今春大ヒットを記録した映画『モアナと伝説の海』。最新技術による美しい海と、全く新しいヒロイン、ディズニー・アニメーション伝統の心が洗われるストーリーの融合は見事の一言! 何度でも観たいアドベンチャー・ムービーとなっています。
それもそのはず、この『モアナと伝説の海』を手がけているロン・クレメンツ監督&ジョン・マスカー監督は、『リトル・マーメイド』『アラジン』等を手がけた伝説のお2人! 今回は両監督と、プロデューサーのオスナット・シューラーさんにお話を伺いました。
――モアナは非常に活発で、健康的な女の子に描かれてます。彼女の健康的な体型には何か意味を持たせているのでしょうか?
オスナット・シューラー:意識的に健康的な体型にしたんです。モアナはどんな状況になっても自分で自分を守ることができます。戦いにも挑みます。世界を救う為に戦う彼女ですから。強くてパワフルでありながら、勿論美しいキャラクターにしたかったんです。彼女のルックスを決めるまでに沢山のビジュアルが候補にあがりました。1階にあるギャラリーを見ていただければわかりますが、最終的なモアナのルックスが決まるまで随分試行錯誤したんです。彼女を強く、何でもできる女の子にするのは意識的な決断でしたが、最終的に決まったモアナのルックスはビューティフル&パワフルです。
――彼女のパワフルで健康的なルックスは、細いだけが美しいじゃないと言うメッセージも入ってると思っていいのですね?
ジョン・マスカー:そうです。すごく細くなくてもいい。健康的でパワフルと言う事が大切だと言いたかったんです。
オスナット・シューラー:健康的な肉体は凄く美しいと言う事です。
――監督お2人は『リトル・マーメイド』『アラジン』などの素晴らしい手描きアニメーションを作られていますが、『モアナと伝説の海』を手描きアニメーションで作りたいとは思いませんでしたか?
ジョン・マスカー:このアイディアを提案した時、確かに手描きのアニメーションでやったらどうだろうと思ったんだ。手描きのアニメーションとCGを組合わせた作品ね。でもジョン・ラセターがCG じゃないとダメだと主張した。僕は手描きのアニメーションだって出来るのにな、と思いながらCGで作る事に同意したんだが、出来上がったものを見た時にCGでやったのは正解だったとつくづく思った。
正しい決断だったと確信したよ。海が沢山登場するが、海の動きを手描きでやっていたら時間が掛かり過ぎるし、CGのように水を上手く描けない。マウイというキャラクターは体中にタトゥーがあるだろう。あれは手描きだったから、それはそれは大変だった。ほとんど不可能って感じだね。それから衣類のなんともいえない生地感。土の趣き、草の細かい動き、手作りの籠、それに髪の毛。どれもこれも手描きではCGのような質感はだせなかった。
ロン・クレメンツ:照明だってほとんど不可能だったと思うよ。
ジョン・マスカー:アニメーションはどれもこれもCGであるべきだとは思わないが、この映画に関してはCGが正しいやり方だったと確信してるんだ。
――今回はポリネシア文化を理解する為のリサーチ旅行に長期間出かけたそうですね。過去のディスニー作品から何かアイデアを得たことは?
オスナット・シューラー:今回は特に私たちの眼で見たもの、感じたもの、太平洋の島々で出会った人々、彼らの文化や背景、歴史、リサーチの旅で体験したものすべてを表現したかったから、自分たちは何回も行きましたし、ライティングディレクター、キャラクターデザインのアーティストたちにも行ってもらって、色合い、雰囲気すべてを見て聞いて、感じてもらいました。私達グループの実体験以外のものを参考にはしていません。勿論、このお二人は過去6本も素晴らしいアニメーションを作っているから、彼らの過去の作品の影響を全く受けてないとは言えません。でもこの映画は独特のものです。
ロン・クレメンツ:一つ付け足しておきたいのは、ジョン・ラセターはリサーチというものを非常に重要視していて、リサーチをやり過ぎるという事はないと信じている人なんです。リサーチを掘り下げて、さらに掘り下げて基礎をつくり準備する事を奨励してるんです。我々の最初の『オリビアちゃんの大冒険』の時はロンドンに行きたかったけれど行かせてもらえなかったし、『リトル・マーメイド』の時はモントレー(北カリフォルニア)にある水族館に行って水の中を泳いでいる種々の魚たちをリサーチしただけだった。(笑)『アラジン』の時は中東に行ける状態ではなくて行けなかった。でも『プリンセスと魔法のキス』はジョン・ラセターがヘッドになってからで、膨大なリサーチを許されたです。ジョンになってから我々もリサーチの重要さを学んだと言えますね。
――ポリネシア文化に触れて特に興味深かった出来事を教えてください。
