DeNAの子会社として2015年8月に立ちあがったSHOWROOM株式会社。
DeNAが2013年11月より提供のライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM」の運営を引き継ぎ事業の拡大、配信ルームはAKB48などの有名アイドルから一般のユーザまで数万。
サービスで特徴的なのはユーザが配信者に対してギフトを投げ入れ応援する「ギフティング」機能。
投げ入れるギフトには有料のものもあり、配信者はこれらを獲得することで一定のレベニューシェアを受け取ることができ、中には生計が立てられるほどの分配を得る配信者も存在する。
アーカイブ配信を行わない「リアルタイム性」を重視したスタイルがエンゲージメントの高さにつながっている。
そんなSHOWROOMに360°動画配信、2眼モードなどVRに対応した「SHOWROOM VR」について、今回は代表取締役の前田裕二氏とコンテンツ企画・監督の米山輝一氏、開発スタッフの小倉豪放氏に取材を行いました。
カジュアルVRとしてVRへの入り口をしっかりと作っていく
代表の前田氏はDeNA時代からSHOWROOMの総合プロデューサーとして事業を推進してきた人物。
━━まず、VRに対応した経緯を教えてください。
前田氏:SHOWROOMのライブ配信では視聴者もアバターを通してライブに参加でき、会場にその姿を可視化できます。
疑似体験ができるという意味でこれも一種のVRと捉えておりまして、360°動画や2眼への対応もその延長線上で自然な流れで入っていけました。
━━SHOWROOM VRのコンセプトを教えてください。
前田氏:SHOWROOM VRではVR最前線の機材やシステムを開発して提供するのではなく、「カジュアルVR」をコンセプトにVRへの入り口をしっかり作っていくことを目指しています。
まずはスマホアプリ経由で360°動画を堪能していただき、より没入感を得たい場合はCardBoardを購入していただき視聴、さらに快適に視聴を求める方にはヘッドマウントディスプレイで視聴、といった段階でVRへの深度を深めていけるようにしています。
また、VRにしたことで配信者を覗き見するような体験ができ、通常配信では映ることのなかったいわば隙がコンテンツになるのが特徴です。
さらに、コメントレーダーなどの機能を設けており、リアルタイムで盛り上がった場所を可視化できるのも面白い点です。
━━SHOWROOM VRの開発で苦労した点はどこでしょうか?
小倉氏:ライブ配信では360度カメラの映像をリアルタイム・スティッチングする(複数の魚眼レンズから得られる映像を「つなぎ目」のない映像に縫い合わせる)わけですが、魚眼レンズのスペック情報が公開されてないものもあり、調べながら調整してゆくところで少し苦労しました。
また、スマートフォンの対応機種に関しては、古い機種は動画のハードウェア・デコーダーが高解像度に対応していないため、iPhoneは5s以降、Androidも足切りラインは高くしています。
プロトタイプ開発に関しては比較的スムーズに進み、実は2015年の夏前からできていました。むしろ、そこからコンテンツを企画・準備するのに時間がかかっています。
━━なるほどですね。SHOWROOM VRの番組に一番こだわったということですね。
前田氏:そうですね。コンテンツがユーザを連れてきてくれると考えていますので、配信する番組やサービスの設計に関しては力を入れています。
━━メインの視聴者は何歳くらいでしょうか?
前田氏:俗に言うM2層(35~49歳)の男性がメインです。
━━前回、SHOWROOM VRの生放送に立ちあわせていただきましたが、ギフティングを特定の配信者に投げ入れることができて楽しかったです。
米山氏:そうですね。VR配信では通常配信にはない投げたギフトが飛んでいって砕ける演出があります。
こちらは何度も調整して最適な大きさを模索しました。演出やUIに関しれはこれからも進化していく予定です。
SHOWROOM VRがギフティングへの欲求を上げる
━━VR配信でマネタイズの部分はどう変化しますか?
