先日から、ZeniMaxとOculusがOculus Riftに使われた技術を巡って権利を主張し、法廷で争っていることを伝えている。この問題は単にVRの技術にまつわるものであるだけでなく、OculusのCTOを務めるJohn Carmack個人とかつての雇用主ZeniMaxの争いにもなっている。
ここで原因となっているのは技術に対する権利やその盗難に関する主張であり、VRに特有のトラブルではない。しかし、現在・未来においてVR特有の法的な問題が起きる可能性は低くない。
ForbesにVRを巡って起きているか、あるいは今後起きる可能性がある法的なトラブルを考察する記事が掲載された。
知的財産権
VR関連の知的財産権を巡る争いは、頻繁に起きるだろうと予想される。前例として、ZeniMaxの訴えを認めて5億ドルもの賠償金を支払うことを命じる判決が出た。今後もVRで成功した企業に対して何かの技術で賠償金を得られるチャンスがあれば訴訟が起こされるだろう。
知的財産権には、以下のような内容が含まれている。
特許権
今までにない発明をすれば、特許権の申請が可能だ。著作権のように自動的に権利が発生するわけではないが、一度オリジナルの発明として特許を取得できれば一定の期間はその発明を独占することができる。日本やアメリカの法律では、特許の有効な期間は20年間となっている。
特許が取得できるかどうかには、新規性の有無(それまでにある技術の単なる応用ではないか?)がポイントとなってくる。そして、新規性があることを示すのは難しい。特にVRのような技術の発展が著しい分野においては、これまでに存在した製品や技術との差別化が困難だ。そのため、今後もVRの特許を巡っては多くの争いが起きると予想される。
ソフトウェアの特許権を巡っての裁判では、2014年に興味深い実例がある。最高裁判所が、先行特許の有効性を否定して特許権侵害の訴えを退けたのだ。その理由は、先行特許が抽象的なアイデアの実装であったためとされた。
VR関連の特許でも、アイデアだけでは特許として弱い。後発の側はこの裁判でなされたのと同様の主張をするだろう。
著作権
特許権とは異なり、文章や絵のような何らかの作品を作れば自動的に権利が発生するのが著作権だ。もちろんVRコンテンツもその対象となるが、著作権で保護されるものは何も芸術的作品に限らない。コンピュータのソースコードやハードウェアの図面も保護の対象だ。
米国著作権法では、自分の作品のコピーや使用を95年間(商業利用)または死後70年が経過するまで(個人利用)制限できる。著作権で作品を保護するために登録の必要はないが、実際に訴訟を起こすならば登録が必要となる。
特許とは異なる特徴として、後発の作品が独立して作成された場合には著作権法違反とはならない。偶然似てしまうことがあり得るからだ。たとえ全く同じものが出来上がったとしても、模倣したり影響されたりしたものでないならば権利問題は発生しない。
もしもコピーだと主張されれば、裁判所は作品が模倣なのか、偶然にも似ているのかを判断することになる。表現が異なるならば、先行作品のアイデアを利用することは認められている。
他の著作物と同様にVRソフトウェアのソースコードも著作権で保護されている。OculusとZeniMaxの例では、OculusのソフトウェアがZeniMaxの著作権を侵害しており、5,000万ドルを支払う義務があると判断された。
特許権に比べて曖昧な「独立した類似作品」という考え方があるため、判断の難しい争いが多くなりがちな分野だ。ただ、VRというジャンルに限って言えばそうでもないかもしれない。業界自体が狭いため、「大ヒット作を知らずに全く同じシステムを開発した」という主張が認められる可能性は低いからだ。
商標権
商標法は、商品名や特徴的な商品の形状といった「商品」あるいは「メーカー・ブランド」を消費者が判断する手がかりとなる情報(商標)を使用する権利を守る法律だ。これが無ければ、有名ブランドの商品と同じロゴの付いた偽物が市場に出回ることになる。コーラ味の飲料を販売する企業は多数あるが、「コカ・コーラ」を売っているのはコカ・コーラ社のみである。
OculusはZeniMaxの商標権も侵害していたという。ただし、どの商標を侵害していたのかは明らかになっていない。
契約
