なぜベイスターズが最下位争いでも、ハマスタは連日満員なのか?
2016年10月に任期満了で退任された、横浜DeNAベイスターズ初代社長の池田純さん。2011年に就任して以降、年間観客動員数はうなぎのぼりで、2015年には181万人を達成、売上は5年間で倍増し、赤字体質を改善させることができました。
興味深いのは、こうした驚異的な成長はベイスターズが「試合に勝つこと」で実現されたわけではないということです。
本来、プロ野球というスポーツは勝つことが最大のファンサービスであり、勝敗は来場したファンの満足度を大きく左右すると言われています。
にも関わらず、ずっと最下位争いをしていたベイスターズのホーム球場「ハマスタ」はなぜ連日満員で、年間稼働率約90%でチケットを取るのが困難な”プレミアムチケット”となったのでしょうか。
端的に言えば、池田さんのマーケティング戦略によって、勝敗にかかわらず、ハマスタに行って野球観戦をしたいと思う「空気」をつくることに成功したからです。
「今、ハマスタに行くとワクワクドキドキする何かに必ず出会えるはず!」
大袈裟な表現かもしれませんが、ファンとお客さまのこうした気持ちをつくり出すことが理想です。コントロール出来る領域は完全にコントロールし、勝敗や天気にすら左右されない”空気”をどれだけつくれるかが、スタジアムが連日連夜満員になる鍵なのです。
そこには球団経営だけではなく、あらゆるビジネスに活用できるマーケティングの本質に根ざした戦略がありました。
今回は、池田さん流のマーケティングの考え方について紹介します!
池田式・マーケティングの10プロセス
池田さん曰く、マーケティングは「生もの」で、業種や時代、環境や地域、国によってカタチを変えるものだとしつつも、「BtoCの商品ならば、ざっくりとしたセオリーとパターンに当てはめることができる」と言います。
それが次の10のプロセスです。
- アナログ、デジタル、さまざまなツールと手法を駆使して最適なデータと情報を収集する。
- 徹底した自社の組織分析と市場分析と顧客分析を行う
- すべての戦術構築において基軸となる「戦略ターゲット」を定める
- 戦略ターゲットが「実は求めていた」商品を創造する
- ストーリーを創造する(商品と顧客、自社と顧客がつながるコミュニケーションを創造する)
- 実質的な数字につながる、あるいはストーリーが伝わる広告・PRを創造する
- このご時世必須のWebを徹底活用する
- 商品を通して会社まで魅力的に見えるようなブランディング戦略を実行する
- PDCAを通して、さらに魅力的な商品とコミュニケーションを創造する
- 営業戦略にまで口を出す。責任を持つ
各項目の詳細については、本書の解説をご覧いただくとして、個人的にもっとも興味深く、重要だと感じたのが3〜5です。
すなわち戦略ターゲットを定めて、ターゲットが「実は求めていた」商品を創造して、商品と顧客、自社と顧客がつながるコミュニケーションを創造する、というプロセスです。
戦略ターゲットの見極め方とは?
「戦略ターゲット」とは、ビジネスをスケールさせるために戦略的にコミュニケーションを取っていくべき対象の集団を指します。
球団経営の場合、スタジアムにやってくる顧客層は老若男女さまざまで、熱狂的なファンもいれば、ライト層も家族連れもいます。
しかし、だからといってそのすべての層に訴えかけるような施策をとってしまうと、焦点がぼやけてしまい、進むべき方向性を明確に示すことができません。
一方で、「一年に何度も観戦に来るような野球好きな人」だけに限定してしまっても、ビジネスはスケールしません。
池田さんが球団経営を始める前のベイスターズでは、「野球に興味のない大多数の人々に対して、来場の動機になるようなモノゴトとコミュニケーションがまったくといっていいほど投げかけられていなかった」といいます。
戦略ターゲットを導き出すには、膨大な顧客データの分析を通して、広すぎず狭すない、適切な「線引き」をする必要があるのです。
そこで池田さんは、来場回数が年3回以下のライト層、年10回以上のヘビー層、その中間のミドル層に分類した上で、ライト層に注目。プロ野球ビジネス拡大余地はそこにあると考えました。
なぜならこの層は、プロ野球観戦が絶対的な娯楽というわけではなく、コンサートや映画鑑賞や居酒屋に飲みに行くといった、さまざまな選択肢を持っているからです。
その中の一つに野球観戦を入れてもらうことができれば、ファンや来場者の裾野を大きく広げることができます。
戦略ターゲットのネーミングセンス!
ライト層の中でも、特に来場者が伸びていたのが30〜40代の働き盛りの男性層です。
この層の方たちは野球観戦が主たる目的というわけではなく、「生の野球をつまみにビールと会話と雰囲気を楽しみに来ている」という顧客心理も見えてきたといいます。
そこで池田さんは、このように行動的で、毎日を丁寧に生きる30〜40代の男性層を「アクティブ・サラリーマン」と命名し、戦略ターゲットに策定しました。
戦略ターゲットをキャッチー(おもしろく、覚えやすい)かつ明確に策定することによって、マーケティングの対象と広告・コミュニケーションの対象が明確になり、一貫性が生まれます。
単なる「サラリーマン」と「アクティブ・サラリーマン」とでは、言葉のもつ意味や印象はもちろん、ターゲットとする範囲や、その後の打ち手もぜんぜん違うものになってきます。
こうしたネーミングにはセンスが必要ですが、戦略ターゲットを的確に言い当てるような名前がつけられれば、あとはターゲットに含まれる層の人々に対して、具体的施策とコミュニケーションを通してどれだけ”きっかけ”を作っていけるかが勝負となります。
数ある娯楽の選択肢の中で存在感を高め、優先的に選んでもらえる状況を作ることができれば、自ずと成功は見えてきます。
まとめ
「戦略ターゲットを策定する最大のメリットは、その方向性が全社的な指針になること」だと池田さんはいいます。
なぜなら、「アクティブ・サラリーマン」をターゲットとすることによって、普段から30〜40代の男性がどんなことに関心を抱き、横浜のどんなところで遊んでいて、どんなものが流行しているのかなどについて、社員一人ひとりが自然と興味を持って調べ、考えるようになっていくからです。
そうすると、リーダーがイチから細かな指示を出さなくても、社員それぞれが自分の担当する業務領域に必要なことを考えつくようになり、どんどん仕事を任せていける状態が生まれます。
プロ野球ビジネスの本質を見抜く目線の高さと、そこから的確かつ筋のよい打ち手を重ねていく池田さんのマーケティング論は、球団経営に限らず、すべての企業に活用できるノウハウが詰まっています。
マーケティングに関わる方は、ぜひ手にとって読んでみてください。
ライター:渡邊
カメラマン:こば犬
モデルプロフィール
・名前 :るぅ
・生年月日 :4.24
・出身 :千葉県
・職業 :COJIRASE THE TRIP
・Twitter :@ruu_cojitri
ご協力いただいたお店
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