前田氏:まず、SHOWROOMでは「ストーリーを作ること」に注力しています。
ギフトによるランキングやイベントを取り入れ、頑張った人が頑張ったぶんだけ上位にいけるシステムなっており、そこにストーリーが生まれます。
視聴者が配信者を応援(=ギフティング)したくなるのも、何もないところから頑張ってランキングを上位に駆けあがっていくからです。
VRに対応することで、ギフティングはより活発になり、特にユニット単位で配信をする場合に効果が出ると考えております。
ギフティングをするユーザは「ひいきのメンバーに対してギフトをあげたい」という欲求が強いです。
これまで通常配信ですとギフトは「ユニットに対して」だったので、どのメンバーに対してのギフトなのか分からなかったのですが、SHOWROOM VRでは大勢配信でも誰に対しての応援なのかが可視化できることでギフティングの頻度も増すと思います。
━━SHOWROOMでは内製の番組もあると思いますが、そちらはどのくらい手掛けていらっしゃいますか?
米山氏:週40番組です。
平日5日、自社にある2スタジオとサテライトスタジオで夜18~23時の枠で配信しています。
━━現在SHOWROOM VR実装されている機能で、今後進化する予定のものはありますでしょうか?
小倉氏:レーダーに関しては今後、コメント以外にギフトなども可視化できるようにしようかとも考えています。
さらに現在のレーダーは平面ですが、もっと立体的に可視化させるのも面白いのではないかと思っています。
カメラに関しては、一般的に使われているEquirectangularも対応しておりますが、基本的にカメラの機種の差はSHOWROOMアプリケーションで吸収し、配信に使う機材やソフトウェアを極力少なくする方針にしています。
これは一般ユーザーが自分の360度カメラで配信するようになる際に効いてきます。究極は魚眼レンズとスマートフォンだけにしたい。一方で、スタジオのカメラはもっとリッチにしていくつもりです。
━━定点での配信ではなく、動きながらの配信なども考えていますでしょうか?
米山氏:通信環境の制約上、難しいとは思っていますがトライはしてみたい分野ではあります。
━━現状VR配信はアイドルチャンネルなどでスタジオ収録で行っていますが、一般の配信ユーザにもVR配信は可能になりますでしょうか?
米山氏:実は今でも配信しようと思えば可能です。
現状はTHETA SをHDMIケーブル経由でPCに接続して配信しているだけですので、THETA Sをお持ちでしたら簡単にできると想います。
━━VR配信で行う番組ですが、今後どのようなものをお考えでしょうか?
米山氏:現在はアイドル番組中心ですが、今後はお笑い、スポーツなど多様な番組展開を企画中です。
ほかVRを使った生演奏・トーク番組、ライブ中継など音楽系コンテンツや通販番組、討論番組などからライフイベントなども手掛けたいと思っています。
どこまで実現するか分かりませんが、VRを使ったさまざまな検証をしていきたいと思っています。
━━ありがとうございました。
取材を終えてみて
今回、取材をしてみて、SHOWROOM VRは視聴者が配信者に向けて行うギフティングへの欲求をさらに満たせるようにするツールとして導入されているんだなと感じた。
SHOWROOMで大事にしてきた「配信者にストーリーを作る」スタイルはそのままにVRを使ってギフト機能性アップとマネタイズの強化を上手く両立させている。
平面での配信に慣れたユーザにも考慮し、段階的にVR配信に入っていける優しいサービスに感じました。
アバターを介してライブに参加する疑似体験からさらに一歩踏み込んだ「その場でライブを見ている」疑似体験に進化したSHOWROOM VR。
現在はVR対応のコンテンツは5番組。今後、本数・企画内容ともに多様に広がっていくSHOWROOM VRに目が離せない。
個人的にもライブ配信には興味があるので、SHOWROOMでのVR配信には近くトライしたいと思います。
Copyright ©2016 VR Inside All Rights Reserved.