ZeniMax訴訟では、契約違反もその中に含まれている。書面に残されるか口頭で交わされた契約には拘束力があり、また行為によって暗示された契約内容も有効とされることがある。契約に「知的財産権を侵害しない」という内容が含まれていたなら、本来の損害賠償に加えて契約に基づく賠償が請求されるだろう。
ZeniMaxが2億ドルを獲得する判決を得られたのは、「他者に情報を開示しない」という契約内容への違反が認められたからだ。
この種の訴訟はVR業界で非常に頻繁に見られる。VRに限らず、技術が利益に繋がるIT分野では逃れられない問題だ。
今後の契約に関しては、微に入り細に入り内容を検討する必要がある。VRというジャンルが存在しなかった頃に結ばれた契約に基いてVRの権利が争われているので、今後も過去の契約内容によって訴えられることが考えられるからだ。
これは、「ビデオ・オン・デマンドで配信するコンテンツの権利は誰にあるか」という問題に似ている。ビデオ・オン・デマンドが存在しなかった頃に地上波放映やDVD化の権利を売買した契約によって、配信の権利が争われている。
盗難
様々な権利や契約を元にZeniMaxがOculusを訴えているが、一言で言ってしまえば「Oculusが自社のものを盗んだ」という主張だ。この裁判では、窃盗による賠償は認められなかった。
お金やヘッドセットのような「物」を盗む・奪う犯罪と異なり、権利の侵害は目に見えにくいのが原告と被告の双方にとって厄介な点だ。権利を盗んでいることを証明することも、盗んでいないと証明することも、同様に難しい。
もちろん、裁判に関わる陪審員にとっても厄介である。
その他の主張
細かく見ていけば、この記事で取り上げられている以外にも様々な主張があり得る。商売での縄張り争いや不正競争の主張は、「相手のやっていることが気に入らないが、その行為を何と呼べばいいのか分からない」ときに行われる。
自分にとって不利益になる、あまりクリーンでない方法に対処する方法が訴えを起こすことだ。自分が負けてしまうこともあり得るが、主張が認められれば商売敵の横暴を止められるかもしれない。
VRコンテンツ
VRコンテンツに関しても、VR製品や技術と同様の問題が起きる可能性がある。
著作権
VRコンテンツは、他の著作物と同様に著作権で保護されている。そのため、自分が権利を持たないVRコンテンツを複製して販売することはできない。
では、現実に存在するものをVR空間に複製することは許されるのだろうか?
著作権法にはフェア・ユースという考え方があり、利用目的が公正なものであればコピーが許される。ここでどういった利用が公正と判断されるかは裁判官や陪審員に委ねられているため、権利者の考えとは一致しないかもしれない。
ある都市の町並みを再現したVR作品に自分が建築した(あるいは所有する)ビルが登場しているからといって、デザイナーやオーナーがその権利を主張しても認められることはない。
VR企業ではなくユーザがVR空間に著作権を侵害するようなコンテンツをアップロードした場合、その責任はユーザにあって企業にはない。デジタルミレニアム著作権法によってVR企業は該当ユーザへの警告や著作権を侵害するコンテンツを削除する役割があるが、一方では守られることにもなる。
商標権
VRコンテンツに実在するブランドを登場させる場合は、その企業と契約するべきだ。ユーザはその企業が自らVRコンテンツを作成したか、スポンサーになっていると考えるかもしれない。
映画に車が登場していても、自動車メーカーがスポンサーになっているとは限らない。しかし、VRコンテンツで実在車種を運転する体験ができるならば公式のライセンスを受けていると考えられるのは自然なことだ。
特に有料コンテンツの場合、その製品やブランドを利用して利益を得ていると言える。この場合はライセンスを得てグッズを販売するのと同じことになる。
ユーザが商標権を侵害するコンテンツをアップロードした場合の対応やVR企業への保護については、デジタルミレニアム著作権法には規定されていない。VRにおける商標権の侵害については法律の整備が追いついていないため、難しい問題だ。
対応する法律が作られるまでは、VRでも一般的な商標権侵害の問題と同様に扱われるのではないかと思われる。
商標希釈
商標の希釈という耳慣れない言葉は、製品名やロゴが一般化してしまったり、持っているイメージが損なわれてしまったりすることを意味している。
