スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、触覚フィードバックを提供する新型の人工皮膚を開発したことを発表しました。
「SPAスキン」と呼ばれるこの人工皮膚は、ユーザーの体に装着することによってこれまでの触覚フィードバック技術よりも瞬時に、リアルな触覚を再現することができるものです。
医療リハビリテーションやバーチャルリアリティなどのアプリケーションを大きく強化する技術として注目されています。
「SPAスキン」とは?
セルフセンシングソフト空気圧アクチュエータ(SPA)スキンは、厚さわずか500ナノメートルの伸縮性材料で構成されており、ユーザーの体に合わせて形成することができます。
これまでの触覚フィードバック技術は主に機械的振動技術に依存して衝撃感を再現するものでしたが、今回の人工皮膚はユーザーの手首の正確な形状に適合し、圧力と振動の形で触覚フィードバックを提供することができます。
新型触覚フィードバック技術の仕組み
人工皮膚には、空気を送り込むことで膨張させることができる膜層を形成する柔らかい空気圧アクチュエータが含まれています。
*アクチュエータ:電気などのエネルギーを物理的運動に変換して、機器を動かす装置
アクチュエータはさまざまな圧力と周波数(最大100 Hz、または1秒あたり100インパルス)に合わせて調整でき、膜層を急速に膨張および収縮させることで皮膚が振動し、触覚を再現するという仕組みです。
さらに、膜層にあるセンサーによって皮膚の変形を連続的に測定し、データのフィードバックを元にユーザーの動きや外的要因の変化に応じてユーザーが感じる触覚をさらにリアルなものに微調整します。
研究チームの中心人物Harshal Sonar氏によると、
センサーとアクチュエータの両方が統合された完全に柔らかい人工皮膚が開発されたことにより、ユーザーが感じる振動刺激を正確かつ確実に調整できるようになったため、
医療アプリケーションでの患者の固有受容のテストなど、ウェアラブルアプリケーションに最適なシステムということができるとのことです。
VRでの活用も期待される「SPAスキン」
現状、SPAスキンの活用が主に想定されているのは、やけどや外傷のリハビリなどの医療分野です。
加えて、Harshal Sonar氏は「SPAスキン」の展望について、
「リハビリテーションおよび仮想現実と拡張現実のアプリケーション向けに完全にウェアラブルな試作品の開発を進めていきます。」
としています。
VR空間での皮膚体験をそのまま現実に反映することによって、さらなる没入体験ができることが期待されるところです。
そのために、Harshal Sonar氏は、さらにリアルな刺激の再現を目指して今後はSPAスキンの開発・検証作業に神経科学の専門家も加わることを示唆しています。
まとめ
これまでも触覚体験をすることができるVR用デバイスは開発されてきましたが、いずれもファミコンのパワーグローブのような大掛かりな機械でした。
今回、人工皮膚として触覚を再現できるものが開発されたことによって、触覚提示デバイスの軽量化・ウェアラブル化が進みそうです。
触覚デバイスとしてVRの世界に登場するまでにどれくらいのステップがあるのかはわかりませんが、実現すれば全く新しいVR体験ができるのは間違いありません。
例えば、薄く伸縮性があるものなので体全体を覆うボディースーツ状のデバイスとして応用すれば、「レディー・プレイヤー1」のように生々しいVR世界を全身で体験することが可能になるのではないでしょうか。
いずれにせよ今後のSPAスキンの展開に注目していきたいところです。
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参考:Scientists Develop Artificial Skin That Allows You To Feel In VR[VR Scout]
参考:Artificial skin could help rehabilitation and enhance virtual reality[EPFL公式サイト]
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情報提供元:VR Inside
記事名:「VR内で現実の触覚を再現できる新型の人工皮膚を開発」