2016年4月に発足された映像製作スタジオ「NOMA」。
様々な専門家約150名が参加する「NOMA」だが、リーダーは不在という。どうやって「NOMA」は作られどのようにして日々成り立っているのか、NOMAの安藤氏、恵水氏にお話を伺った。
「NOMA」は自然発生したコミュニティ
――よろしくお願いします。早速ですが、そもそもNOMAはどうやってスタートしたんですか?
恵水氏:発起人は現在映画を作っている監督で、SNSを介してVR映画を作りたい人が集まったという感じですね。
安藤氏:チームを作ろうとしたわけではなく、知り合いがVR映画をやろうって言っていたから自分も参加してみようかな?という感じで自然発生したイメージですね。
――ものづくりとなるとマネジメントが必要だと思うんですが、役割などはどうやって決めたんでしょう?
A:やっていくうちに自然に役割ができていったイメージですね。それぞれに得手不得手があるので、苦手な作業をしている人がいたらそれを得意な人がサポートしていくというか。
そういったことを繰り返していくと、誰が何が得意だというのをなんとなく把握していくので、なにかあればその人にお願いするという感じです。
――いつまでにこれを作らないといけないということもあると思いますが、そういったマイルストーンのようなものも自然にできていくものなのでしょうか?
安藤氏:決定的な答えを出した人がいなくて、なんとなく自然に決まっていきますね。
恵水氏:社会って、会社のように人間が作ったシステムが主だと思うんです。今まではそれで動いていたけど不自然さを感じていたんですよね。
僕らは自然発生したコミュニティで、リーダーは不在、情熱のある人間だけが集まっているのもあって、誰かが決めるわけではなく、全てが自然に決まっていくんです。
もちろんお金にはしていきますが、お金にすることが目的ではないんです。
働いているというより好きでやっているので、全てを注ぎ込める。だから出来上がっていくスピードも早いんだと思います。
安藤氏:映画祭なんかだとわかりやすいと思うんですが、期限が決まったら、それまでに動ける人が自然に動きだして、できることをやる。それに対して誰かが自然にサポートし始めるんです。
――やりたいことだから特に決めなくても問題ないということですね。制作するのにコストはかかると思うんですが、予算とかそういうのはどうなんですかね?
安藤氏:撮影でかかるのって時間と機材で、機材は自分たちで持ち出しという感じです。
――なるほど。作品が大ヒットしてすごい興行収入があがったとしたら、報酬はどうなるんでしょう?
恵水氏:みんなが作品の権利を持っていて、最終的には役割分担に応じてペイされます。
安藤氏:中心に動いているモチベーションはお金をメインで考えてないんです。ディレクターなら映画監督としてやりたいだったり、お金は二の次で自分たちが作りたいものを作る環境がほしいという人が多いですね。
そういうのもあってバランスとれているんだと思います。上の人がお金を欲しがったら、結局会社のようなピラミッドになってしまいますからね。
逆に、映画作りに対する欲はすごいですよ(笑)
――すごいですね!みなさん普段は別の収入があるんでしょうか?
安藤氏:NOMAがなくなったら食べていけないという人は少ないです。生活基盤があるからこそ、NOMAにできる限りの投資をしてやりたいことがやれているんだと思います。
むしろ、趣味にお金・時間をかけすぎという感じです。そこに対してリターンがあればラッキーというか。
――NOMAとして1番最初に集まったタイミングはいつなんでしょう?
恵水氏:最初に集まったのは今年の4月ですね。
安藤氏:そこから最初の撮影をしたのが5月なので、1ヶ月で撮り始めた感じですね。1本目は映画祭に出していて、その結果が決まるまでは公開できませんが、遅くても来年には公開できると思います。
安藤氏:一通り出し終わったら一般に公開します。最終的にはフリーでネット公開するのを目指しています。
――楽しみにしています。関わった人の名前をみると様々な人がいますよね。
恵水氏:大手事務所に所属しているアーティストの方もいたりしますね。
安藤氏:最初の数人はSNSを見て集まったんですが、それからは誰かの紹介で来てくれる人が多いですね。
――これだけ人が多いといろいろ揉めたりすると思うんですが、実際どうなんですか?
恵水氏:僕が仲介に入ってまとめてるんですが、揉めるというか、尖ってる人は多いです。最初はちょっと心配したりというのもあったんですが、みんな空気が読めるんですよね。
僕らはほぼクラウド上でしか会話をしていないんですが、それだけでもちゃんとコミュニケーションをとれていますよ。
安藤氏:もちろん意見がぶつかるときはありますが、なぁなぁで終わらせないので揉めるほどではないですね。また、基本的に”いい作品を作りたい”だったり”いい環境にしたい”と気持ちがあっての意見なので、優先順位や視点を違う角度から見れば解決したりすることがほとんどです。
反論もあるけど、これをよくするにはこうしたらいいよね。というような感じで、作品をよくしていくための話ばかりですね。
恵水氏:いろんなフェーズで問題ができるのはわかっていますし、新たな問題ができたときに、それを解決するということにも面白さがありますね
VR実写映画とVR映像・3D映画との違いは?
――そもそもなんでVR映画なんでしょう?
