2022年11月にChatGPTが発表されて以来、爆発的な注目を集めているテキスト生成AI。このAIは、自然言語処理技術を利用して、まるで人間かのようなテキストを生成する革新的な技術です。
この技術は、ビジネスの多くの場面で利用可能であり、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)の一環として、企業の未来を変える可能性を持っています。
特に、自社ビジネスを成長させたいと思いながらも様々なリソースが限られている中小企業にとっては、コスト削減と効率化を実現するカギとなってくれるはずであり、浮いたリソースを新たな価値創出に向けることができれば、中小企業であってもDXの時代で戦っていくことができるでしょう。
そこでこの記事では、日本国内でのテキスト生成AIの利用状況を紹介しながら、中小企業がどのようにしてテキスト生成AIを活用していけばよいのかを解説します。
合わせて、法的規制や倫理問題に関しても解説しますので、テキスト生成AIをビジネスに活用し、未来に向けて大きな挑戦を考える中小企業の経営者様は、どうぞご参考にしてください。
日本国内のテキスト生成AI事情
日本経済新聞の調査によれば、日本の主要企業の約7割が、テキスト生成AIを使用して労働時間を削減する計画を立てていることが明らかになっています。
また、AIスタートアップであるエクサウィザーズ社が2023年8月末に実施したアンケートでは、テキスト生成AIを業務で日常的に活用している利用者がすでに20%に達していました。これは、同年4月に実施した第1回アンケート時点での7%と比較し、13ポイントもの大幅な増加です。
このように、日本国内でもテキスト生成AIのビジネスへの活用は急速に進んでおり、様々な産業界のビジネスモデルに影響を与えているのです。
日本のAI産業の動向
日本語はひらがな、カタカナ、漢字と3つの文字を使う独自性に加えて、文法や表現も複雑であり、世界の中でも特殊な言語の1つです。
そのため、ChatGPTをはじめとする英語圏で開発されたテキスト生成AIでは、日本語の微妙なニュアンスを汲み取れない点などが長年課題になってきました。そのため、テキスト生成AIの日本での活用は他の先進諸国に比べると遅れていたのです。
こうした問題を解決するために、日本では「日本語に特化したテキスト生成AI」を目指して、大規模言語モデル(LLM)の研究と開発に力を入れています。
日経クロステックの発表によれば、2023年6月時点で運用段階にあるLLMを開発している主な企業は次の通りです。
- サイバーエージェント:2023年5月に130億パラメーターの自社向けのモデルを開発し、ネット広告事業で利用を開始。その後、最大68億パラメーターなど規模の異なるモデルを開発して、商用利用できるライセンスで無償公開中
- オルツ:2023年2月に「LHTM-2」を開発し、5月から既存事業や新サービスでの活用を開始
- rinna:2020年に日本マイクロソフトから独立した企業で、2021年より公開を行い、2023年5月より開発したLLMを商用利用できるライセンスで無償で公開をはじめる
- LINE(韓国NAVERとの共同開発チーム):2021年に日本語・韓国語に特化した「HyperCLOVA」の開発を行うことを公表し、2022年に完成。ただし、業務への利用は検討段階で、より性能を高めた次期モデルを開発中
これだけの企業がテキスト生成AIの開発に取り組んでいるということは、これからのビジネスにおいて、特に時間と費用を節約することができる技術として期待されていることの表れでしょう。
こうした流れの中で、経済産業省は大企業と比較してAI活用が大幅に遅れている中小企業に向けて、2つの資料を作成してAI活用を後押ししています。
- 中小企業向けAI導入ガイドブック:中小企業がAIを導入する際のノウハウをまとめた資料。需要予測と外観検査の方法なども解説している
- 中小企業と外部AI人材の協働事例集:中小企業が社外のAI人材と共同して課題解決を行った事例を取りまとめた資料。東京都、静岡県、大阪府、岡山県の中小企業6社と、社外のAI人材4~5人からなるチームが実際にオンラインで共同して行ったプロジェクトを掲載している
これらの資料からは、日本のAI産業がテキスト生成AIの採用に向けて積極的なステップを踏んでいることが伺えます。また、中小企業がテキスト生成AIの導入・活用によりビジネスの効率化とコスト削減を促進することの重要性も改めて認識できるでしょう。
経済産業省がこうした資料を作成して、日本の企業におけるテキスト生成AIの活用を広げようとしていることからもわかる通り、この技術をビジネスに有効活用することは、一企業の発展だけでなく、日本の産業界全体を底上げする重要なカギとなってくるのです(参考:経済産業省「中小企業のAI活用促進について」)。
中小企業におけるテキスト生成AI活用