ロン・クレメンツ:僕達は最近タヒチに行ったんだ。『モアナと伝説の海』がタヒチ語に吹き替えされて公開されたんだ。タヒチの歴史の中でどんな映画でもタヒチ語に吹替えされるなんていう事は今まで無かったんだ。だから現地でタヒチ語に吹き替えされた『モアナと伝説の海』を見て感動したよ。一万人の人が集まった。見る人を楽しませることのできる作品を作るのは大切な事であるのは承知だけど、楽しませること以上の要素を持ったものがあるというのを今回はつくづく感じたよ。ポリネシアでこの映画は大歓迎された。さらにポリネシアの人々に大きなインパクトを与えた事に驚いたんだ。(オスナットさんにジョンさんが)あの時の話をしてあげてよ。
オスナット・シューラー:タヒチで中年の女性と話をしていたの。まず彼女が教えてくれたことは タヒチでの『モアナと伝説の海』のプレミアがあった翌日。彼女が娘さんの誕生日にランチに連れて行った時、娘さんが初めて、今まで彼女に1回も聞いた事がないポリネシア人としての生い立ちや環境を聞いたと言うの。娘さんが彼女の若いころに興味をしめしたのは初めての事で、これは?と言う新しい世界が開けた感じがしたそうなの。
彼女に、「あなたはモアナのグランマ・タラに似てるわね。元気でエネルギーいっぱいの彼女を思い出してしまうわ」と言ったら、「私がグランマ・タラなんてとんでもないわ。彼女は私の祖母で、私はモアナだと思ってるのよ」と言ったの。面白いでしょう?(笑)
――ポリネシア系の人たちに『モアナと伝説の海』が受け入れられたということですよね。
オスナット・シューラー:年齢とは関係無く老若男女に影響を受けたのよ。タヒチは随分前から西洋人が入り込んで来てて、ポリネシアらしさを抑圧してたのね。これをしてはダメ あれをしてはダメとタヒチらしい事柄が否定され続けて来てポリネシアの伝統、刺青などが自由にできずポリネシア文化は幻想の世界で現実ではないと教えられて育ったの。自分たちの歴史や文化背景を謳歌する自由を奪われていたの。西洋文化が中心で自分たちの祖先が築き上げた文化背景は無視しなければならない環境だったの。だから『モアナと伝説の海』は彼らの眠っていたプライド、自分たちの祖先の歴史に対する興味と誇りが目覚めるきっかけになったという事ね。ポリネシアはフランス領だから言葉はフランス語、学校のシステムはフランスの教育制度、フランスの価値観で物事は運ばれていたの。
フランス風の環境の中で育つ子供たちはタヒチアンの歴史や文化への興味がどんどん薄れていってしまったの。そこに『モアナと伝説の海』がやって来て、今までのように金髪のカツラを被ってフランス風の歌を歌う代わりに自分たちのありのままの姿で歌い踊り、心からポリネシアンであることに誇りを持てるきっかけを作ったと言う事なの。
――ジョンさんがポリネシアのミソロジー(神話)を基にしたアニメーション映画を作りたいと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
ジョン・マスカー:まず本を読んで興味を持ったんだ。ジョセフ・コンラッド、ハーマン・メルヴィルの本には太平洋諸島の詳細が描かれている。僕は実際に1回も行った事がなかったが、彼らの本の生き生きとした描き方は、まるで僕自身も行った事があるようにさせてくれた。美しい景観やリッチな色合いも実に上手く描かれていた。それからポール・ゴーギャンなどの絵も観賞した。イースターアイランドの彫刻も見た。本を読み知識を吸収し、ポリネシアのミソロジーは常に自然との深い関りがあって、彼らがいかに自然を大切にし、自然と共に生きて来たかが理解できた。沢山の神話の中で特に印象を強く受けたのがマウイと言う半神半人の話。この半神半人はシェイプシフター(別の生き物に変身する)でもあり、一種のスーパーヒーローでもあるんだ。こんなストーリーは今まで画面の上で紹介された事がないし、マウイというキャラクターはビジュアル的にも非常に面白いんじゃないか?と感動したんだ。
そこでロンにこの事を話したんだよ。それからさらに本を読んだ。最初は今まで知らなかった美しい文化背景を持ったポリネシアに、ある種の距離を置いて魅了されていたが、本を読む事でさらに深く理解し、実際に行って人々と話をしたり、美しい景色の中で彼らの文化背景や日常に接しているうちに彼らの内面、彼らの持ってるポリネシア人としてのそこはかとなく漂うプライド、感性、それに西洋文化では考えられない海との深い繋がり、器具を一切使わずに海に出て世界中どこへでも行きたいところに行ける航海術、何千年と言う長い長い歴史、すべてがどんどん身近なものになり、理解の度合いが深まり、最初に考えていたストーリーが変化し、世界が広がっていった。何回か行ったり来たりしているうちに 彼ら独特のカルチャー、つまり西洋人の眼を通して伝えられてきた文化とは違うものが見えてきた。自分たちなりのストーリーが生まれたということなんだ。
――今までディズニー・アニメーションにはポリネシアのストーリーは無かったようですが何か新しい物を探していたという事なのでしょうか?
