海外メディアVRFitnessInsiderは、VRと思いやりに関する実験を紹介した。
VRによって「心からの思いやり」を植え付けることができるか?
同メディアによると、アメリカでVR体験によって他人への思いやりが生まれるかどうかを検証する実験が実施された。
同実験は、被験者をふたつのグループに分けて、一方には赤と緑の区別が困難な色盲についてのテキストを読んでもらう。もう一方のグループには、VRヘッドセットを着用して、実際に色盲をVR体験してらおう。なお、この色盲のVR体験は、VRヘッドセットに赤と緑の区別が困難になるフィルターをセットすることで実現した。
以上のような二つのグループに、以下のような三つの実験を実施した。
色盲のVR体験者は、色盲者に優しくなった
はじめに異なるかたちで色盲を体験した二つのグループの被験者に対して、現実の色盲者が赤と青のネジを識別する作業を手伝うように促した。この時、手伝う時間は被験者が自分で決めることができる。帰りたくなったら、手伝うのを止めていいのだ。
以上のような実験の結果、色盲をVR体験したグループのほうがテキストで色盲を理解したグループに比べて、色盲者を長い時間手伝うことが確かめられた。
色盲のVR体験者は、色盲の理解に貢献した
ふたつめの実験では、ひとつめの実験と同じことを実行した後に、次のようなタスクを追加した。
そのタスクとは、色盲に関するウェブサイトを閲覧してもらった後で、そのウェブサイトにどうしたらより多くのヒトがアクセスするようになるか、PC上の回答欄に自分の考えを入力してもらう、というものだ。
以上のようなタスクを追加した理由は、目の前に助けるべき色盲者がいないような環境でも色盲に関して共感しているか、ということを確かめるためだ。
ふたつめの実験でも、色盲をVR体験したグループは、色盲をテキストで知ったのみのグループに比べて、長い時間色盲に関するウェブサイトを閲覧し、より多くの単語でウェブサイトの改善点を入力した。
色盲のVR体験者は、色盲に無償で協力した
みっつめの実験は、ひとつめとふたつめの実験を繰り返すだけのものだ。ただし、実験を実施するために十分な時間を空けておいて欲しい、と事前に述べた点だけが異なる。
みっつめの実験は、被験者のなかには個人的なスケジュールの関係で、色盲者を手伝うような共感的行為に時間を割けなかった可能性があるので、そのような実験にとっては関係のない利害関係を除去する目的で実施された。
みっつめの実験を実施した結果においても、色盲をVR体験したグループの被験者は、他方のグループより多くの色盲に対する「共感的行為」を行った。
以上のみっつの実験から、色盲をVR体験したグループの被験者は、色盲をテキストで知ったのみにグループに被験者に比べて、色盲に対して損得勘定のない「無償の」共感を示した、ということが結づけられるのだ。
VRによる共感の背後にある「プロテウス効果」
以上のような実験を実施した研究者は、VR体験によって「思いやり」が植え付けられた原因として、「プロテウス効果」を指摘している。プロテウス効果とは、バーチャルに体験したキャラクターの振る舞いがそのキャラクターを体験したリアルなユーザー自身の振る舞いに影響することを指している。
色盲に関する実験をプロテウス効果に基づいて解釈すると、色盲をVR体験した被験者は色盲を文字通り「わが身」のことにように体験しているので、自然とリアルな色盲者への共感を示した、ということであろうか。
ちなみにプロテウス効果に関しては、本メディアですでに報じたことがある。以前に報じたプロテウス効果の応用例は、ダイエットに関するものだ。
VRヘッドセットに使って自分の理想的な体形をVR体験し続ければ、肥満なヒトや拒食症なヒトを健康な状態にすることができるかも知れない。
プロテウス効果のダークサイド
だがしかし、プロテウス効果を悪用するケースも考えられる。
悪用するケースに関する実験は倫理的に言って決して実行されてはならないが、一考には値するだろう。例えば、残酷な振る舞いを繰り返すようなVR体験をしたヒトは、実際に残酷になってしまうのだろうか。実のところ、このような疑問は、リアルに戦争を再現するFPSゲームにも繰り返し投げかけられている疑問でもある。
VRに関する心理実験によって次第に明らかになっていることは、VRは既存のメディアよりヒトの心理に大きく影響を与えることだ。VRの普及を願うならば、このVRがココロに及ぼすチカラを真剣に考察する必要があるのではなかろうか。
VRと思いやりに関する実験を紹介したVRFitnessInsider
https://www.vrfitnessinsider.com/study-care-others-better-person-vr/
上記記事のソースとなった論文
https://vhil.stanford.edu/mm/2013/ahn-mp-embodied-experiences.pdf
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