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池田香代子さんロングインタビュー!~マガジンハウス担当者の今推し本『世界がもし100人の村だったら お金篇 たった1人の大金持ちと50人の貧しい村人たち』



こんにちは、マガジンハウスです。みなさんは『世界がもし100人の村だったら』という話をご存知ですか? 今からおよそ15年前、世界中に広がっていたこのネットロアを『世界がもし100人の村だったら』(以下『100村』)にまとめられたのが、今日のゲスト、池田香代子さんです。今回は、その『100村』のお金篇が緊急出版されたので、急いでお越しいただきました!


―――本、早速読ませていただきました。『100村』が出たのは、もう15年前なんですね。月並みですが、あえて今、「お金篇」を出版しようと思ったきっかけは何だったんですか?


池田 「『100村』は、これまでシリーズとして5冊ありましたが、どれも、1冊出した後に必要に迫られて次の本を…みたいな感じで(笑)、特にシリーズにするつもりはなかったんです。オリジナル、解説、食べもの篇、子ども篇ときて、エネルギー篇となる5冊目を出した時に‟完結編”として最後にしたつもりだったんです」


―――確かに、「完結編」って書いてあります(笑)。


池田 「…そうなんですけど、その直後にまた、今度は経済のことをやらないと世界を把握できないって事態になって…。今から8年前、リーマンショックの後でグローバルマネーが飛び交って、生活がぐちゃぐちゃになった人もいるし、もう何が何だか…という世の中ですもんね。でも、経済のことってよくわからないんです」


―――はい、全然わからないです! なので池田さんは本書を、やさしいことばで書いてくださったんですよね。


池田 「どうです? わかりましたか?」


―――はい、世界の実態が見えてきました。ただ現実には、「自分は人より働いて、人より努力して、人より運が良くて、結果お金持ちになったのに、どうして努力しないで怠惰な人のためにお金を余計に払わないといけないんだ」っていう声も聞こえてくるんですよね。


池田 「ネオリベ(新自由主義)的な考え方ですね。要は、経済の勝ち組、負け組がいる、それがどうしたってことですね」


―――そうですね、経済的リア充。努力と才能で勝ち上がったんだから、優遇されてもいいだろうって。


池田 「一見すっきり論理が通っているように思えますが、根本的に間違っています。この本の最後にね、ガンジーの言葉をあげました」


―――『道徳なき商売は罪である』。


池田 「例えば、経済学の父と言われたアダム・スミスは『国富論』で、経済というのは市場に任せておけば見えざる神の手が働いて一番うまくいくという、いわゆる市場主義を唱えました。それが経済学の原点になっている」


―――いわゆる市場主義の考え方だと、‟なんで稼いだ人が分けなければいけないんだ”ってなりますよね。


池田 「ところがアダム・スミスは、『国富論』を書く前にもう一冊、『道徳感情論』という本を出しているんです。そこには、‟人には共感する力がある”ってことが書かれている。2冊の本で彼が言いたかったことは、‟人の痛みに共感できる人々が市場に参入すれば、放っておいてもうまくいく”だと思うんですね」


―――前提があったんですね。


池田 「そう。それから、これは言ったことになっていて実は言ってないんですけど(笑)、二宮尊徳の名言に‟経済なき道徳は寝言、道徳なき経済は犯罪”というのもある。さらに渋沢栄一も『論語と算盤』で同じようなことを言っている。一生懸命、経済活動しようよ。だけど道徳とか人への共感ってのを忘れちゃいけない、2つ揃ってこそ社会は回るんだという考え方ですね。今の日本は、経済回って社会回らず」


―――そうですね。


池田 「それを思い出してほしいというか、‟経済ってそういうものだったじゃない?”ってことを、この本では言いたかった」


―――なんか、今のお話を伺ってても、持ってる人が絶対分けない、俺のものは俺のものだって考え方は、私が子供のころよりも耳にする気がするんです。市場主義と似たようなノリで「自己責任」みたいな言葉も聞きますし。


池田 「自己責任。成果主義。そんなのおかしいですよね。その流れをドライブしてるのが、市場主義に基づいたグローバル化したマネーだと思うんです。すると、それに乗っかってる人がカッコいいってなるから、そういう考え方があからさまになってくる」