オスナット・シューラー:これが初めてのポリネシアを題材にした作品です。『リロ&スティッチ』でちょっと出てきましたが、あれはハワイが出てきただけなんです。
ジョン・マスカー:ハワイそのものは我々にとっては何も新しい事ではないですよね。ハワイより先の、西洋文化が入り込んでいない西洋人があまり知らないポリネシアを題材にしたかったんです。フィジ、トンガ…. 2000年前からの歴史、文化背景を未だに持ち続けるポリネシアです。
ロン・クレメンツ:ハワイはアメリカ人がバケーションでよく行きますよね。僕もハワイまでは行ってます。一般的にはその先、フィジとかトンガまではあまり行かないですよね。僕達はポリネシアの古い古い歴史の中まで入り込んでいきたかったんです。
オスナット・シューラー:それにジョン・ラセターはいつも我々に西洋文化の外にある世界、フェアリー・テール(神秘的な世界、神話や伝説などが紹介するエキサイティングな世界)に入って見る事を奨めてます。私はエアラインチャイルドで世界中のあちこちを見ながら、イスラエルで成長した子供なんですが、ポリネシアン・カルチャーの事はほとんど知らなかったと言えます。実際行った時に、驚異的な面白さを感じました。何千年も前に航海術を身につけていて、世界の海を渡り歩いていたなんて信じられなかったし、そんな事実を我々は学校で習った事もなければ、そんな歴史の存在を全く知らなかった事に 凄いショックを受けました。ヨーロッパの歴史が誇る優れた航海術、バイキングの話などは聞いて知ってるのに、それより以前の、自然から学んだ航海術をもって世界の海を渡っていたポリネシアの文化の事を知らなかったんですよ。信じれらないでしょう?ヨーロッパ人はそんなことがあることを認めたくなかったんでしょうね。
――ディズニーはいつも新しい題材を探してると言う事なのでしょうか?
オスナット・シューラー:新しい世界を探してると言えますね。例えば『アナと雪の女王』。ストーリー自体は今までも語られた事のあるものですが、それを今まで使われなかった違う世界に持って行ったという事なんです。新しいアプローチでしょうか。子供たちが遊ぶおもちゃは、私たちが見ていないところで何をしてるのだろうかというような、普段慣れきっているおもちゃの裏側に存在するシークレット・ワールドですね。(ジョンさん:「当たり前の世界の裏側にある秘密の世界」)今まで探求したことがない世界、あるいは今までとは違う探求の仕方。
――先ほどジョン・ラセターさんのお話が出ました。彼がディズニーに戻って来られた事でいろいろ大きな変化が起きたと思って良いのでしょうか?
ジョン・マスカー:イエス!!
