専用のVRヘッドセットを使ってVRコンテンツを視聴すれば、一般的な平面のディスプレイで映像を見るのとは全く違った体験が可能だ。
手の動きをトラッキングできるコントローラーを使ったり、現実での移動をVR空間の移動入力として利用できるロケーションVRならばさらに没入感は高くなる。
コンテンツの中に入り込んだ感覚をさらに強くするため、現在積極的に開発が進められているのがユーザの触覚にフィードバックを与えるためのデバイスだ。
家庭用ゲーム機のコントローラーでも利用されている振動を使ったものだけでなく、圧力によってVRオブジェクトの硬さや重さを再現するもの、デバイス自体の温度がコンテンツに合わせて変化するものなどが研究されている。
韓国企業のTEGwayが開発するThermoRealは、熱さや冷たさを生み出せる柔軟性のある素材だ。
ThermoRealの特徴
ThermoRealの他にも、VRコンテンツの中で生まれる熱の感覚をユーザに伝えることを目指しているデバイスは存在する。AxonVRの統合フィードバックシステム”HaptX”などがそうだ。
VRのフィードバックとしてにおいと温度が重要とも言われており、コンテンツ内の状況に合わせて温度を再現することができれば「その空間に自分が居る」感覚はより強くなると考えられる。
反応時間
だが、熱を素早くコントロールするのは難しい。冷たいものを温めたり、逆に温かいものを冷やしたりするには時間がかかる。映像とフィードバックに時間的なズレが生まれれば、むしろ没入感を下げてしまうことにもなりかねない。
ThermoRealの優れた特徴の一つは、反応時間の短さだ。
上の動画では左右それぞれの画面の右上にサーモグラフィーカメラの映像が加えられている。ThermoRealを埋め込んだ筒状のデバイスの温度が映像に合わせて変化するのを確認できるはずだ。
爆発シーンではすぐに温度が上がり、冷たい水に飛び込むシーンではほとんど着水と同時に温度が下がっている。この応答速度ならば、自分の近くで爆発が起きたり、自分自身が水に飛び込んだように感じられるだろう。
ThermoRealは、熱さと冷たさの他に「痛み」を作りだすこともできる。狭い面積の熱い部分と冷たい部分を作って同時に刺激を与えることで、人間は痛みとしてその刺激を認識する。
瞬間的な痛みの感覚まで作り出すことができるのは、短時間で温度を変化させられるThermoRealならではだ。
温度変化の大きさ
![ThermoRealプロトタイプデバイス](http://vrinside.jp/wp-content/uploads/thermoreal-tegway-3-640x360.jpg)
プロトタイプのデバイス
少し暖かい、言われてみれば冷たい、程度の温度しか作り出せないデバイスでは、極端な環境のVR映像に合わせたフィードバックを提供することはできない。
ゲームでは火山や氷に閉ざされた世界を冒険することも多いし、アクション映画に爆発シーンは付き物だ。こうしたコンテンツへの没入感を生み出すには、高い温度・低い温度を作る必要がある。
開発者はプロトタイプのデバイスが体温プラス4度までしか熱くならないと説明しており、サーモグラフィーカメラで処理された映像を見ても40度程度にしかなっていない(下は13度まで下がっている)
ほどよく暖かい程度の温度にしかなっていないにもかかわらず、体験者は火傷を心配するほど熱さを感じたという。
おそらく、これには温度変化の速さと振れ幅の大きさが関係している。ThermoRealは温度を素早く変化させられるので、実際の温度変化以上に大きく温度が変わったように感じられるようだ。
柔軟性
![柔らかなThermoReal](http://vrinside.jp/wp-content/uploads/thermoreal-tegway-6-640x360.jpg)
柔軟性の高い素材は様々なデバイスに組み込める
温度の再現能力に優れていても、実際にデバイスに組み込むことができなければ意味がない。ThermoRealは柔軟性が高いため、様々な形のデバイスに利用できそうだ。
コントローラーに内蔵するだけでなく、身体に直接付けるタイプのデバイス(例えば手袋やベスト)に組み込むこともできるだろう。
開発者は、ThermoRealが「世界で初めての高性能で独立した、電気を熱に変換する装置」だという。
応用の可能性
移動する熱源
ThermoRealは、素材全体で熱さや寒さを作り出すわけではない。痛みを作り出すときに熱さと冷たさを同時に利用していたことからも分かるように、ある部分だけに熱を持たせることも可能だ。
この性質を活かせば、上の動画のように熱いものや冷たいものが移動する感覚を再現できる。圧力を使ったフィードバックデバイスと組み合わせれば、「熱いシャワーを浴びる」「冷たい手に腕を掴まれる」といったシチュエーションにも細かく対応できそうだ。
サイズの問題
![ゲームパッドに組み込まれたThermoReal](http://vrinside.jp/wp-content/uploads/thermoreal-tegway-2-650x366.jpg)
ゲームパッドに組み込まれたThermoReal
ThermoRealは熱のフィードバックを提供することに関して優秀な性質を持っているが、ハードウェアの小型化と省電力化が課題だ。
ThermoRealを動作させるために大きなハードウェアが必要な場合、他のデバイス(特にウェアラブルデバイス)への組み込みが難しくなってしまう。
また、電力の消費を抑えてバッテリーで長時間駆動できなければケーブルに縛られたものになってしまうかもしれない。
耐久性の問題
加えて心配なのが、耐久性の問題だ。頻繁に熱くなったり冷たくなったりを繰り返すThermoRealそのものがどの程度の耐久性を持つのかは不明である。
さらに、ThermoRealを内蔵したデバイス内の他パーツにも温度変化によってダメージを与えてしまう可能性がある。
デバイス全体の寿命が短くなるようであれば、採用は難しいだろう。
生産予定
発表されていない価格も含めて解決しなければならない問題は残されているが、TEGwayは今年の後半もしくは来年の初めに商業用途での生産を始める予定だという。
ThermoRealそのものは非常に薄くて柔軟性のある素材だが、Road To VRで試したプロトタイプデバイスは大きな装置と有線接続する必要があったという。
VRヘッドセットのワイヤレス化が進められている状況を鑑みると、有線接続で電力供給を受ける形は考えにくい。実用化にあたって最大の焦点は小型化&省電力化の実現になりそうだ。
価格を抑えて小さくすることができれば、温度を感じられるVRが次のトレンドになるかもしれない。
参照元サイト名:Road To VR
URL:http://www.roadtovr.com/tegway-thermoreal-thermoelectric-skin-thermal-haptics-vr/
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