VRを用いて、まるで遠隔地に実際にいるかのように感じ、動くことができる技術を「テレイグジスタンス(遠隔臨場感、遠隔存在感)」といいます。
多くの場合、遠隔地にいるロボットやロボットアームをVR空間から操作することを指しますが、操作者の動きに応じてロボットが動くので、まるで自分が身体ごと別の場所にいるロボットに憑依したかのような感覚になります。
テレイグジスタンスは現在も研究が進められており、慶応義塾大学では「Fusion」という名のロボットアームの開発が進められています。
実用化すれば医療をはじめ、様々な分野での活用ができるといいます。
VR空間からロボットアームを操作する「Fusion」とは?
慶応大学にて開発が行われている「Fusion」は大きく2つのパートに分かれており、ロボットアームを装着したバックパックと、ロボットアームを操作するためのVRシステムを、それぞれ別の人間が使用します。
VRシステムにはOculus Riftを使用しますが、VR内の視界はバックパックに装着したカメラとリンクしているので、VR装着者の首の動きがそのままカメラの動きに反映されます。
首を動かして視界を自由に把握することができます。
また、コントローラーはロボットアームに接続されており、VR装着者が腕を動かすとロボットアームも一緒に動きます。また、ボタン操作でロボットアームの指を動かして、モノを掴むなどの動作が可能です。
VRとロボットアームで2人で1つの身体を共有する
ロボットアームを装着したバックパックには2つのカメラが搭載されているので、バックパックを背負っている人とほとんど同じ視界をVR装着者が共有することができます。
カメラはVRと接続されているため、VR装着者はVR空間の中で視点を自由に動かせます。
一方で、身体の向きや歩く方向などはバックパックを背負った人が行うため、まるで1つの身体を2人で共有しているかのような状態になります。
最初は何とも奇妙な感覚になりそうですが、二人一組での作業がしやすくなるので、手術時のサポートなどにも応用できそうです。また、VR装着者は遠隔地にいても問題がないので、たとえば専門家がVRデバイスを被って遠隔地にいる人に指示を出す際にも使用できます。
直接現地に赴く必要がないので、移動に時間もかからず、移動コストの削減にもなります。
医療現場や宇宙空間で役立つ技術
「Fusion」は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科にて特任講師を務めるヤメン・サライジ氏の主導によって開発が進められています。
ヤメン・サライジ氏は「Fusion」開発を通して、人が機械を自分の身体の一部のように扱って、能力を増強する研究を進めています。
「Fusion」はまだ開発段階の技術ですが、実用化されれば様々な分野での活用ができるといいます。
たとえば宇宙空間で宇宙飛行士の補助をしたり、医療現場に不慣れな補助員の手助け、などといった用途に活用できるとのこと。
ロボットアームとVRを通して、まるで遠隔地に実際にいるかのように動くことができるので、上記に挙げた分野の他にも様々な用途で活用できそうです。
VR装着者の動きを正確に反映
ロボットアームには合計で7つの関節部分があるため、VR装着者の腕の動きをしっかりと再現します。また、コントローラーのボタン操作でアームの指を動かすことも可能です。
アームには人間と同じ5本指があり、親指と人差し指をそれぞれ単独で操作できるとのことです。また、小指、薬指、中指を同時にコントロール可能で、これらの操作はOculus Touchのボタン操作で行います。
「Fusion」を紹介したMIT Technology Reviewでは、記者が実際に実機デモ体験をする様子が登場しますが、ロボットアームでおもちゃを掴んで人に渡したり、ロボットの指で操作者の肩を軽く叩いたりなど、細かい動作にも対応できるようです。
実用化に向けて開発進む
とはいえ、「Fusion」の実用化には更なる開発が必要です。
「Fusion」はバッテリー駆動によって動作しますが、バッテリーの持続時間が約1時間半と短く、またロボットアームを搭載したバックパックの重量は9.5キロと重たく、長時間の装着は困難です。
「Fusion」の開発を主導するヤメン・サライジ氏は、現段階ではあくまでプロトタイプであり、これから実用化に向けて更なる開発、改善を進めていくとのことです。
同氏はプロジェクトの成果を製品化するために、共同研究者たちと一緒に、東京に拠点を置くスタートアップ支援企業に対してアイデアを披露する準備を行っているとのことです。
まとめ
「2人で1つの身体を共有する」-まるで魔法のように聞こえますが、VRとロボットアームによって実現した新技術の一つですね。
リアルの身体を動かさなくても、遠隔地にいるロボットやロボットアームに「憑依」できるので、移動する必要から解放されます。
このテレイグジスタンス技術は様々な分野での活用が見込まれており、この技術を取り入れることによってこれまでの働き方やワークスタイルが大きく変わる可能性も秘めています。
現在登場しているテレイグジスタンス技術の多くは開発段階ですが、医療現場や災害救助、トレーニングなど、ロボットとVRを活用できる分野は数多く存在します。今後の発展に期待したいですね。
参考サイト:VRFocus
VRは人間の記憶力を向上させるー米国の大学による調査によって明らかに
2018-06-24
VRInside
洪水の危険性をARで疑似体験!ARを活用した「バーチャル避難訓練」アプリがネット上で話題に!
2018-07-19
VRInside
Copyright ©2018 VR Inside All Rights Reserved.