実験的なデザイン開発を手がけるデザイナーFrank Kolkman氏は、VRを活用して臨死体験をシミュレーションできるデバイス「Outrospectre」を制作した。
デバイスが発表されたのは、アメリカのマイアミで開催された「Dutch Design Week」。
体験者はデバイスを通じて、現代の先端情報テクノロジーが人間の抱える「死への恐怖」といった精神的問題に対して、どのように取り組めるのか、その可能性の一端を伺い知ることができたようだ。
Outrospectreの概要紹介!
Outrospectreの体験者は、ロボットの頭部模型の前に背を向けて立つ。このロボットの両目には3Dカメラが埋め込まれており、カメラが映したライブストリーミング映像をユーザーの装着しているVRヘッドセットに送信する仕組みとなっている。
つまり、VR空間におけるユーザーの視界には、自分の背面が映し出されているというわけだ。ユーザーの首の動きに合わせて頭部も回って動くようになっており、自分自身だけでなく、周囲の環境も観察可能だ。
さらにカメラだけでなく、ロボット頭部の耳には小型マイクが搭載されているので、周囲の音声も拾うことができる。
幽体離脱をシミュレート!
Kolkman氏によれば、これらの仕組みは全て、体験者に幽体離脱をシミュレーションさせるためのものだという。
「私たちの脳は、わずかな時間差と音質の差異を利用して、音の発生した方向と距離を検出し、音の発生源に対して自分がどこにいるかを特定します。」
「同様のことが、動画のフィードバックでも生じます。耳を体から離し、異なる場所に置いてしまえば、あなたの位置感覚と現在地の場所の感覚はハッキングされてしまうのです。」
この言葉の通り、Outrospectreでは自分の現在位置と異なる視覚情報と聴覚情報を一度に体験者に提供する。これによって、現実空間で自分が存在する場所に、まるで自分が位置しておらず、広報に存在するかのように認識してしまいやすくなる、というわけだ。
心臓の鼓動も再現
さらに、Outrospectreには「心音」も再現する装置が加わっている。
体験者の胸元には薄い透明な板があてがわれ、その上を小型のハンマーが繰り返し叩く。これによって心臓の鼓動を演出することで、VR体験を現実に生じている現象であるかのように受け取る効果が期待できる、とのことだ。
メンタルヘルスケアに貢献する可能性?
Outrospectreのように臨死状態を体験できるデバイスというのは、たしかに興味を引かれるものがある。
しかし、単に実験的な取り組みである以上に、実用的な面での意味も持っている。たとえば、余命わずかでありつつも、死への恐れを自分の中で上手く消化出来ていない人にOutrospectreを体験させれば、リアルな臨死体験によるセラピ-をおこなうことができる。つまり、メンタルヘルスケアに役立てることが可能なのだ。
もちろんOutrospectreを導入することにより、ほかの一切のメンタルヘルスケアが不要なものになるというわけではない。ただ、Outrospectreの手法を応用することで、新しい補助ツールを開発し、活用できる可能性もあるのではないだろうか。
メンタルヘルスケアに貢献するVRコンテンツを紹介!
Outrospectreは臨死体験によって、死への恐怖感を緩和するよう働きかけるデバイスだったが、このほかにもメンタルヘルスケアに役立つイマーシブコンテンツは多数存在する。
効果の程は必ずしも保証できないが、少なくとも、その試みの先進性自体は評価できるはずだ。
以下ではその一部を紹介していこう。
高所恐怖症対策に役立つ無料アプリ「VR Heights Phobia」
「VR Heights Phobia」はAndroid用の無料アプリで、高所恐怖症を緩和する目的で制作されたものだ。
ユーザーはVR空間内で、空高くに浮かんだ足場の上を渡っていくシミュレーションを体験する。足場は完全に浮遊しており、足場から別の足場へとジャンプして移り進んでいく必要がある。
トレイラーを見る限り、それほどゲーム性の高いアプリではないようだ。ゲームの難易度はやさしいものからクリアが困難なものまで、3段階のレベルが存在する。
Limbixの提供する暴露療法型VRセラピー
カリフォルニア州のLimbixは、心理療法用のVRコンテンツを開発している。その中では、患者が恐怖を覚えている対象やイベントを、あえて積極的に眼前に提示することによって慣れさせるという手法を採用している。
こうした手法は、現実空間では再現困難なシチュエーションであっても容易にシミュレーション可能なVRと相性が良いといえるだろう。
また、LimbixのVRコンテンツは、治療効果を高めるためリアリティを追求している。たとえば「スピーチ恐怖症」の緩和には合成されたCGモデルではなく、きちんと人間の役者を用意し、その人に向けて喋るように促すのだ。
参考URL:
Frank Kolkman, dezeen, VRROOM
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