―――お金を持ってる人の発言っていうのは正しいみたいな風潮が一部でありますよね。成功者をもてはやしたり。


池田 「そういうのが好きな人はそれでいいんでしょうけども、社会の幸福ってそういうことだけじゃないんじゃない? ということを言いたかったの」


―――伝わりますかね、当事者に。


池田 「当事者には伝わらなくていいんです。その人たちをカッコ悪いと思うまなざしが生まれればいい。私はグローバリゼーションそのものは否定しないんですよ。それは趨勢だし。保護貿易よりは、もちろん少しずつであっても公正なルールの下で自由な貿易ができたほうが、貧困から抜け出る人も多くなるし、いいと思っている。けれども、今のグローバリゼーションを見ていると、貿易というよりお金と情報ばかりが自由になっていってるんです。どんなことにもマイナスの作用はありますが、その手当があまりにもなおざりにされてる」




経済の現状をシニカルに、時にはユーモアを交えて話す池田香代子さん。


―――ところで話は変わりますが、なんか最近の若い人の気持ちがわからなくて(笑)。草食化の一方で、勝ち組は偉いとか言ってみたり、自己責任論をふりかざしたり、排外的だったりする。感情や本音がむき出しというか。例えば弱者が傷つけられる事件が起きた時のネット記事につくコメントを見ると…。


池田 「見るんですか、そういうの!(笑) やっぱり仕事上?」


―――個人的興味です。それが大衆だとは思ってはいないんですけど、「犯人の気持ちがわかる」なんて意見が結構たくさんあってビックリするんです。百歩譲って一瞬そう思ったとしても、こういうところに書くか?って。


池田 「でも、そういうのは日本だけじゃないですよね。本音を言うのが道義的にどうかということ以上に、本音を言う人は素晴らしいって価値観が…」


―――…。


池田 「トランプねえ…」


―――同じ名前を思いました(笑)。そういう価値観がトランプ支持層にいったのかなって。


池田 「今年早々にオランダで選挙があるんですけど、プチトランプみたいのが出てきましたよね。フィリピンのドゥテルテもそうだし、フランスもそうでしょう」


―――世界的なムーブメントなんですね。


池田 「でもやっぱりそれじゃあよくないよね、っていう声もあるし、反動も、反省も生まれてくる。そんな積み重ねがここ20年ぐらいの国連や色んな国際NGOの動きなんですね。国連のミレニアム目標だって、2015年までに‟貧困層を半分に”と掲げていました。ネット寄付なんかも増えているし、映画『この世界の片隅に』みたいに…」


―――お金を一般から調達して、結構集まったんですよね。


池田 「以前から、特に映画はこういったファンドレイジングはあったんですけどね。あと最近は、とっても不純なんだけどふるさと納税とか」


―――不純ですか(笑)


池田 「だっておまけがすごいじゃない。それ目当てっていうか(笑)。でも、そういうので、色々と変わってはきてるんじゃないかな」


―――私たちも、考えなきゃいけないことが増えてるんですかね。


池田 「そうですね。トランプ的なものに付き合っていくために…まあ30、40年はそうなるでしょう…でもその世界の中で変えていく素地もすでに十分にあるので」


―――でもネットだと…また見ちゃうんですけど(笑)、「日本もトランプに続くべき」「トランプに学ぶべき」とかみんな書いてましたよ。


池田 「ああいう人がトップになると、ちょっとその傾向のある人が意を強くして言うっていうのはあるんですよね。でも面白い話があって、就任式の会場で売ってた赤いトランプの帽子、中国製だったとか。集まっていた支持者に激震が走った(笑)」


―――そういう詰めが甘いところがまた。


池田 「バイ・アメリカン、ハイヤー・アメリカンとか言ってるのに、外国製」


―――面白すぎる。




本書の中身をちょっとだけ。私たちが知っておくべきお金のことが、『100村』同様、子供でもわかりやすく書かれています。


―――繰り返しますが、『100人村』から早や15年。子供のころに読んだ人も成人している年月ですね。


池田 「本を作る仕事って怖いなと思ったのは、本は普通に店で売ってる商品なのに、人の人生を変えるんですよね。『100人村』を読んで、大学の進路決めたって人が結構いるんですよ」


担当S 「今回、この本のために協力くださった方もその一人でした。子供のころに読みましたって」


―――そうなんですか! 