テキスト生成AIへの注目が高まるとともに、大企業は積極的にビジネスに導入を進めており、その活用方法に関して様々な検討が行われてきました。
例えば金融機関においては、テキスト生成AIの活用により最大60~70%の作業工数およびコストの削減が可能であると試算されています。特に審査プロセスの効率化において、この技術は大きく貢献する可能性が指摘されており、本格的な導入に向けた取り組みが既に始まっています。
このように様々な場面での活躍が期待できる技術ですが、中小企業あるいは小規模事業者がテキスト生成AIを活用し、ビジネスを効率化していくためには、マーケティング、カスタマーサービス、コンテンツ制作などの分野が考えられるでしょう。
東京商工会議所が約1,100社に対して行った調査では、5.7%がテキスト生成AIを「活用している」と回答し、29.6%が「今後活用を検討している」と答えました。中でも、コンテンツ作成・校正での活用が最も多く、今後活用の幅を広げたいとの声も目立っています。
例えば、テキスト生成AIを利用して効率的にブログ記事やSNSの投稿を作成し、顧客エンゲージメントを向上させる手法などは、今後の拡大が期待される分野です。
法的規制と倫理的な課題
テキスト生成AIの活用が、今後も広がっていくことは間違いありません。
ただし、その利用に際して、企業は関連する法的リスクを最小限に抑えるための対策が必要です。万が一にも、法律や倫理的に問題のあることにならないように、法律と規制の枠内で運営しなければなりません。
そのためには、法律の専門家と連携し、法規制の変更や新しい法律に対応できる体制を整え、適切なコンプライアンス体制を構築することが重要です。
この章では、日本におけるテキスト生成AIに関する法的規制と、倫理的な課題を考える上で大切な、「著作権侵害」「知的財産権の保護」「データプライバシー」の3つについて解説します。
著作権侵害
2023年5月に開催されたG7広島サミットで、AIに関する利活用の推進や規制に向けた国際ルールを検討することが確認されたことを受けて、同月26日に内閣府のAI戦略会議が「AIに関する暫定的な論定整理」を公表しました。
しかし、テキスト生成AIに関連する法律や規制は、日本においてまだ確立されていない部分も多いのが実情です。現状では、AIの利用自体を直接規制する法律は存在していません。
現在のところテキスト生成AIに関する日本の法規制で、最も気にかけておく必要があるものは、2019年に改正された著作権法と言ってよいでしょう。
内閣府が発行する「知的財産推進計画2023:生成AIと著作権」では、文章(テキスト)や画像の生成AIの急速な進化・普及に伴って、著作権侵害が大量に発生していることが問題視されています。
AIによるコンテンツ制作の拡大によって、著作権を守ることが困難になる問題点を指摘し、AI技術の発展とクリエイターの権利保護の双方に留意しながら、様々な方策を検討しています。
知的財産権の保護
テキスト生成AIによって生成されたコンテンツの著作権や知的財産権の所在は、新たな法的課題を生じさせています。
例えば、AIが生成したテキストの著作権は誰に帰属するのか、AIが既存の著作物を参照または利用して新しいコンテンツを生成する際の著作権の扱いはどうなるのか、などの問題です。
これらの課題に対処するため、企業は知的財産権に関する法律や規制を理解し、適切なライセンス取得や契約締結を行う必要があります。
日本でも内閣官房知的財産戦略推進事務局が2016年に「AIによって生み出される創作物の取扱い」という資料を発表して以降、知的財産権の保護の観点から様々な検討を行ってきましたが、現状では正式な法規制などで線引することが難しく、生成AIを使う企業側のモラルに任せるしかないのが現状といって良いでしょう。
しかし、法規制が十分でないからと言って、倫理的に問題のある利用をしていれば、企業の社会的責任を問われる自体にもなりかないため、しっかりと対策することが重要です。
データプライバシー
テキスト生成AIは、大量のデータを利用して学習します。このデータの中には個人情報が含まれる可能性があり、その取り扱いはデータプライバシーの側面から考えても重要な課題です。
特に、個人情報の不適切な利用は、プライバシーの侵害となり、法律に違反する可能性が否めません。
万が一、企業が集めた個人情報データがテキスト生成AIを経由して流出してしまうような事態となれば、企業の社会的信頼は著しく低下し、ブランドイメージを大きく損なってしまうでしょう。
そのため、企業は、個人情報保護法(日本)やGDPR(EUの一般データ保護規則)などの法律や規制を遵守する必要があり、データの収集、利用、保管に関する明確なポリシーを設定し、従業員や利用者に対して適切な情報提供と同意取得を行わなければなりません。
中小企業におけるテキスト生成AIの利点とビジネスモデル