オスナット・シューラー:答えは一言で、イエス!!(笑)
ロン・クレメンツ:ジョンは我々と同年代だから長い長い知り合いなんだ。70年代から知ってる仲なんだよ。何年も何年も何年もの付き合いなんだ。ジョン(マスカー)はジョン・ラセターと大学で同級生だった。ジョン・ラセターが若い頃ディズニーで仕事してたのは知ってるよね。僕達はピクサーのファンだからね。
ジョン・マスカー:ジョンは10年ちょっと前にディズニーに戻ってきたんだ。彼はディズニーの伝統的なストーリーテリングを守り続けてきた人だからね。彼が戻ってきた時、ディズニーは上手くいってなくて悪戦苦闘してたんだ。ジョンはそんな状態のディズニーを何とかしたいと思ってくれてね。彼は驚くほどのストーリーテラーだから、彼の才能でディズニーを元々の状態に戻してくれたらと皆が切望した。ジョンが戻って来て、それまでディズニーを牛耳っていた、ワイシャツにネクタイをして背広を着たビジネスマンがああしろこうしろと言うのではなく、我々クリエーターが何をしたいか、何ができるのか?どんな風にストーリーテリングをするのがベストなのか?と何でも自由に意見交換できるようになった。ピクサーは最初からそれをやって成功してる。クリエイティブに関係の無いビジネスマンなんてあそこには1人もいない。クリエイティブな仲間が集まって最高のアイディアを出しあい追及して行く。それをディズニーにも持ってきてくれた。我々は皆クリエートすることに専念できるようになったんだ。クリエーターたちに自由なパワーを分け与えてくれた。彼のお陰で我々皆クリエートし、それをベストに仕上げる為のさらなる力をもらった。
オスナット・シューラー: プロデューサー、ディレクター、ストーリー・ライター、プロジェクトに関わってる皆がそれぞれの意見を持ち寄って一つの作品をベストに仕上げるように協力し合う関係が出来たの。作る段階でそれぞれが出来上がった部分を皆に見せ合って意見を聞く。だから作品がどんどん良くなっていく。世界中どこを探してもディズニーとピクサー以外に自分のやってる事より、他の人の作品にも最大限の協力をおしまないスタジオは無いと思う。誰が中心に作っていても必要があれば皆が協力しあう、それはパワフルなやり方ね。
――そのすべてがジョン・ラセターのお陰と思って良いんですね?
オスナット・シューラー:
――ディズニーが世界に愛される作品を創り続けられる秘密は何でしょうか?
ジョン・マスカー:それは秘密だから教えられないよ(笑)
オスナット・シューラー:秘密の一つは、作っている人たちが、自分がやってる仕事を心から愛しているという事だと思うの。夢中になって作っている作品が自分たちを泣かせるという事は見る人達も泣いてくれると言う事なのね。クリエートしてる人たちは日本の観客は何を求めているのかしらとか、中国の人たちはどんな作品を見たいと思っているのかしら?なんて絶対に考えないの。自分たちが見たい作品は何なのか、自分たちを感動させるストーリーはどんなものなのかを常に追及している。素晴らしい作品を作ろうとしてる時、それは作ってる私たちが笑い、感動して泣き、メッセージを受取る、と言う事なの。観客は何に感動するかしら?ではないんです。自分たちが心から感動するものを作ればそれは必ず観客にも通じるという事だと信じてる。
ジョン・マスカー:それから、やり直しが可能な環境を作ってくれてる懐の深さ。それなりの予算があるというのはこの上なくありがたい事で、これしかないという状態ではベストなものを作りだす事ができない。常にベストを目指して作る体制が整っているんだ。途中でこれはちょっと違うんじゃないか?と思ったら皆に相談できる。何が上手くいってないのかを他の作品に関わっている人にまで聞いて協力を求められる。悪いところを是正することができる予算と環境を与えられているのは実に幸運な事だと思う。それに周りの協力と創作力と良いものを作るという確固とした意志が無ければできない。もつれているところを解き、やり直すというのは非常に混乱を生み出す、面倒くさい事でもある。ここからあそこに進むのがまっすぐに進めず、蛇のようにぐにゃぐにゃと進まなければならなくなる。
ロン・クレメンツ:ライブアクションの映画とアニメーションフィルムを比べるとアニメーションは撮影に入る前に映画がどんな風に仕上がるかを見ることができるという事なんだ。だからこそ進みながらマズイところをやり直す事が可能なんだ。ライブアクションは脚本が出来上がる、撮影に入る。完成した映画を編集が終わるまで見る事ができないから出来上がったものを見て、思ったものが出来なかったという事になる。アニメーションの動きを与える前にチェックできる。
オスナット・シューラー:ドラフトの段階で声を入れてみる。声優が本格的にレコーディングする前に声を入れて流れをみる。そんな段階ですでに心を動かされるものができていればアニメーションに動きを与えた後で出来上がるものに大きな期待がかけられるっていう事ね。
ロン・クレメンツ:MovieNEXでは制作の裏を見せているから、その段階でどんなものになっていたか、どんなふうに手直ししたかなどを見る事ができる。ストーリーボードアーティストが素晴らしいストーリーボードを作ってくれるし、それを何回も描き直してストーリーの流れやキャラクターのルックスなどを変えながら進めるんだ。時間はかかるけど思ったものが出来るまでチェック、やり直し、描き直し、またチェック、やり直しと繰り返してベストにもっていけるのがアニメーションなんだ。
――今日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました!
『モアナと伝説の海』MovieNEX7月5日リリース、先行デジタル配信中!
http://www.disney.co.jp/movie/moana.html