ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイが発表した採寸用ボディースーツ「ZOZO SUITS」は、ファッションとIOTの活用事例としてのみならず、無料で配布するという点においてもインパクトあるニュースだった。
ビジネスが斜陽に差し掛かっているという業界は多いが、そんな中にあっても従来型のビジネスモデルに拘らず、最新技術を活用した企業が注目を集める…そんなケースが最近増えている。
株式会社スタートトゥデイが身を置くファッション業界もまた、斜陽産業といっていい業界だ。実際に、ファッションをメイン商材としてきた百貨店は青息吐息の状況。
しかし、百貨店も決して、何もしてないわけではない。ECの強化、VR/ARの活用など様々な手法を駆使して生き残らんと必死だ。この記事では、百貨店におけるVR/AR活用事例を紹介したい。
実店舗とECの連携強化!「タカシマヤファッションスクエア」
まず、そもそも百貨店が斜陽となっている原因について触れたい。その理由は何かといえば、高価格帯のファッション、おしゃれ着などが売れなくなってきたためだ。これは、ファッション市場を支えていた女性達が、おしゃれ着を買わなくなってきたことによる。
不景気の影響で働く女性が増えたため、結果的に仕事着や普段着を優先的に購入する女性の割合が増加。ユニクロやしまむらといった低価格帯のファッションを購入する人の数は増え、百貨店などでおしゃれ着を購入する人が減った形といえる。
また、働く時間を増やすことで可処分時間も減少するため、ゆっくりとショッピングを楽しむ…という人も減少。代わりに、「ZOZOTOWN」などのECで手早く購入する…という人が増えている。
こうした状況に対して、百貨店である高島屋のとった施策が、実店舗とECの連携力を強化すること。ファッションECサイト「タカシマヤファッションスクエア」のオープンだ。
「タカシマヤファッションスクエア」は高島屋グループのファッションECサイト「セレクトスクエア」をリニューアルしたECサイト。スマートフォンでも見やすいデザインへと変更した上で、ブランド数を増やし、商品ラインナップが強化されている。
また、リニューアルを機に実店舗とECサイトでのポイントが統合された上で、ポイント還元率が8%に拡大。ECによるオンライン購入が前提のユーザーを取り込みつつ、ポイント還元率アップによるお得さもアピールしようという戦略が伺える施策だ。
【関連サイト】
タカシマヤファッションスクエア
VRを積極的に導入して模索を続ける三越伊勢丹
VRの導入に積極的なのが、三越伊勢丹だ。日本の良さを国内外に発信する「JAPAN SENSES(ジャパン センスィズ)」において、「Dentsu VR Plus(電通VRプラス)」と共同でUNESCO 世界遺産である「屋久島」を体験可能なVRコーナーを設置。
また、ポップアップストアでのVR活用となるが、ランウェイショーの疑似体験が可能なVRを用意した「ビズビム(VISVIM)」、2037年の東京の街をテーマにしてVR体験を加味した「2037年トーキョーcollection -TOKYO解放区×PARCO-」など、VRを取り入れたポップアップストアも開店している。
ポップアップストアでのVR活用も含めて、三越伊勢丹の戦略は「店舗での体験を豊かにする」という方向性が見て取れる。百貨店の最大の武器は好立地に構えた実店舗なので、百貨店らしさを持ったまま勝負する上では正しい戦略と言えるだろう。
【関連サイト】
三越伊勢丹
「YouCamメイク」を導入した阪急阪神百貨店
阪急阪神百貨店は、VRではなくARを導入。顔認識技術を使ってバーチャルメイクが行えるARアプリ「YouCamメイク」を、店頭でのカウンセリング販売時やECでのバーチャルメイク機能として活用。
店頭ではカウンセリング販売時の時間短縮による生産性アップが期待でき、ECにおいては、利用者がコスメ購入前にバーチャルメイクによってコスメの色味が自分の顔に合うかどうか確認できることで顧客満足度アップが期待できる。
【関連記事】
バーチャルメイクアプリ「YouCamメイク」阪急阪神百貨店のECと店頭へ提供
顧客の囲い込みと在庫管理の効率化が図れる「ZOZO SUITS」強し!
まだこれからの「ZOZO SUITS」だが、個人的には各百貨店の施策と比べて遥かに強力だ、と感じる。
「ZOZO SUITS」はスマートフォンと連動して、装着者の採寸が可能というスーツ。採寸結果は「ZOZOTOWN」に保存される。購入者側としては、ファッション購入時に手間となる採寸や、裾詰めなどお直しの指定をショートカットできる上、確実に自分のサイズにあった商品を購入できるのが魅力だ。
「ZOZOTOWN」側からすれば、購入者への利便性提供に加えて、顧客の正確なデータを保有できる点が強みとなる。「服を買うんだったら、データが全部登録されているZOZOTOWNだろう」という形で、顧客のロックインを計ることができそうだ。
加えて、痩せていた太っていたり、背が低かったり高かったりといった体形的な理由で「買いたい服が売ってないから買わない(買えない)」という顧客以前の潜在顧客も少なからず存在しているはずだが、顧客の細かなサイズのみならず、購入頻度も計測することができるため、そういった潜在顧客のニーズを的確に掴むことができてしまう。
どのサイズの服がどれくらい売れるのかというデータをより正確に把握できれば、その分在庫管理の効率をアップして利益率を高めることができるだろう。
各百貨店も、仮に実店舗を活かした戦略を採るにせよ、ECを完全無視することはできない。そうなると、「ZOZO SUITS」に代わるような何か…。VRで実店舗での体験の魅力を増し、直にお客様にふれあう際、ARでより詳細なデータを取得する…というような制度の高いデータ蓄積と顧客囲い込みの仕組みが必要になってきそうだ。
【関連サイト】
ZOZO SUITS
Copyright ©2017 VR Inside All Rights Reserved.