先にも述べた通り、中小企業のビジネスモデルにおいてテキスト生成AIを最も効果的に活用できるのは以下の3つです。
- コンテンツ制作
- マーケティング
- カスタマーサービス
そこでこの章では、このそれぞれの場面におけるテキスト生成AI活用について解説していきます。さらに、テキスト生成AI利用のもう1つの利点であるROI(投資対効果)の評価について解説します。
テキスト生成AIによって効率化できる3つの業務
コンテンツ制作、マーケティング、カスタマーサービス。この3つの業務プロセスの効率化は、中小企業のビジネスにとっても大きな効果が期待されています。
人手や時間、コストなどのリソースが限られている中小企業において、効率化とコスト削減は大きな魅力です。
コンテンツ制作
テキスト生成AIは、ブログ記事やニュースレター、SNS投稿などのコンテンツ制作をサポートしてくれます。高品質なコンテンツを迅速かつ効率的に提供するAIは、ビジネスのコンテンツ制作部門の負担を大幅に軽減してくれるでしょう。
テキスト生成AIによるコンテンツ制作を行うことで、人手が少なくともしっかりとした情報発信を行うことが可能になり、企業のブランディングと顧客とのエンゲージメントの強化にも寄与します。
マーケティング
テキスト生成AIは、ターゲットユーザーに合わせてよりパーソナライズされたメッセージ作成を助け、マーケティングの効果を向上させることも期待できます。
また、SEO向けのコンテンツ制作も支援し、様々なコンテンツを多様な視点から大量生産することができますので、WEBサイトのトラフィックを大きく増加させることが期待でき、ビジネス拡大のためのマーケティング戦略を強化します。
カスタマーサービス
デジタル時代を迎え、ますますユーザーの要望は多様化しています。優良なコンテンツを迅速に提供しながら、よりそれぞれのニーズを捉えてパーソナライズされたコミュニケーションを行うことができれば、ロイヤルティを向上させることに役立ちます。テキスト生成AIは、こうした場面においても活躍できる技術です。
また、テキスト生成AIを活用したチャットボットは、顧客からの問い合わせに24時間対応できるため、顧客の満足度を高めつつ、カスタマーサービスの効率化に貢献するでしょう。
こうした一連の施策により、ビジネスモデルのカスタマーサービス部門の負担を軽減しつつ、より顧客との関連性が深化し、顧客満足度の向上が期待できるのです。
ROI (投資対効果) の評価
テキスト生成AIによって業務効率化などを実現するためには、ある程度の初期投資が必要です。
無料で提供されているツールであっても、工夫次第では効率化に結び付くこともありますが、やはりビジネス全体にインパクトを与えるレベルにはならない場合がほとんどでしょう。
この費用が、中小企業がテキスト生成AIの導入に足踏みをしてしまう原因の1つとなっています。
しかし、テキスト生成AIの導入は、ビジネスモデルの様々な面で効率化を通じて、時間とともにROIを向上させることが期待できる技術です。
適切に活用すれば、作業効率の向上、コスト削減、マーケティング効果の向上などを通じて、ビジネスモデルを強化し、より競争力を持った企業に成長する足掛かりとなるでしょう。
また、テキスト生成AIは、新しいビジネスチャンスを生み出す可能性もあり、新しいマーケットへの進出や、新しいサービス・商品の開発を支援し、ビジネスモデルの拡張に貢献する可能性があります。
そのため、テキスト生成AIの採用は、ROIの評価として考えても有効な投資であると言うことができ、中小企業のビジネスモデルを革新し、将来的な成長と持続可能な競争力を実現するための重要なステップとなるのです。
まとめ~テキスト生成AIは中小企業のビジネスを変える
テキスト生成AIの技術進歩は、今後さらに加速していくことが予想されます。
企業がDXを推進し、より効率的な収益増加を実現してビジネスモデルの変革を目指す上で、テキスト生成AIの活用の重要性も高まっていくのです。
特に、リソースが限られている中小企業にとっては、大きなチャンスとなるでしょう。
- 業務の効率化
- コスト削減
- 顧客満足度の向上
こうした様々なメリットは、中小企業のビジネス成長と競争力強化に寄与してくれるのです。
戦略的にテキスト生成AIを活用することで、中小企業は持続可能なビジネスの発展を遂げることができるでしょう。
ただし、テキスト生成AIの採用による具体的な利益を確保するためには、実際の事例や統計データを参照して、活用方法を検討することが重要です。
テキスト生成AIの進歩は、中小企業のビジネスモデルに多大な影響を与え、新たなビジネスチャンスを創出する可能性を秘めています。
中小企業の経営者の皆様は、この技術の可能性を十分に理解し、適切な戦略を立て、業務の効率化からさらなる収益モデルの革新を目指してください。
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