マイクロソフトの開発するMRヘッドセットHololensは、他社のVR/ARデバイスと比べても高価な存在だ。MetaはHoloLensに似たヘッドセットを3分の1程度の価格で開発している。
今年中に1万台の出荷を目指して現在製造が進められている同社のMeta 2は「HoloLensに比べると操作時のレスポンスが良くない」という指摘こそなされているものの、価格の差を考えれば多少の性能差には目を瞑ることができるだろう。
他社が手に取りやすい価格を目指す一方で、エンタープライズでの採用を狙うマイクロソフトは価格よりも性能を重視しているようだ。次世代のHoloLensでは、映像や音声を分析・認識するオリジナルのAIチップが搭載されることが発表された。
AIの採用
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マイクロソフトが支援する人工知能プロジェクト
AI(人工知能)には、多くのテクノロジー企業が注目している。AIの言うことが何でも正しいとは限らないが、人間にはとても処理できない量の情報を分析・評価することができるのはAIならではだ。
もちろん高性能なハードウェアが前提として必要になり、分野によって得手不得手もある。だが、AIに適した問題を与えれば人間以上のスピードと正確さで回答を導き出してくれる。
テクノロジー企業がこの技術を有望視するだけの実績があるのも事実だ。
他業種からの期待
テクノロジー企業に限らず、技術の開発や利用に力を入れる他業種の企業もAIの利用を考えている。
例えば、アメリカの大手小売チェーンウォルマートだ。ウォルマートはVRを使った従業員のトレーニングを本格採用しようとしている先進的な企業でもあり、同社がシリコンバレーで設立したインキュベータはVRとAIの開発に積極的な投資を行うとされている。
ヘッドセットとAI
ヘッドセットに映像や音声を認識可能なAIを搭載することで、その機能が広がる。
映像を認識することで、ユーザが見ているものについて解説を表示したり、ユーザの興味がありそうな関連ニュースを表示したりといったアシスタントのような機能を持たせられるようになる。
音声を認識すればユーザのボイスコマンドによる指示に反応したり、外国語をリアルタイムに翻訳して表示したりといったことも可能だろう。
高性能なハードウェアと優れたAIがあれば、ヘッドセットの用途はどこまでも拡張できるはずだ。
AIの弱点
便利なAIだが、弱点もある。特にヘッドセットにAIを搭載することを考える上では限られたハードウェア性能がネックとなりがちだ。
スーパーコンピュータでAIを動作させる場合と異なり、ヘッドセット単体の処理能力は限られている。ヘッドセットは小型でなくてはならないため、単純な計算能力も決して高くはない。
さらに、ワイヤレスデバイスではバッテリー容量も問題だ。せっかく高度なAIを搭載していても、すぐに電池切れになってしまったのでは使い物にならない。
クラウド処理
デバイス性能の低さを補う方法として考えられるのが、必要なデータをネットワーク経由で送信して処理した結果を受け取る方法だ。
この方法ならば、クライアントとなる各デバイスの性能が低くても高度な処理を行うことが可能だ。反面高速ネットワークへの接続が必須となるので、現代だからこそ可能な方法と言える。
外部でデータを処理するのは、本体性能の低さを補うことのできる優れた方法だ。だが、データを送信しなければならないので結果を得られるまでにはラグがある。
データのサイズが小さければ問題になりにくいが、ヘッドセットを身に着けたユーザの見たものや耳にした音を全て送信するのは現実的ではない。
マイクロソフトのアイデア
HoloLens用独自チップ
先週末の日曜日、マイクロソフトはハワイのホノルルで行われたイベントでHoloLensのための新しいチップを発表した。
新しいチップは、ユーザが見ているもの、聞いている音をデバイス上で分析することができるようにデザインされている。クラウドにデータを送信するために、貴重な時間を費やしてしまうことはない。
このチップは既に開発が初められており、次世代のHoloLensには今回発表された新しいチップが搭載されるという。ただし、マイクロソフトは次世代のHoloLensが発売される時期についてはコメントしていない。
マイクロソフト謹製パーツ
この新しいプロセッサの開発において、製造を除く全てのプロセスをマイクロソフト自身が直接行うとされている。
モバイルデバイス用のチップは半導体メーカーが開発した汎用品を利用するのが一般的だ。そのため、ライバルと目される二つの企業が同じ部品を使ったスマートフォンを製造している、ということも多い。
マイクロソフトによれば、モバイルデバイス用にデザインされたチップとしては初めて全行程を一つの企業が手がける製品になるという。
オリジナルチップの流行
今年の4月には、Appleが独自のチップセットを開発してARへの対応を進めるというニュースがあった。Googleも独自にAIを動作させる第二世代のチップセットの開発を進めている。
現在のテクノロジー企業では、独自のチップを開発するのが流行だ。
消費者にアピールできる次世代のガジェット(スマートフォン、VRヘッドセット、自動運転車やスマートホームも含まれるだろう)では、高速でシームレスな処理が大前提となる。
各企業は、AIの可能性を最大限に活用するために独自のチップを開発している。
どこでもAIの時代へ
Tirias ResearchのアナリストJim McGregorは、2025年までに人々が利用する全てのデバイスにAIが組み込まれることになるだろうと言う。
「消費者は、ほとんどラグがなくてリアルタイムに処理ができることを期待しています。
自動運転車の場合を考えてみましょう。衝突事故を避ける、人を轢いてしまうのを避ける決断をするためにクラウドにデータを送信している余裕はありません。
自動走行車の取得するデータはあまりに膨大なので、全てのデータをクラウドに送信することはできません」
汎用チップでは対応できない?
一般的なCPUやGPUの処理能力は年々向上しており、VRデバイスを含む多くの機器がそうしたパーツに依存している。それらのパーツは十分に高性能で低消費電力だが、急速に発展するAIを動作させるには適していないのも事実だ。
AIの能力はニューラルネットワーク(人間の脳の仕組みを模倣した、パターンを分析する仕組み)によって支えられている。
ニューラルネットワークは様々な情報の並列処理を必要とするが、パソコンやサーバ向けにデザインされたプロセッサは直列処理のために設計されているのでAIを動かすには向いていない。
半導体メーカーもAIの動作に適したチップの開発を進めており、実際にAmazonはNvidiaのVoltaアーキテクチャを使用することを計画している。
しかし、独自にチップを構築することでこの分野で大きな力を得ようとしている企業も多い。マイクロソフトだけでなく、Googleもそうだ。
マイクロソフトの技術部門最高責任者、Kevin Scottはやはりオリジナルのチップが必要だという。
「私たちが構築しているいくつかの利用シナリオやアプリケーションのために、カスタムシリコン(オリジナルのチップ)がどうしても必要なのです」
マイクロソフトがオリジナルチップの開発に成功すれば、次世代のHoloLensには応答の速いAIが搭載されるはずだ。
発売される時期は不明だが、HoloLens 2は現行のデバイスから大きく進化したものになるだろう。
参照元サイト名:Bloomberg
URL:https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-07-24/quest-for-ai-leadership-pushes-microsoft-further-into-chip-development
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