手術室は、VR/AR技術が積極的に採用されている場所の一つだ。VR技術を使えば難しい手術を事前にシミュレーションすることができ、AR技術で画像に情報を追加すれば医師の作業を支援できる。
カナダのモントリオール州にあるマギル大学のヘルスセンター(MUHC)は、北米大陸で初めて副鼻腔の手術にVR/AR技術を使用する機関となっている。
副鼻腔の手術
花粉症や鼻炎の人にとって、ティッシュは欠かせないアイテムだ。鼻をかむことでスッキリするならば良いが、風邪を引いてから長期間に渡って鼻水が続く場合や顔の痛みが出てきた場合には副鼻腔が炎症を起こしているかもしれない。
副鼻腔が炎症を起こした状態が副鼻腔炎だ。その状態が長く続くと慢性化し、場合によっては手術が必要となることもある。細菌や真菌の感染によるものの他、虫歯が原因で副鼻腔炎になることもあり、原因に合わせた治療が行われる。
副鼻腔の場所
副鼻腔は4つあり、それぞれ額(眉頭のあたり)、目頭の奥とそのさらに奥、鼻の脇(頬の内側)に存在する。鼻というと顔の表面にある鼻だけをイメージしがちだが、実はかなり大きな空間に繋がっているのだ。
生まれつき形に問題がある場合や感染への対策として副鼻腔の手術が行われることがあるが、そのときに問題となるのが副鼻腔の場所だ。顔(頭)にある副鼻腔の周りには視神経や脳といったデリケートなパーツがあり、傷つけてしまえば重篤な後遺症が残る可能性もある。
副鼻腔自体も複雑な構造をしており、個人差もあるので扱いが難しい。VRとARの技術は、この難しい手術で患者の安全を確保し、なるべく効果的な処置が可能になるように医師を支援するために使われている。
TGSシステム
目標誘導手術(Target Guided Surgery/TGS)として知られる最先端の技術が手術室で使われる内視鏡システムと統合されている。内視鏡が見た患者の体内の映像にARで情報が表示されることで、医師たちには多くの情報がもたらされる。
手術前に患者の副鼻腔の形を分析し、計画した経路がARによって内視鏡の映像に重ねて表示されるため、医師は次に切るべき場所を正確に把握することが可能だ。これによって不要な組織を傷つけることが少なくなり、予定した通りの経路を確保しやすくなる。
TGSはベルリンに拠点を置く企業Scopisが開発した技術だ。この技術は顔・頭蓋骨の他に脊椎や神経に関わる手術にも利用できる。
医師のコメント
患者と医師へのメリット
この高度なナビゲーションシステムを用いて初めて手術を行ったMUHCのMarc Tewfikは、TGSを利用することのメリットについて語っている。
「TGSを使うことの目立ったメリットの一つは、安全な手術が実現することです。患者の重要な解剖学的構造を理解することで、どこを処置すべきかを判断することができます。
内視鏡を使った副鼻腔の手術は特に複雑ですが、この技術を使うことで安全性が増し、同時に手術時間の短縮にも繋がります」
内視鏡での手術は、患者の身体を切開して直接触れる場合に比べて肉体的な負担が小さく、大きな傷を残すこともないという利点がある。そのため、副鼻腔炎の手術は現在でも内視鏡を使って行われることが多い。
しかし、内視鏡での手術は視界が狭く、直接手でメスを持つ場合に比べて動きの精密さも制限されるなど欠点もある。
不便さのために手術の時間が長引けば、患者にとって負担が大きいだけでなく医師の集中力も落ちてしまうだろう。重要な神経が近くを通る副鼻腔の手術では緊張状態を保たなくてはならず、消耗が激しいはずだ。
TGSを使えば誤って重要な神経を傷つける可能性が下がり、手術時間の短縮も期待できるとメリットが多い。以前からCT画像に手術器具の位置を重ねて表示するシステムなどは使われており、TGSはそれをさらに発展させた技術と言える。
教育への利用
TGSは手術をサポートするシステムだが、それ以外の用途も考えられている。教育への応用だ。
MUHCのNader Sadeghiは、Scopisのシステムが手術の計画段階を実際の手術と同様に記録することに注目している。この機能は、あらゆる手術を教育のための教材として使えるようにするものだという。
実際に行われた手術やその計画段階のデータを使えば、医学生への教育や患者への説明にリアリティが加わる。難しい手術への挑戦と教育の両方に取り組むMUHCにとってこの技術は助けとなるに違いない。
参照元サイト名:McGill Reporter
URL:http://publications.mcgill.ca/reporter/2017/06/muhc-takes-augmented-reality-into-the-operating-room/
参照元サイト名:Scopis Medical
URL:http://navigation.scopis.com/tgs
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