池田 「ね、そうやって国際協力NGOや国連の機関でバリバリ働いてたりするわけです。人気のある国際協力NGOだと大卒ぐらいじゃ入れないんですよ。院卒でもまだだめ。アメリカ行って、専門のコースを終了して、ようやくスタートラインに立つ。それぐらいの教育投資ができる家から、ブリリアントな人達が志を持ってどんどん、そっちのほうに行ってる」


―――一冊の本がきっかけで。著者としてはドキドキしちゃいますね。


池田 「怖いよね(笑)。私は団塊の世代なんだけど、英語は会社に入ってから仕事で泣く泣く身につけるものでした。今の若い人たちは、既に片言の英会話ができるって層がすごく分厚い。それでいて私たちみたいに苦労してないのでいじけたところがない(笑)。そうすると、‟そうだ、国際協力だ!”ってどっかの国に行っても、片言は喋れるしオープンマインドだから、半年もすれば英会話は完璧。さらに現地の言葉を自分で現場で覚える。そういうのはもう私らは逆立ちしても勝てない」


―――希望がありますね。


池田 「うん。だからやっぱりね、お育ちがいいっていうか、豊かに育つというのはいいことですよ」


―――素直は利点ですよね。


池田 「ひところはゆとり世代とかゆとり教育とか揶揄してたけど、私はゆとり教育は評価します。それにくわえて、社会基盤が相対的に、団塊の世代より豊かになったっていうのが大きいと思います。だから、ブリリアントな才能を持って‟今度ホンジュラスに行くんです”って目をキラキラさせて言う若い人たちも出てきてる。私は今の日本をそんなに悲観したくないし、悲観したくないってことを自分で形にしないといけない、っていう思いもあってこれを出したんです。形にしておくって大切だと思うんですよ」


―――本という形にして、私みたいにちょっと頭が良くない人が読んでもわかりやすいように。


池田 「でも本当はね、パナマ文書とか出てくる前に出版したかった、出すべきだった本なんですけどね」


―――構想5年でしたもんね…ちょっと遅かったですね(笑)。


池田 「もう手も足もでなかったんですよ。担当編集のSさんの出現でようやくですよ。でも正直言って、この本の中身、100人村になってないですよね(笑)」


―――そうなんですよ。途中から、あれ? 分母が100になってないって(笑)。


池田 「しかも途中から長い文章になってる(笑)」


―――そのおかげで流れがあって読みやすくなってますね。


編集S 「100人村の換算にすると小さな数字になるんですが、‟お腹がすいて死にそうな人は9億人減って8億人“って言われると…」


―――実感がありますよね。だいぶ減ったんだ、でもまだそんなにいるんだって。


池田 「そういえば、井上ひさしさんがご存命のころ、よくしていただいたんですが、会うといつもくだらない話をしてたんですよ。ある日、所得税の最高税率を払ったのはいつか、って話になって」


―――面白そう。


池田 「井上さんは、『吉里吉里人』のときですって」


―――ああやっぱり。


池田 「70%も払ったそうで。私は『ソフィーの世界』の時に、50%強だったの」


―――それも結構すごいですけどね。


池田 「とはいえ、その10年間で20%も違う。もっとも、井上さんが言うには、松本清張さんは、400字詰め原稿用紙の最後2行分だけが松本さんのふところに入ったって(笑)」


―――笑


池田 「松本さんのころは90%とられてたのが、だんだん減ってきてるんだと。私は、井上さんの話は面白すぎるから‟またまた~”とか思ってたら、ピケティの『21世紀の資本論』を読んだら本当でしたね。戦後すぐは日本も、アングロサクソン系の所得税だったので」


―――経済的不平等はなかったとしても、当時のお金持ちの中には、不満をお持ちの人もいたでしょうね。


池田 「でしょうね。だけど、戦後の焼け野原だったから、ここで文句言ったらそれこそ袋叩きに遭うって(笑)、そういう感じで来たんだと思う」


―――『吉里吉里人』の「人」ぐらいしか手元に残らなくても(笑)。でも7割か…なんで!? って思っちゃうかな、私だったら。…9割だったら絶対思っちゃうだろうな…。


池田 「でもね、9割までいかなくても7割持ってかれちゃうと、大会社の社長でもそんなに年俸を多くするっていうインセンティブが働かないんですよ。ところが今は税率が低いでしょう。だから大企業はどんどん社長の給料を上げてる」


―――年収10億とかいう噂ですよね。


池田 「税率を昔みたいに戻せばいいのに、あんな首切りとかやって利益を上げたことになって、またCEOの給料が上がるなんて、ちょっとおかしいですよね」


―――しわ寄せは下のほうに来るんですね、どこの会社も。


池田 「おたくの会社は大丈夫?」


―――ひっ。大丈夫ですよ、たぶん(笑)




池田さん、とっても勉強になりました! 本もまた熟読します!


今週の推し本


世界がもし100人の村だったら お金篇 たった1人の大金持ちと50人の貧しい村人たち

池田 香代子 著 C.ダグラス・ラミス 訳

ページ数:100頁

ISBN:9784838729029

定価:1,080円 (税込)

発売:2017.01.30

ジャンル:文芸

[http://magazineworld.jp/books/paper/2902/]


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