視線追跡技術の研究開発を行う株式会社FOVEと国立大学法人筑波大学が、新開発の視線追跡型VRヘッドセットを活用した認知機能検査技術に関して、健常とMCI(軽度認知障害)の鑑別、MCIと認知症の鑑別精度を臨床試験により検討したことを発表しています。
その結果、本技術の認知機能検査ツールとしての有用性が示唆されており、本研究成果は「日本老年医学会雑誌(2023年60巻1号)」にて掲載されています。
FOVEと筑波大が共同研究を実施
高度な画像処理による「視線追跡技術」の研究開発を行うFOVE社と筑波大学が今回、新たに開発された視線追跡型VRヘッドセットを用い、認知機能検査技術に関する共同研究を行っています。
この研究は、両者の間で結ばれた共同研究契約に基づいて実施されており、ここで行われた認知機能検査は、高精度な視線追跡技術を用いてVR内で提示される認知課題に対する利用者の視線の動きを正確に捉えるものになっています。
これらの技術が実用化されれば、今後はより簡便に認知機能の状態評価が行える検査ツールとして、医療機関等で広く活用されることが期待されているということです。
研究の背景・目的
超高齢化社会が進む日本において、認知症患者数は2025年に730万人に達すると予測されており、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)も含めると今後も著しい増加が見込まれています。
認知症予防においてはMCI段階での早期発見の重要性が指摘されているものの、現在用いられている方法ではMCI段階を評価するには十分ではないと指摘されており、簡便に実施可能な新しい認知機能評価法の開発が望まれているという現状があります。
眼球に関する様々な情報をバイオマーカーとして精緻に捉えることで、アルツハイマー型認知症や軽度認知障害を鑑別できる可能性については既に数多くの研究がなされており、脳機能と眼球情報の関連性は広く認知されています。
そうした中、本研究ではVRヘッドセットと高精度な視線追跡技術を活用した新たな認知機能検査技術(VR-E)を開発し、MCIや認知症を鑑別する精度を検証すべく、臨床試験により従来の認知機能スクリーニング検査結果との比較を行っています。
簡便で有用な検査ツールであることが判明
本研究では、認知症疾患医療センターに指定されている病院の外来患者やその家族、病院職員・関係者を含む77名を対象に行われ、従来の認知機能検査である「MMSE」と「MoCA-J」に加えてVR-Eを実施し、各々の測定結果の比較分析が行われました。
VR-Eで測定する認知領域は、
・記憶
・判断
・空間認識
・計算
・言語機能
で、計15問の認知課題から構成されています。
これらの分析の結果、
VR-Eにより算出される評価結果について、MMSE得点とVR-E得点のPearsonの相関係数は0.704(p<0.001)、MoCA-J得点とVR-E得点の相関係数は0.718(p<0.001)といずれも高い相関を示した。
VR-EのROC分析において、CDR 0と0.5を判別するAUC値は0.70±0.15、CDR0.5と1-3を判別するAUC値は0.90±0.13を示し、MMSEとMoCA-Jのそれと同様に高い値を示した。
という2点が明らかになっており、本認知機能検査技術は軽度認知障害の判別能が良好であり、簡便で有用な検査ツールであることが示唆されるという結果になっています。
今後も研究の継続・改良へ
今回の研究を行った両者によると、今後は多施設でより多くの被験者に対して試験を実施することで、本検査手法の有用性を明らかにしていくとしており、また本検査から得られる眼球に関する様々なバイオマーカーを活用することで、脳や眼に関する他疾患の状態評価や、生活習慣データとの連携による認知機能の維持・改善方法の研究も進めていくということです。
<掲載論文>
論文タイトル:『バーチャル・リアリティデバイスを利用した認知機能検査の有用性の検討』発行日:2023年1月25日
掲載誌:日本老年医学会雑誌(2023年60巻1号)
著者:水上 勝義(筑波大学)、田口 真源(静風会 大垣病院)、纐纈 多加志(静風会 大垣病院)、佐藤 直毅(報恩会石崎病院)、田中 芳郎(報恩会石崎病院)、岩切 雅彦(報恩会石崎病院)、仁科 陽一郎(FOVE)、Iakov Chernyak(FOVE)、唐木 信太郎(FOVE)
まとめ
株式会社FOVEと筑波大学が今回、認知機能検査に関する共同研究を実施し、論文にして発表しています。
それによると、VR×視線追跡による認知機能検査技術の有用性が確認されています。
実用化されれば、全国の医療機関で注目の技術になりそうですね。
ソース:プレスリリース[@Press]
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