安藤氏:もともとゲームが好きな人、VRは時代だから乗っておいたほうがいいという人、AR/MRなど先を見据えてVRをやろうという人が大きく分けるといますね。
恵水氏:全体としての方向性は決まっていて、VRからARという流れがくるだろうというのは考えています。業界が新しくできあがろうとしているのを見越した上での動き方というか、業界の火種になれるようなポジション取りをしたいと考えています。
安藤氏:CGだとアニメ・ゲーム業界が大きすぎて、映画・映像をやっている人間がわざわざそこに飛び込む理由はないですよね。そういう点も、実写VRにこだわっているところです。
実写って、やってみたら想像以上にむずかしいんですよ。環境の整備も必要ですし。みんながやってこなかった理由がなんとなくわかってきたりもしますね。ただ、だからこそそこを通っておくと強さになるとも思います。
――VRって見てほしい部分を必ずしも見てもらえるわけではないと思うんですが、それはどう表現しているのでしょうか?
恵水氏:3D空間のなかに2Dの画面を表示させるオリジナルの技術があって、見てもらいたいポイントをピックアップして出すという感じですね。
また、音での誘導というのもあります。スペーシャルオーディオ(Spatial Audio)という独自の技術なんですが、360度の音環境で、向いた方向によって音の強弱が変わるというものです。
安藤氏:音っていうのは世界中をみても明確な答えが出ていなくて、難しんですよね。
とはいえ、いずれこの手法でも表現できなくなると思います。表現の限界が出てきたら、またそれに適した対策をしていく、この繰り返しですね。
そこも含めても作っていく面白さがあります。
恵水氏:映像って、枠の中で2Dのものをみることだという概念があると思うんですが、VRだとそれが変わりますよね。映像が世界そのものになっていくというか。
今はまだよくわからないという人が多いと思いますが、今後はそれが一般的になるかなと。それを実現するための手法がいろいろ出てくる中で、先駆けとなるためのものを模索しながら作り上げていっています。
VRは数年でブームがおわってARに移行していき、それが当たり前になっていくと思います。その時のために、AR映画の作り方を見据えて作品を作っていこうと考えています。
安藤氏:2D、VRそれぞれで演出方法、表現方法は違うし、ARになっても同じことが言えるでしょう。そんなときに、VRを一度経験してそのフェーズにいくのか、最初からARでいくのか過程が違えばできるものも違うと思うんです。
そういった意味でもノウハウは財産になるので、黎明期の段階で触れておくのは大事だなと感じますね。それに、まだ誰もやってないことのほうが楽しいですし。
――映画は映画館で観るものというイメージがありますが、VR映画というジャンルができたときに、一般の人がどう体験していくのかというイメージはありますか?
恵水氏:それは具体的にありますね。
映画館はVR空間内の映画館になるでしょう。VR空間の中にスクリーンがあって、配信はWebになると思います。それでみんなが自宅にいながらにして体験を共有していくんじゃないかなと思います。
――なるほど。VRそのものが広がっていくというそもそもの課題がありますし、コンテンツを体験すること自体にもハードルがある現状ですが、なりたっていくと考えますか?
恵水氏:現時点では一般のVRに対する認知がまだ少ないですよね。期待していたPSVRもまだやはり一般認知ではないと思いますし。なので、普及にはまだかかると思っています。
また、コンテンツにお金がかかるのはナンセンスだと思うので、僕らが目指すのはフリーです。コンテンツとは別の形で収益を出していきたいですね。
安藤氏:HMDは早い段階でなくなると思っています。なので、ARまでの通過点としてVRをどうやっていくかが課題です。
恵水氏:我々はVRに特化はしていますが、VRだけじゃない。先端コンテンツ、先端技術を扱っているんです。
今で言えば、NokiaのOZOを使える契約をしています。
安藤氏:現在撮っているのはGear 360ですが、これも日本の発売前に韓国で買って、帰国した足でそのまま撮影に行ったんですよ。それに、長時間使えるようにカスタマイズなんかもして。
単純に機械オタクな人もいるし、技術オタクな人もいます。そうするとどんどんいろんなものができていくんですよ。だけどそれをどこかに売ろうというわけではなく、自分たちが使うためだけにしかやってないというのも面白いですよね。
恵水氏:僕らに興味を持ってくれるのって、新しいものが好きで、とにかく時代を作っていきたいっていう思考の人が多いんです。
そういう人から見ると、NOMAは組みたいって思えるんじゃないでしょうか。
――そういう意味でも、人のつながりで始まったというのは強みな感じがしますね。
恵水氏:全員がNOMAを自分のこどものように思っていて、自分たちで育てたいと思っているんです。だからこそ楽しいんですよね。
――最後何か一言、世の中にメッセージがあればお願いします。
恵水氏:NOMAに集まってきた人の夢を全て叶えたいんです。
一人では世界を変えられないけど、仲間が増えたらそれは可能なんじゃないかなと思っています。実際にNOMAで出たアイディアはすべて叶っていますし。
――数年後、非常に楽しみです。本日はありがとうございました!
NOMAのコンテンツ制作環境に迫る
実際にNOMAのコンテンツ制作環境を見せてもらった。
360°カメラなどが並ぶデスク。
レーザーを用いたコンテンツ。
「すごいな…。」としか言えなかったが、本当にスゴい。
現在ドローンが主役の映画を撮影中ということで、実際にドローンを飛ばしているところを見せていただいた。
ドローン操縦のプロの技術はすごく、非常に安定していた。
そこに先程のレーザーも組み合わせる。
この状態からは全く想像がつかないが、作品の完成が非常に楽しみだ。
VR実写映画という新しいスタンスの作品を生み出し続けるNOMA。
一日も早い無償一般公開を目指しているということなので期待も高まる。これからの動向にも注目していきたい。
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