商標希釈については商標権よりも著作権に性質が近く、消費者が製品やメーカーを誤解するかどうかは関係がない。そのため、特に悪意が無くても反商標希釈法に触れてしまうかもしれない。
VR企業を含む企業は、ティザー映像やウェブサイトの広告に有名ブランドのロゴや製品を含めないようにする方が安心だ。
パブリシティ権
パブリシティ権は、個人における財産権のようなものである。有名人の名前や外見、声といった要素が保護される。日本では成文法になっていないが、保護されている。
この権利については国や地域によって保護される内容や程度が大きく異なり、対応が難しい。ユーザによるアップロードについても対応する法律が存在しないため、VR会社側がユーザにやめさせるのが懸命な手段となるだろう。
ユーザからの訴え
VR企業がユーザから訴えられることも十分に考えられる。
ヘッドセットを付けているユーザには外の状況が見えないため、移動しているうちに転倒したり階段から落ちたりすることがあり得る。ARコンテンツでも、実際に周囲への注意がおろそかになったことで事故が起きた。
VRのリアルさゆえに恐怖で心臓発作を起こすことも、逆に不自然な動きで気分が悪くなることもある。
こういった理由で、VR関連のハードウェア・ソフトウェア企業が製造物責任を求めて訴えられることはほぼ間違いない。
プライバシーに関する訴えも多くなりそうだ。視線を追跡すればユーザの興味を細かく知ることができるため、ウェブのターゲティング広告以上に問題となるだろう。
こうした問題については、適切な利用規約の作成が必要となる。どのようなトラブルが起きるか分からないので、製品の使用で起こり得る危険への注意を促してユーザの責任で使用することに同意してもらうしかない。
サービスを利用していない第三者からの訴えに対しては、利用規約は役に立たない。ARアプリのユーザが他人の私有地に入り込まないように、運転中にアプリを起動することがないように、ソフトウェア側で可能な対策を施してマナー教育を行っていくしかなさそうだ。
違法・違反ユーザ
VR企業がユーザを訴えることもあるだろう。これは他の情報サービスと同様で、違法な、あるいは規約で禁止されている行為を行うユーザへの対策だ。
サーバ上のデータを盗んだり、壊したりといった犯罪に対しては損害賠償が請求される。また、VRコンテンツの不正利用を行うユーザに対しても同様だ。これは窃盗や業務妨害に当たる。
利用規約への違反であっても、悪質な場合には業務妨害と取られるかもしれない。
ユーザ同士のトラブル
VR空間で行われるユーザ同士のコミュニケーションは、一人用のVRコンテンツには無い楽しさをもたらしてくれる。人間対人間でなければありえない、毎回異なる展開はユーザを飽きさせないものだ。しかし、相手が人間だからこそトラブルになることもある。
現実で起きる犯罪は全て、VRで起きるかもしれない。オンラインゲームでも、仮想通貨やアイテムのやり取りが可能な作品では窃盗や詐欺が行われている。猥褻なユーザ名やチャットを使った嫌がらせも同様だ。
VR空間で行われる犯罪に対処する専用の法律は存在しないため、運営会社の対応が必要となる。相手を思いやる行動はもちろん重要だが、最初から人が嫌がることをしようとしているユーザを排除することも重要だ。政治・宗教といったトラブルになりやすい内容をコンテンツで扱う場合には特に注意しなければならないだろう。
最新技術の開発において、どうしても避けられないのは技術やコンテンツの権利を巡るトラブルだ。異なる開発者が似たアイデアを思いつくこともあるので、実際に判断が難しい状況もあり得る。
一方で、ユーザと企業やユーザ同士のトラブルは避けることができる。発展する技術に合わせ、快適なVR空間を作るための法整備や運営会社による対応が進むことが期待される。
ソーシャルVR、特に無料のものにおいては「コンテンツは良いのに、ユーザの質が良くない」状況が生まれている。こうした状況の改善は企業にとっても、一般のユーザにとってもメリットになるはずだ。
参照元サイト名:Forbes
URL:https://www.forbes.com/sites/schuylermoore/2017/03/10/the-legal-reality-of-virtual-reality/#5c44582f2049
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