているのかと、源氏は「そんな昔のことを。風の神に払われて、罪はとっくに時効ですよ」。


冷たい言葉とは裏腹に、朝顔は内心(若い頃よりもずっと素晴らしくなられたわ)と、源氏を賞賛していました。大臣としての重い身分に釣り合わず、若々しさや愛嬌が溢れる男ぶりはとても魅力的。しかし、朝顔はそれ以上の返事をせず、御簾の前を去っていきます。この塩対応には、取次役の宣旨も困ってしまいました。


源氏は情けないやら恥ずかしいやら。「ああ、年をとると告白なんてみっともなくて。せめてこの、恋にやつれた中年男の後ろ姿でも見てやろうか、とは思って下さらないか。そのご様子では無理でしょうね……」。源氏はしょんぼりと帰ります。それを見て、またここの女房たちが、源氏がいかに色っぽくて素敵だったかをペチャクチャと喋り散らすのでした。


斎宮女御も朝顔も、共に神に仕えた高貴な女性で、趣味高く申し分のない点や、ガードの固い所がよく似ています。彼女たちへのアプローチの奥底にあるのは、藤壺の宮や六条御息所といった、かつての忘れ得ぬ恋人たちへの後悔と未練。狂おしく、悲しく、でも輝いていた青年時代の恋に比べ、中年時代の源氏の恋には、複雑さと暗さ、空虚さが漂います。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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